第23話【アイテムバックをパワーアップさせる】
紆余曲折の末、【虚空魔法】という凄い魔法を手に入れた俺なのだが、結局【物作り】の役にしか立たないというのは【無属性魔法】と同様だった。
例え【EX】になったとしても【空間を圧縮する】以外の使い道がない。
え? 【例の事件】の時のように圧縮した空間に方向性を持たせて解放すれば凄い攻撃手段になるだろうって?
く・に・を・つ・ぶ・す・き・か?
あれ、手加減出来ないというか100万以上【MP】を圧縮しないと威力が出ないので、街中で使うと冗談抜きで国を半壊させますわ。
【魔女】の【国堕し】とどっちが厄介か悩むところだ。
そういう訳で、結局エルフの里に転移する手段を確保することは出来なかったのだけれど……。
「むふぅ♪ 瞬間移動なのです! とぉっ……!」
ユヒメが楽しそうにポーズを取って固まり……。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………トシさん? まだなのです?」
「ちょっと待って。今【MP】を流し込んで……あ」
ユヒメの姿がフッと消えて、次の瞬間には俺の目の前に現れた。
「ヒメ参上なのです♪」
そして再び楽しそうにポーズを取るユヒメ。
距離にしてたったの数メートルだけど【瞬間移動ごっこ】が出来て楽しそうだ。
ユヒメがやっているのは【精霊の召喚陣】を使った瞬間移動ごっこだ。
この【精霊の召喚陣】は呼び出したい精霊を思い浮かべて【MP】を流し込むと、任意の精霊を召喚することが出来る。
消費する【MP】は距離に比例するらしいが、俺が使う分には問題ないのでユヒメを召喚する際3万くらい【MP】を流し込んで起動している。
「にゅふふ♪ トシさん、もう1回なのです! もう1回お願いなのです!」
「ユヒメ……次は……私の番」
勿論ドリアードのユヒメだけではなく、ウンディーネのシーリアも召喚出来る。
特にシーリアは【瞬間移動】に思い入れが強いらしく、【瞬間移動ごっこ】に乗り気だった。
そうして交互に【瞬間移動ごっこ】を繰り返すユヒメとシーリア。
「……楽しそうですね」
それを羨ましそうに見ているユリアナさん。
なんかユリアナってこういうイベントに参加出来なくてションボリすること多いよね。
【精霊の召喚陣】は文字通り精霊しか召喚出来ないので獣人のユリアナを召喚しろと言われても無理だけど。
「俺としては転移でエルフの里にいけなくてガッカリなんだけどな」
折角使えるようになった【虚空魔法】だが、使い道は未だに迷走中だ。
今のところ【アイテムバック】を作る以外に出来ることがない。
その夜。
「うぅ~。今日は酷い目にあいました」
いつもの如く、休日の【人助け】から帰って来たエルシーラはションボリしていた。
「なんかあったの?」
「はい。私の【アイテムバック】が盗まれそうになりました」
「……はい?」
「幸い、犯人は直ぐにアイリスが取り押さえてくれたので事なきを得たのですが、危ないところでした」
「ああ。【アイテムバック】って、この世界だと【遺失アイテム】だからな」
昔――レヴァノより何代か前のクロノスの一族の中には人間と友誼を結び、その友情の証として【アイテムバック】を送ったことがあったそうだ。
結果から言えば強欲な人間に目を付けられ、レヴァノのご先祖様は捕らえられて【アイテムバック】を作り出すことを強要される羽目になったらしいが。
以来、クロノスの一族では当時の【アイテムバック】を見つけるたびに回収して破棄する義務が発生したようだ。
この世界に【アイテムバック】が希少な理由の1つだ。
それ以外にも【アイテムバック】には寿命がある。
俺の使う【無属性魔法】なら一度【MP】を結晶にしてしまえば、術者本人が解除しない限り半永久的に結晶として残る。
けれど【虚空魔法】は空間を【圧縮】することに【MP】を使い続けるので僅かずつではあるか確実に【MP】は消費され続ける。
他にも【アイテムバック】の中身を取り出しやすいように独自の術式を組み込んであるので【MP】の消費が早いということもある。
だが、【MP】を消費したなら【MP】は補充すれば良いだけの話だったのだ。
勿論、補充する為には【MP】を【MP】のまま放出できる【無属性魔法】の使い手が必要になる。
しかし、この世界の人間は【無属性魔法】に役立たずのレッテルを貼ってしまったので、【無属性魔法】の使い手が極端に少なくなってしまった。
結果、長い時間が経ち【アイテムバック】の【MP】を【無属性魔法】で補充出来るという事実すら忘れられていった。
そうなると【アイテムバック】が失われるのも時間の問題だった。
クロノスの一族の活躍もあって【アイテムバック】は、この世界からほぼ一掃された。
ひょっとしたら、最初にレヴァノのご先祖様と友誼を結んだ人間の子孫辺りには【MP】の補充方法などと一緒に残存しているかもしれないが、それ以外は全滅だろう。
故に【アイテムバック】は【遺失アイテム】と呼ばれる。
「そんな貴重な物だと分かったら、盗みたくもなるか」
「うぅ。どうしましょう?」
「アイリスに持っていてもらえば?」
「ああ、それは良いですね! 中に入っているのはポーションなので私が持っている必要はないですし、アイリスなら預けても安全です!」
あっさり解決手段を提示されたエルシーラはパッと顔を輝かせる。
相変わらず見た目と違って図太い女だ。
◇
「あぁ~、落ち着く」
俺はロアを頭に乗せたまま店番をしていた。
【賢者の石】がどうとか、【虚空魔法】で転移が出来ないとか色々問題は残っているが、今すぐ解決出来ることでもないので全て保留にして店番に精を出していた。
「いらっしゃいませぇ~」
そうして時々やってくるお客に対応したり、頭の上のロアを撫でたいという女性客に応対したりして過ごす午後。
「【聖女】様が【アイテムバック】を持ち歩いていたという噂を聞きましてな」
「……ナンノコトデセウ?」
例によって例の如く、耳の早い【組合長】がやってきて、ニコニコしながら俺に問いかけてきた。
「まさか伝説の【虚空魔法】とは思いませんでしたぞ。人間には不可能だと聞いていたのですが……長生きはするものですな」
「……1個だけですからね」
「勿論ですとも♪」
結局、口止め料に【アイテムバック】を1個進呈することになってしまった。
この爺さん+【鑑定の片眼鏡】は物凄く厄介な組み合わせなんですけど!
「それに……【秘薬】までもう1歩というところですな」
「……お陰さまで」
当然ユヒメが【調薬Ⅸ】になったことも知っていて、あからさまな【秘薬】アピールをしてくる。
この強欲爺がぁ~。
でも都合は良いのに、折角だから【妖精の粉】と【世界樹の葉】を入荷出来ないか聞いてみる。
「それは難しいですな。エルフの里まで数ヶ月、往復を考えれば1年は掛かってしまいますし、そもそもエルフとの交渉が成功する保障がありません。もしも交渉が成功したとしても材料を持ち帰るまで数ヶ月掛かりますから鮮度が保障出来ません」
「結局、【魔女】に頼りきりですか」
「【転移魔法】というのは我々商人からすれば垂涎の魔法ですな」
「……同感です」
それが目当てで【虚空魔法】を覚えたようなものだ。
結果は失敗だったけど。
【組合長】が帰ってから俺は【ユヒメの調薬室】という名の居間に様子を見に行ってみると……。
「ん~っ……! はぁ~っ……! むぅ~っ……!」
「…………」
何故かユヒメさんがパワーを溜めていた。
「……なにやってんの?」
「あ」
パワーを溜めていたユヒメさんは俺に気付くと――真っ赤になった。
「ち、違うのです! これは【瞬間移動】の練習をしていたのではなく……そう、【調薬】前の儀式なのです!」
「ほぉ」
どうやら【瞬間移動ごっこ】が余程楽しかったらしく、自力で【瞬間移動】出来ないか試していたようだ。
その姿は、なんというか――大人になってから【かめ○め波】の練習をしている姿を子供に見られて言い訳しているお父さんって感じだった。
「うんうん♪ わかってるよ♪ わかってるから♪」
「と、トシさんが凄くイジワルそうな顔をしているのです!」
こんな面白そうなネタを弄らずに、他になにを弄れというのかね?
「さぁユヒメ。一緒に【瞬間移動】の練習をしようじゃないか♪」
「ち、違うのですぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!」
いやぁ。好きな子を苛める小学生男子の気持ちが少しだけ分かったわ。
「むぅ。トシさんのイジワルなのです!」
「ごめんってば」
流石に少々弄りすぎたのか、傾いてしまったユヒメのご機嫌を取る為に抱き締めて頭を撫でる。
「ぜったいのぜったいに内緒なのですよ? バラしたらゼッコーなのですよ?」
「うんうん。俺は言わないけどシーリアあたりは既に知っている可能性大だけどな」
「はぇ?」
シーリアのスキルである【同化】は、水を目の延長として使うことが出来るので店の周辺に視点を広げることが出来る。
シーリアが裏庭の小さな泉で寛いでいる時は店全体を見ているときのポーズだ。
「ん~っ……はぁ~っ……むぅ~……」
そして裏庭を覗いた俺達が目にしたのは、先ほどのユヒメのポーズを真似るシーリアさんだった。
シーリアは結構こういうことには乗ってくれる性格だ。
「にゃぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!」
頭を抱えて床をゴロゴロ転がるユヒメさんというレアな姿を見られて満足だ。
ユヒメさん可愛い♡ ほっこりするわ。
「グッジョブ」
「ん……ユヒメ弄り……最高」
俺がサムズアップすると、シーリアも同様に親指を立ててきた。
ユヒメ大好き連合は今日も健在である。
「うぅ、もうお嫁にいけないのです。責任を取ってもらうのです」
「うんうん♪ いくらでも責任は取るから元気だそうよ。はい、トマトジュース」
「……ありがとなのです」
ユヒメがお礼を言ったのは渡したトマトジュースに対するものなのか、それとも――責任を取ると言った方なのか、今夜にでも追及してみたいと思う。
◇
ここは【勇者】【魔法使い】【精霊】【聖女】なんて居る世界なので、当然のように【賢者】と呼ばれる者が存在する。
「【金貨】1000枚! 【金貨】1000枚出すから!」
「……困ります」
で。その【自称賢者】が店にやってきて【アイテムバック】を売ってくれと頼み込んできた。
なんというか普通に白髪で長い白髭を生やした人間の爺さんなのだが、長年【アイテムバック】を捜し求めていたらしく、俺が持っている【アイテムバック】をどうしても譲って欲しいといって聞かなかった。
恐らく【組合長】と同じくエルシーラ経由で情報が洩れたと思われる。
「ここは【ポーション屋】であって【アイテムバック屋】ではないのですが……」
「それなら店のポーションを全部買うから!」
「……困ります」
買占めとか普通に迷惑だ。
「それならコレっ……! 【精霊石】を付けるから!」
「…………」
「巷で有名な【賢者の石】も付ける!」
「…………」
この爺さん、どんだけ金を持っているんだ。
なんか、もう1個くらい売ってもいい気がしてきたのだが……。
「ワシの研究に……【時空魔法】の研究にどうしても【アイテムバック】が必要なのじゃ!」
「……はい?」
結局、色々と話を聞くために閉店まで待ってもらうことになった。
【賢者】の爺さんはウルスと名乗った。
まぁ、爺さんの名前なんてどうでも良いから【賢者の爺さん】としか覚えるつもりはないけど。
「【時空魔法】と言ったが、正確には【凍結魔法】や【停止魔法】などと呼ばれておる。そして司る精霊の名は……【コキュートス】じゃ」
「…………」
俺の記憶が正しければ、それは【氷結地獄】の名前だった筈。
「この精霊は兎に角、なんでも凍らせてしまう。それがたとえ時間でもじゃ」
「…………」
「それを利用しワシは【アイテムバック】の中の時間を止めてしまおうと考えた。通常の鞄でも実験はしてみたが、なんといっても相手が伝説級の精霊が使う魔法……どれほど規模を縮小しようにも最低でも10㎥の広さが必要じゃった」
「ふぅ~ん」
俺が作った【アイテムバック】は1㎥程度の容量しか持たない。
それが限界なのではなく、それ以上は必要なかったというだけだが。
正直、あまり容量を大きくしすぎるとエルシーラがドンドン倉庫のポーションを詰め込んでしまうので、歯止めを掛ける意味もある。
「実際に10㎥の範囲に、その【時空魔法】だか【氷結魔法】は成功したんですか?」
「成功した」
【賢者】の爺さんは断言した。
断言したが……。
「だが、それも一瞬のこと。数秒で魔法は解け、再び時間は動きだしてしまった」
「…………」
「だからこそ【アイテムバック】が必要じゃった。空間を圧縮し、それを鞄に固定する技術というものを学びたかったのじゃ」
「ああ。実験だけじゃなく研究もしかかったのね」
【アイテムバック】の構造を解析し、その技術を使って【時空魔法】とやらを完成させるつもりだったのだろう。
「…………」
それにしても、人のことは言えないが、精霊にしか使えないはずの【時空魔法】を人の身で断片とはいえ使いこなすとは、伊達に【賢者】と呼ばれていないらしい。
「実験が成功すれば、中の時間を止める【アイテムバック】が完成する。完成の暁にはお主に【アイテムバック】を返しても良い! だから頼む!」
「ふむ」
色々考えて、他の皆とも相談した結果――契約書を書かせた上で【賢者】に【アイテムバック】を1つ進呈することになった。
「ありがたい!」
「……頑張ってください」
正直、情報料の対価として無料であげてもよかったんだけどね。
ちなみに【金貨】1000枚と【精霊石】に劣化版【賢者の石】も貰った。
別に必要じゃないけど、貰えるものは貰っておいて損はないだろう。
そして俺達は【精霊の召喚陣】を使って【コキュートス】を呼び出した。
「……何用じゃ?」
「ちょっと協力して欲しいんだけど」
そうして俺は中の時間が停止した【アイテムバック改】を人数分作ることに成功した。
いやぁ~。あの【賢者】には感謝だね♪
◇
「この【精霊石】って何に使えるんだ?」
「ヒメはわからないのです!」
【賢者】がおいていった【精霊石】を皆で調べてみる。
一方、劣化版【賢者の石】は皆が嫌悪したので少し調べて直ぐに廃棄してしまった。
一応【鑑定石】で見てみたが、正式名称は【魔力増幅石】となっていた。
で。問題の【精霊石】なのだが……。
「私には綺麗な宝石にしか見えません」
「何か力は感じる気がしますが……使用用途は分かりませんね」
ユヒメに続いて、ユリアナもエルシーラも分からないらしい。
「【精霊石】は……儀式で……生贄の代わりに……使う」
で。やっぱり頼りになるのはシーリアさんだった。
「ふむふむ。つまり【精霊の召喚陣】で【MP】の代りに消費して精霊を呼び出したりするわけか」
「……そう」
構造はどうやら自然界の【
少し俺の【無属性魔法】で作られる結晶に近いが、篭められた魔力の純度が違うらしい。
「と言っても俺らには必要ないよな?」
「はいなのです。トシさんが居ればいらないのです」
俺の膨大な【MP】があれば態々生贄なんて用意しなくても良いし、それの代用品も必要ない。
「今度【魔女】が来た時にでもプレゼントするか」
「あらあら。ありがたいけど、それは取っておいた方が良いわよ」
「あ。いらっしゃいませ」
噂をすれば影――【魔女】の来店だった。
「これ……何か使い道でもあるのですか?」
「うふ♪ その前のこっちが例のものよ」
「あ」
【魔女】が俺に渡してきたのはエルフと交渉していた【調薬Ⅹ】のレシピだった。
「……なるほど」
そして、その【調薬Ⅹ】に必要な材料の1つに【精霊石】が含まれていた。
「【精霊石】は貴重な品よ。私もいくつか持ってはいるけど、お金を出せば手に入るものではないわ」
「【調薬Ⅸ】もそうですが、【調薬Ⅹ】の商品も簡単に作れそうにないですね」
「材料の問題はねぇ~」
【調薬師】であるユヒメの腕は問題なくても、肝心の作るための材料がないのでは話にならない。
「【精霊石】は良いとして……【不死鳥の羽】なんてどうやって手に入れるんですか?」
「流石に私の手持ちにも無いわねぇ~」
「……頑張って探しておきます」
「期待しているわ♪」
そうして【魔女】にプレッシャーを掛けられて俺はゲンナリしながら情報を集めることにした。
爆乳ドリアードさんと【ちゅ~ちゅ~】してポーション屋さんを繁盛させる話。 @kmsr
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