第3話【はいていない事実が発覚した】
ユヒメに魔法を教わる事になったのだがハッキリ言ってしまえば……。
「(まるで分からない)」
全く理解出来ない事だらけだった。
ユヒメが扱えるのは【植物魔法】だけなので当然俺も【植物魔法】を教わるのかと思っていたのだが……。
「ヒメは【属性】が【植物属性】だから【植物魔法】を使っているだけなのです。トシさんは【無属性】なので【無属性魔法】を覚えると良いのです」
「ああ。俺って属性が無い訳じゃなくて【無属性】だったのか」
というか【無属性】ってなんぞ?
「知らないのです!」
「そ、そうですか」
常時こんな感じだったのでユヒメに魔法を教わるというよりは、勝手に【無属性魔法】を覚えろと言われているようなものだ。
一応ユヒメから魔法の扱い方のようなものは教わっているのだが……。
「実を言うとヒメもトシさんに【MP】を貰うまでは魔法は使った事がなかったのです!」
「ですよねぇ~」
今まで【MP】が不足していたので魔法なんて使った経験がある訳が無い。
「(サッパリ分からん)」
そういう訳で俺は益々魔法への理解が遠ざかっていたのだけれど……。
「【ポーション精製】なのです!」
「…………」
ユヒメが一生懸命頑張っている姿を見て何もせずに諦めるというのは――凄く失礼な気がした。
「(とりあえず【分からない】とか【出来る訳ない】と考えるのは辞めよう。そんな事は考えるだけ無駄だし……自分に言い訳しているみたいだ)」
分からないなら唯ひたすらに【無心で集中する】だけでもやらないよりはマシだ。
出来ないにしてもユヒメに言い訳出来るくらいは【何か】をやっておかないと――いずれユヒメに顔向け出来なくなる。
そして俺はユヒメが調薬をしている間、唯ひたすらに【無心で集中する】という事だけを繰り返し続けた。
その結果……。
・佐々木俊和:レベル2
HP 12/12 MP 2300000/2300000
種族:人間 属性:無 職業:無
筋力:6
敏捷:5
体力:6
魔力:999
器用:12
幸運:1
スキル:【無属性魔法Ⅰ】【エンゲージ】
「おぉぉ~。マジか」
なんと本気で【無属性魔法】を習得する事が出来てしまった。
「おめでとうなのです! トシさんなら絶対に出来ると信じていたのです♪」
「ああ。ああ! ありがとう、ユヒメ!」
俺は猛烈に感動してユヒメを強く抱き締めた。
抱き締めて……。
「それで【無属性魔法】って何が出来るんだ?」
「ヒメは知らないのです!」
「ですよねぇ~」
【鑑定石】を使って確認したらスキルが追加されていたというだけで【無属性魔法】を使えるようになった訳ではないのだ。
「考えても分からないから次に街に行った時にでも調べてくるよ」
「頑張るのですよ!」
「うん。頑張る」
とりあえず俺が自分に出来る事を頑張っている限りユヒメには見捨てられずにすむ気がする。
◇
ユヒメの【ポーション】を売るついでに街で【無属性魔法】について調べた結果、要するに【無属性魔法】とは【魔力】をなんの属性にも変換しないで【魔力】のまま行使する魔法の事だった。
つまり【魔力】を体から放出して、それを自分で好き勝手に固めて、それを使って自分勝手に何でもやりやがれ――という魔法だった。
「サッパリわからないのです!」
「うん。俺も分からない」
しかし分からないなら分からないなりに色々とやってみる。
魔法の実験なので一応人気のない場所を選んで試行錯誤を開始する。
「まずは【魔力】を体から放出して……」
「わくわく。ドキドキ」
「……なぁ、ユヒメ」
「はいなのです!」
「【魔力】ってどうやって放出するんだ?」
「わからないのです!」
「ですよねぇ~」
「でも、きっと【MP】の事だと思うのです!」
「ああ。それはそうか」
「だから、いつのヒメにやっているみたいに【MP】を体の外に出せば良いと思うのです!」
「なるほど」
確かにユヒメの言う通りだった。
いつもユヒメに【MP】を譲渡する感覚で【掌から放出するイメージ】を空に向けて――ドバっと何かが大量に溢れて空へと舞い上がっていくのを感じた。
「と、トシさんっ! それは出しすぎだと思うのです!」
「へ? へ?」
ユヒメに注意されても俺自身何をやっているかがまるで分からない。
唯ひたすらに掌から【MP】が空に舞い上がっていくという感覚を味わって……。
「な、なんだか危ない気がするのです!」
「ど、同感だ!」
分かっちゃいるけど止められない。
まるで壊れた水道のように【MP】がドンドン体の中から抜けて行き……。
「抜けていく傍から回復してるぅ~!」
抜けて行く傍から回復しているのが手に取るようにわかってしまった。
「トシさんっ! ギュッとするのです! ギュッと締めて止めるのです!」
「そ、そうか! 水道の蛇口を捻るみたいにギュッとすれば良いんだな!」
とりあえず、そんなイメージでギュッと締めて……。
「あ」
「と、止まったのです」
なんとか【MP】の放出を止める事に成功した。
「うぅ~ん」
で。一応【MP】の流出は止まったが【これ】どうしよう。
俺が放出してしまった膨大な【MP】は俺の掌から空に向けて未だに待機状態で存在していた。
「確か、これをギュッと固めて……」
適当に【剣】をイメージして……。
「重っ……!」
俺の【MP】が【巨大過ぎる剣】となって実体化して俺の手を離れ……。
「と、トシさん? 倒れるのですぅ!」
「あわわわ……」
空まで届く巨大な剣がゆっくりと倒れていく。
「 「 ぎゃぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~! 」 」
そして俺とユヒメの悲鳴を残し――地平線の先まで大地に深く傷跡を残したのだった。
とりあえずあの事件の後、全力疾走で現場を逃げ出した俺とユヒメなのだが……。
・佐々木俊和:レベル2
HP 12/12 MP 2300000/2300000
種族:人間 属性:無 職業:無
筋力:6
敏捷:5
体力:6
魔力:999
器用:12
幸運:0.5
スキル:【無属性魔法EX】【エンゲージ】
気付いたら【無属性魔法】のレベルの限界を超えて【EX】になっていた。
普通は【Ⅰ】~【Ⅹ】までしかない筈なんだけどなぁ。
「なんで?」
「あれだけ派手な事をすればあたりまえなのです。魔法の熟練度が一気に上がって限界を超えたのです」
「狙ってやった訳じゃないんだけどなぁ」
「今度はちゃんと制御出来るように練習するのです!」
「うん。気をつけて練習するよ」
暫くは魔法を制御する訓練をする事になりそうだ。
追伸・幸い、あの事件で死者は出なかったらしい。
追伸2・よく見たら俺の【幸運】が【0.5】に下がっていたよ。トホホ。
◇
ついにユヒメの作る【ポーション】の売り上げが【金貨】10枚を越えた。
これはつまり日本円に換算して1000万円に相当する。
「これだけあればお店を買えるのです!」
「うんうん。一等地のお店は無理だが普通のお店なら買えるね」
「とりあえずお庭に畑を作れるお店が良いのです!」
「その条件を加味すると街の郊外になるけど構わないのか?」
「ドンと来いなのです!」
という訳で俺とユヒメは【金貨】10枚を持って王都の不動産屋へと向った。
「え~。お客様の条件ですが……この家が精一杯でして」
俺とユヒメが不動産屋に案内されたのは予想通り王都の端にある郊外の一軒家だった。
「凄く広い土地なのです! これなら広い畑を作れるのです!」
「荒れた土地が放置されているだけにしか見えないけどな」
「お家が木で出来ていて素敵なのです♪」
「木造のボロ屋にしか見えません」
正直、不動産屋が【本気でここに住むの?】みたいな目で見ていたが、その分割引してくれたので【金貨】6枚ほどで購入する事が出来た。
「まずは家を住める状態にしないとなぁ」
「わくわくするのです!」
「俺はドキドキしています」
具体的にはいつ崩れるか分からなくてドキドキする。
とりあえず家の中に入ってみるのだが……。
「は、柱が虫食いだらけで今にも倒れそうなんですけど」
「こ、これは流石にヒメの【植物魔法】でも補強は不可能なのです」
「補強……か。そうだ」
俺は崩れ掛けの柱を両手で支えて、練習によって精度の増した【無属性魔法】を発動させる。
「トシさん?」
具体的に言うと柱の虫食い部分に【MP】を浸透させていき……。
「頑丈で崩れない柱」
イメージと同時に【MP】も固定する。
「ふぅ。なんとか上手くいったな」
結果、俺の【MP】と木材の交じり合った頑丈な柱が出来上がった。
「凄いのです! 流石なのです、トシさん!」
「ああ。俺の魔法って結構応用が効くみたいだな」
確実に戦闘には向いてないけど、こういうちょっとした事をする時には非常に便利だ。
ん? 俺の【MP】で補強した柱がいつまで実体化していられるかって?
この【無属性魔法】って一旦実体化すると結晶のように固まるので俺が自分の意思で解除しない限り永続的に実体化したままだ。
但し、余り衝撃には強くないので例の【巨大過ぎる剣】みたいに地面に強烈な勢いで叩きつけてしまうと粉々に砕け散って霧散してしまう。
まぁ、お陰で俺がやったという証拠は何も残っていないから助かったのだけど。
「さぁ。必要なところを補強して早く住めるようにしてしまおう」
「はいなのです!」
俺は柱に限らず床や壁、更に屋根に至るまで俺の【MP】で補強していき家を頑丈にすると同時に見栄えを良くして行った。
家の補強作業に約3日掛かった。
その間、ユヒメは家の庭を耕して畑を作っていた。
「流石【ドリアード】、土の扱い方はお手の物だな」
「えっへん、なのです♪」
俺が家の補強を終えると同時期にユヒメも畑を作り終えて野菜や薬草の種を撒いていた。
「大きくなるのですよぉ~♪ 大きくなるので~す♪」
ユヒメは楽しそうに種を撒いて――彼女が腕を振る度に大きなお胸がプルンプルン揺れて目を惹きつけられた。
「(眼福じゃぁ~)」
とりあえず休憩しながらユヒメの種蒔きが終わるのを待っていた。
「後はお水をあげるのです♪」
最後に水撒きをしようとユヒメは井戸に近付いて……。
「はれ?」
井戸に縄付きの桶を投げ入れて困惑した。
「トシさ~ん。この井戸お水が入っていないのですよ~?」
「はい?」
そんな馬鹿なと俺はユヒメに続いて井戸に桶を投げ入れて――【カツーン】という乾いた音が返ってきた。
「マジで枯れ井戸でした」
「ど、どうするのです? お水が無いと植物は生きていけないのです!」
「いや。人間も普通に生きていけないけどね」
ともあれ何とかする必要がある。
「井戸自体はある訳だし、周辺の家の井戸が枯れている訳でも無いんだから……もっと深く掘れば良いんじゃないかな?」
「どうやって掘るのです?」
「う~ん」
少し考えてみる。
「要するに、必要なのは……【ドリル】だな」
「どりる……ってなんです?」
「まぁ、見ててよ」
俺は再び【無属性魔法】を行使する。
いくら応用が利くといっても動力源もなしに【ドリル】を回転させる事は出来ない。
だから井戸の上空に【長くて重くて硬いドリル】を実体化させる。
更に落下と同時に回転するように工夫して――あとは自由落下に任せて井戸の底へと回転しながら落ちていく!
結果、ギュルギュル音がして井戸の底を高速で掘り進んでいるのが分かった。
「おぉ~。凄いのです」
「流石に1回では無理みたいだな」
という訳で【ドリル】解除して同じ事を2度3度と続けていくと……。
「あ」
何かをぶち抜いた音が響き渡り、井戸の底の方から何かが湧き上がって来る音が聞こえてくる。
「無事に水が沸いたみたいだな」
「早速畑に水遣りをするのです♪」
「折角だから【手押しポンプ】も作っておこう」
井戸の端に【無属性魔法】で実体化させて作った【手押しポンプ】を設置して、そこから井戸の底まで同じく【無属性魔法】で作ったパイプを伸ばしてく。
「よいしょ……よいしょ……」
【手押しポンプ】のハンドルを上下させる俺をユヒメが不思議そうな顔で見ていたが、直ぐに【手押しポンプ】から水が大量に吐き出されると顔を輝かせて喜んだ。
「凄いのです! トシさんは天才なのです!」
「いやぁ~。俺の世界だと旧式の道具なんだけどねぇ」
ともあれ水を確保出来るので今度こそ畑に水撒きをする。
「元気になるのですよぉ~♪ 元気に育つのですよぉ~♪」
まぁ、基本的には俺が【手押しポンプ】を動かしてユヒメが水を撒く係りだけど。
◇
こうしてついに俺とユヒメのお店が完成した。
ちなみに店の名前は【ヒメ&トシのお店】である。
「……もうちょっと捻ろうよ」
「精一杯考えた結果なのです!」
「せめて【ユヒメのポーション屋さん】とかにしない?」
「このお店はヒメだけじゃなくてトシさんのお店なのです! それに【ポーション】だけじゃなくて他にも売る事があるかもしれないのです!」
「な、なるほど」
思った以上にユヒメは色々と考えて出したお店の名前らしい。
「でも実際の話、最初は【ポーション】を作って売るしかないけどね」
「早速持ってきた【薬草】で【ポーション】を作るのです!」
で。早速ユヒメはポーション作りを開始しようとして――ピタリと動きを止めた。
「どした?」
「わ、忘れていたのです」
「何を?」
「木材が無いと【植物練成】をして【ポーション】のビンが作れないのです!」
「あ」
そういや森から持ってきたのは【薬草】だけだった。
「今から森に戻るのも面倒だし、何か代わりになる物で作るしか……」
「何かあるです?」
考える――までもなく良い物が身近にあるじゃないか。
「これだ!」
そうして俺が提示したのは【無属性魔法】で作り上げた【透明なビン】だった。
「おぉ~。凄く綺麗なのです!」
「ふふふ。これなら【ポーション】の見栄えも良かろう」
「でも、これだと【ポーション】よりも容器の方が高く売れそうなのです」
「む」
それは確かに考えていなかった。
原価0円なので【ポーション】だけの価格で売っても良いのだが、それだと【ポーション】を使用済みにした後のビンだけを高値で売ろうとする馬鹿が現れそうだ。
「それじゃ【条件】を付けよう」
「売る時にお客様にビンを悪用しないようにお願いするです?」
「いや。【無属性魔法】でビンを作る時に【条件】を設定して中身の【ポーション】が無くなった時点で自動で砕けて霧散するようにしておく」
「おぉ~。それは凄く良い考えなのです!」
早速1つ実験してみると、中身の【ポーション】が空になった時点で俺の作ったビンは砕けて消滅した。
「うんうん。これなら【ポーション】の入れ物以外には使えないな」
「こんなのトシさん以外には絶対に使えないから人気が出るですよ!」
「いや。そこは【ポーション】の質で勝負しようよ」
「はっ! そうだったのです!」
こうして俺とユヒメは協力して【ポーション】を作り上げていった。
◇
お店は完成した。【薬草】を育てる畑も完成した。畑に水遣りする井戸も掘った。
これで後は足りないものは……。
「店員の【可愛い制服】だ!」
「はへ?」
「商品を売るならやっぱり【可愛い店員さん】が1番だ!」
「ヒメは【ポーション】を作るので裏方さんですよ?」
「……俺のモチベが上がるから良いんだよ」
ユヒメに可愛い恰好をして貰った方が俺が嬉しいのだ。
という訳でお店の制服を買いに行く事にした。
「ユヒメはどんな服が着てみたい?」
「ヒメは人間さんの服を着た事はないのです」
「あはは。それじゃパンツくらいしか履いてないって事か」
「……パンツってなんです?」
「なん……だと……」
まさかユヒメさん――いままでずっと【履いてなかった】んですか?
色々な意味で衝撃を受けたが、とりあえず服屋に行ってユヒメに似合いそうな【黄緑のワンピース】と胸元を飾る【ふわふわのピンクのリボン】を制服とした。
「超可愛い♪」
「トシさん。服は兎も角、このパンツというのは窮屈なのです」
「ユヒメさん、良くお聞きなさい」
そして俺はユヒメにパンツの重要性を語って聞かせた。
「し、知らなかったのです! 今まで履いていなかったのが物凄く恥ずかしく思えてきたのです!」
「うんうん。分かってくれて嬉しいよ」
というか、やっぱり履いてなかったのね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます