第2話【ユヒメさんとポーション屋さんの準備を始める】
紆余曲折あって【ドリアード】のユヒメと婚約する事になってしまったが、それは兎も角として……。
「早速【調薬】を試してみるのです!」
俺が譲渡した【MP】を使ってユヒメの【調薬】を試してみる事になった。
場所はユヒメのお家――と言っても大木に出来た空洞なのだけど。
その中にユヒメの調薬道具が置いてあるらしく実験はそこで行われる事になった。
「い、いくのです!」
まずは基本的な【ポーション】から。
これは【HP】を回復させる魔法のお薬だ。
効果は作る【調薬師】の腕前に左右されるらしいが、普通のお店で売っているものなら【HP】を100前後、回復させる効果があるらしい。
そして材料である【薬草】を手に取ったユヒメは……。
「はむっ」
「……へ?」
「もぐもぐもぐ……」
そのまま口の中に放り込んで咀嚼し始めた。
「あ、あの……ユヒメさん?」
困惑する俺の前でユヒメは……。
「んべぇ~っ……」
口の中の薬草を木の容器の中に吐き出した。
「完成なのです♪」
そうして、その容器を俺の方へと差し出してきた。
「いやいやいやっ……!」
ちょっと待って欲しい。
え? この世界の【調薬】ってそういうものなの?
お店で売っている【ポーション】もそうやって作られているの?
それなら作った人の顔写真で値段が全く変わってくると思うのですが?
「むふん。【ドリアード】は体の中に色々な養分を持っているので体の中で色々なお薬を作る事が出来るのです!」
「それ……誰に使わせるの?」
「……え?」
作る事以外の事は全く考えていなかったのかユヒメはキョトンとした顔をして……。
「はわぁっ……!」
次いで顔が真っ赤になった。
「だ、駄目なのです! これは……これはトシさん専用のお薬にするのです!」
「そ、そうなんだ」
とりあえず俺は飲んでも良いらしい。
「ど、どうぞなのです!」
「あ、はい。頂きます」
そして俺は【ユヒメの作りたてポーション】――赤い液体を頂く事になった。
「こくっ……こくっ……」
飲んでみると先程のユヒメの唇と同じ味がした。
「はわわっ……! ほ、本当に飲んでしまったのです!」
「うん。なんか元気がわいてくる気がする」
一応【鑑定石】で自分のステータスを確認してみる。
・佐々木俊和:レベル2
HP 12/12 MP 2300000/2300000
種族:人間 属性:無 職業:無
筋力:6
敏捷:5
体力:6
魔力:999
器用:12
幸運:1
スキル:【エンゲージ】
「……はれ?」
【HP】が回復しているのは予想通りだったのだけれど、ユヒメに譲渡した【MP】も完全に回復していた。
「ユヒメ。これって【MP】も回復させる効果があるの?」
「そんな訳がないのです。作ったのは唯の【ポーション】なのです。【HP】を回復させるお薬なのですよ」
「でも実際には【MP】が全快しているんだよ」
「???」
困惑する俺とユヒメ。
ともあれ色々と検証してみる必要がありそうだった。
◇
色々と検証してみた結果。
どうやら俺の【魔力】が高すぎて【MP】の回復速度が異常に早い事が原因だった。
ユヒメに1万程度譲渡したくらいでは1分も掛からず全快してしまう。
そしてユヒメに譲渡した【MP】なのだが、そのままずっと【MP】が増える訳ではなく約1時間で元の【MP】に戻ってしまうらしい。
「と、トシさん! もう1回【ちゅ~ちゅ~】するのです!」
「は、はい!」
何度もユヒメに俺の【MP】を譲渡しつつ検証した結果だから間違いない。
そして肝心の調薬の方なのだが――別に態々ユヒメが薬草を口に入れてモグモグしなくても両手に薬草を挟んで念じる事で普通に【ポーション】が出来る事が分かった。
「は、恥ずかしいのです。あんな物をトシさんに飲ませてしまったのです」
「……ユヒメの唇と同じ味がした」
「そ、そんな恥ずかしい事は言わないで欲しいのです!」
真っ赤になるユヒメさんは大層可愛かったです。
そうした検証の結果【これから何をするか?】という話になって……。
「ヒメは【ポーション屋】さんになるのが昔からの夢だったのです!」
「おお。良いんじゃないか」
寧ろ、それ以外の何をしろって話になるが。
「だから最初は【ポーション】を沢山作って、売ってお金を貯めて、お店を買うのです!」
「……店舗を借りるって発想はないんだ」
「何処の世界に【ドリアード】に店舗を貸してくれる人がいるのです!」
「意外に現実が見えている意見だった!」
という訳でお金が溜まるまでは俺が街に【ポーション】を売りに行き、お店を買った後は店内にユヒメ用の調薬スペースを確保してそこで【ポーション】を作る事になった。
「トシさんの協力があればヒメは【世界一のポーション屋さん】になれるのです!」
「うんうん。俺は毎回ユヒメと【ちゅ~ちゅ~】出来て役得だねぇ」
「はわわっ……!」
可愛いなぁ。
ともあれ俺はユヒメと協力して、この世界で成りあがる事に決めた。
◇
どういう原理なのかは知らないがユヒメは薬草1枚から1本分の【ポーション】を作る事が出来る。
ちなみに【ポーション】を入れるビンは木製でユヒメの能力【植物練成】で容易く作ることが出来た。
「こんな事が出来るとは知らなかったのです!」
「…………」
本人は今まで【MP】が不足していたので使った事がなかったらしいけど。
個人的には【ポーション】というと透明なガラス製のビンに入っていた方が見栄えが良いと思うが、この世界でガラス製品は非常に希少らしく却下された。
下手をすれば――いや、下手をしなくても【ポーション】よりも【ガラス】の方が高くなってしまう。
「と、トシさん! 【MP】が元に戻ってしまったのです! 【ちゅ~ちゅ~】をお願いするのです!」
「まかせておけ♪」
念入りにユヒメと唇を合わせて――しっかりと舌を絡めてユヒメに【MP】を譲渡していく。
「はふぅ……♡ こんなに沢山【MP】を貰っても1時間じゃ使い切れないのです」
調子に乗って5万くらい譲渡してしまったが多い分には問題ないだろう。
ユヒメの作る【ポーション】の数がそれなりに出来たところで俺は街に売りに行く事にした。
「ヒメはお留守番して畑のお世話をしておくのです!」
ユヒメ――というか【ドリアード】は基本的に街の中に入らないので予定通り俺が1人で売りに行く事になった。
◇
ユヒメの家から1番近い街へと行き、そこで街の人に【ポーション】を買い取ってくれるお店と――【ポーション】の相場を調べておく。
そうしてから実際に買取りを受け付けている店へと向った。
「これを買い取ってくれ」
そして店主に向けて【ユヒメ印のポーション】を1本だけ差し出した。
「ふむ」
店主は俺が差し出した【ポーション】を持って近くに置いてあった【鑑定石】を通して調査しだした。
「(失敗したな。【鑑定石】は人だけじゃなくてアイテムも鑑定出来たのか)」
事前にユヒメの【ポーション】を鑑定してこなかった事を後悔しつつ、しかし表情には出さずに鑑定結果を待つ。
「っ!」
その店主に僅かに驚きの反応を感じ取って俺は内心でニヤリと笑う。
「こいつはお前さんが作ったのかい?」
「答える義理はないね」
「ちっ」
店主は舌打ちしつつユヒメの【ポーション】と俺を交互に眺める。
「1本銅貨30枚で買い取ろう」
それから値段を提示してきた。
ここでおさらいだが、この世界のお金は基本的に【金貨】【銀貨】【銅貨】の3種類のみによって賄われている。
【銅貨】:日本円に換算して約100円の価値。
【銀貨】:【銅貨】100枚と同じ価値。日本円に換算して約1万円の価値。
【金貨】:【銀貨】100枚と同じ価値。日本円に換算して約100万円の価値。
つまり【銅貨】30枚という事は凡そ3000円で買い取ると言っている訳だ。
俺の鞄にはまだ99本の【ポーション】残っていて――つまり合計で100本なので計【銅貨】3000枚分で【銀貨】30枚になる。
日本円に換算すると約30万円になる訳だ。
初回の金額としてはなかなかの大金なのだが……。
「話にならんな」
俺は店主の提示した金額を切って捨てた。
「これでもサービスして高く提示しているつもりだが?」
「1本【銀貨】5枚だ」
「はぁっ!?」
逆に俺の提示した金額に店主の顔色が変わる。
「それこそ話にならん! 唯の【ポーション】1本に【銀貨】5枚出す奴が居るものかっ!」
「へぇ。それならいくらなら出せるんだ?」
「む」
俺としても【銀貨】5枚なんて法外だと思うが最初に適正価格を提示しても【銅貨】30枚との中間くらいまでしか交渉出来なくなる。
こういう時はかなり多めに吹っかけて相手の提示した値段の中間辺りまで持っていくのがセオリーというものだろう。
「……1本【銅貨】40枚出そう」
「他の店に行く事にする」
だから予定額より小さな幅での交渉を持ちかけてくるなら論外。
「ま、待てっ!」
本気で背中を向けて帰ろうとする俺の背に慌てた声が掛けられる。
「【銅貨】50……いや80出す」
「【銀貨】1枚が最低のラインだ」
「ぬぐっ!」
店主は顔を顰めて視線を彷徨わせ……。
「今後、ウチの店に専属で薬をおろすというなら1本【銀貨】1枚で買い取ろう」
「邪魔したな」
「おいっ!」
再び店主の提案を切って捨て背中を向けた俺に店主の怒鳴り声が響く。
「専属契約がしたいなら【専属契約料】を支払うべきだろう? たかが1本【銀貨】1枚で買い取る話に専属契約の話を乗せてくるなんて馬鹿にしているとしか思えんが?」
「……ちっ」
目を細めて睨みつける俺に再び店主が舌打ちする。
「分かったよ! 【銀貨】1枚で買いだ! これ以上はびた一文出さねぇからな!」
「【ポーション】1本に対して【銀貨】1枚と明言して貰おうか」
「…………」
前述の言葉が何に対して【銀貨】1枚出すのか明言していない事に気付かないとでも思ったのだろうか?
「疑り深い奴だな」
「商人なんて詐欺師予備軍みたいなもんだろ? 騙すのが当たり前みたいに思っている奴らを信じる要素が何処にあるんだ?」
「…………」
「騙し合いなら【商人同士】でやるべきだ。少なくとも客相手に騙し合いをする事は信用を失う結果になる」
「……わかった。【ポーション】1本に対して【銀貨】1枚で買い取ろう」
「最初からそう言っていれば無駄な時間を取らなくて済んだな」
そうして俺は鞄の中から残り99本の【ポーション】を取り出して机の上に並べていった。
「ちっ。これなら【銅貨】30枚でも十分な儲けが出たじゃねぇか」
「…………」
これ以上は無言を通して取引を終え、俺は【銀貨】100枚を持ってユヒメの家へと帰還する事にした。
◇
「た、大金なのですっ!」
「いやぁ~。正直もっと上の金額も提示出来たんだけど初回だからやり過ぎないように少し譲ってきたんだ」
「そ、そうなのですか」
ユヒメは目を丸くして驚いていた。
「まぁ、とりあえず……」
折角なのでユヒメの【ポーション】を【鑑定石】で鑑定してみる。
【HP回復ポーション】状態:良質
大体予想通りの結果だった。
良質の【ポーション】なら相場【銀貨】2~3枚で取引されるので、もう少し値上げしても店主は応じただろう。
「これで夢に1歩近付いたのです! この調子でドンドン【ポーション】を作るのです!」
「うんうん。俺と【ちゅ~ちゅ~】して頑張ろうな」
「あうぅ……はいなのです」
急速に真っ赤になるユヒメに【MP】を譲渡する為に唇を合わせて熱烈なキスをした。
◇
あれから色々な街へ行って【ユヒメ印のポーション】を沢山売ってお金を得た。
売買金額は大体【ポーション】1本で【銀貨】1枚~1.2枚の間くらい。
【銀貨】1.2枚というのは【銀貨】1枚と【銅貨】20枚の事だが面倒なのでそのように呼んでいる。
そうして大分お金を得たところで俺はユヒメに【ポーション】以外にも何か作れないかと聞いてみた。
「【ポーション】の正式名称は【HP回復ポーション】というのです。だから【MP回復ポーション】もあるのです」
「ユヒメは作れるのか?」
「……レベルが上がったら作れるようになるのです」
つまり今はまだ作れないらしい。
「レベルってどうやったら上がるんだろ?」
この世界の住人からすれば常識知らずの質問だが、ユヒメには既に俺が異世界から召喚された勇者候補だった事は話し終えてある。
「レベルは魔物を倒して経験値を得ると上がるのです。それ以外にもスキルのレベルはそれぞれのスキルの熟練度を溜めると上昇するのです」
「ほぉほぉ」
とりあえず【鑑定石】でユヒメのステータスを確認する。
・ユヒメ:レベル3
HP 23/23 MP 3/3
種族:ドリアード 属性:植物 職業:調薬師
筋力:13
敏捷:3
体力:12
魔力:2
器用:16
幸運:9
スキル:【調薬Ⅱ】【植物練成】【植物魔法Ⅰ】【吸収】【エンゲージ】
以前に見た時と全く変わっていなかった。
「そんなに簡単にレベルは上がらないのです」
「ですよねぇ~」
俺は過剰な【魔力】と膨大な【MP】を持っているけど別にチートって訳じゃないし。
「でも、このまま調薬を続けていけば、その内【調薬】のレベルがあがるのです!」
「今作れるのって【HP回復ポーション】だけ?」
「一応【解毒ポーション】と【解痺ポーション】と【解石ポーション】も作れるのですが材料が無いのです」
「うん。それはまぁ……仕方ないな」
いくらユヒメでも材料なしで【ポーション】は作れない。
「だから今は【ポーション】を作って作って作りまくるのです!」
「がんばれぇ~」
「はいなのです!」
そういう訳で今日もユヒメは【ポーション】を量産していくのであった。
「…………」
当たり前の話だが俺は1度ユヒメに【MP】を譲渡してしまうと1時間は暇になってしまう。
ユヒメの【ポーション作り】に俺の協力が不可欠だとしても、この時間は暇で仕方ない。
という訳で適当な木の枝を削って木刀を作って素振りをする事にした。
「ふんっ! はぁっ! とぉっ!」
「…………」
「やぁっ! たぁっ! うりゃっ!」
「…………」
「せぃっ! はりゃっ! ど……」
「トシさん、五月蝿いのですっ!」
怒られた。
「【調薬】には集中力が必要なのですから騒がれるのは困るのです!」
「ご、ごめんなさい」
「……というか何をしているのです?」
「一応、護身の為に剣の素振りなんかを……」
「トシさんの【魔力】と【MP】なら魔法を覚えた方が良いのではないです?」
「俺に魔法の才能は一切無い!」
城で1ヶ月もの間教え込まれたけど全く覚えられなかった。
「それならヒメが教えてあげるのです!」
「いや。だから俺には才能が……」
「ヒメの友達が言っていたのです。【才能が無い】は唯の言い訳なのです!」
「う」
「そしてこうも言っていたのです。【魔法に才能なんて必要ない】です!」
「わ、分かったよ。教えてください」
「はいなのです♪」
という訳で俺はユヒメが調薬をしている間に魔法の練習をする事になった。
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