Log 26588-N 『光輝:世界線復帰事案関連文書』★

【Log 26588 : 世界線1*-5*-6*で回収された文書-序文】

 ――親愛なる師と友に、これを捧ぐ。


 かつてこの世界が『ヤミ』なるもので溢れていたことを、我々はまだ憶えていることだろう。昼も夜もヤミに怯え、様々な灯りに依存して暮らしていた頃を、先の見えぬ暗闇を四六時中覗かねばならぬ恐怖を、我々はまだその身に思い出せることだろう。

 そのヤミに再び怯え暮らす者が、これから先全く消えてなくなることを、またあの恐ろしさがいつか伝承や単なるお伽噺に語られる教訓としてのみ残っていくことを願い、私はこの書を記すこととする。

 

 この書に記した魔法は、かつて――ヤミが世界を覆う前――利用価値なしとして忘れ去られていったものである。しかし、今からこの書を読む諸氏には、これら魔法が利用されなくなった理由がいささか想像しがたいものであろう。

 何故、この書に記された魔法が利用価値を喪っていたのか。その最も大きな理由が、その単純さにある。

これらはあまりに基礎的なものだ。それは行使が簡単である代わりに、著しく応用力に欠け、殺傷力など望むべくもないことを示している。こうした応用力、殺傷力の欠如は、これらが制定された時代に於いては致命的な弱点であった。

 当時の世界は戦争と闘争に塗れており、より簡便に、より残虐に、相手を圧倒する手段として魔法が求められていたのである。此処に示されたものにそれがないことは、これから明らかになるだろう。

 激烈さを求めた果てにこの世界があり、かつて捨ててきたものが世界を救う。

 これを私は皮肉と言わざるを得ない。


 私は失われたものを拾い上げ、寄せ集め、誰にでも扱えるようにいくつかの再編を行った。殺傷力は依然皆無に等しく、しかりより応用性に富むよう、種々改変を施している。この論書を読み終わるとき、得られた知識は、必ずやその身を助けるものとなるだろう。

 しかし、忘れてはならない。この書に示した魔法は、極めて広い応用が可能である。生活を豊かにすることも、人々から豊かさを奪ってしまうことも、果てはこの世界に再びヤミを撒くことも、論書の“応用”で出来てしまう。

 それでも私が応用の幅を持たせたのは、諸氏に考えてほしいからだ。

 かつてヤミで世界を覆った者のように、自分のため、自分の豊かさの為だけに使うか。或いは、自分を助け、誰かを助けるための抵抗として使うか。

全ては諸氏の意志と良心に掛かっているのだと。


 願わくば、この論書に記された魔法が、諸氏を援ける灯火となるよう。


 黎明歴一年 二月  “光売りの弟子” 著



〔この文書は世界線1*-5*-6*で一般的に刊行されている魔導書の草稿を譲り受けたものです。著者は現在死亡しており、師であった方が現在著作権を持っています。無断複製や転載はペナルティ対象です。 :マスター〕

〔よく譲ってくれましたね。魔法使いは往々にして秘匿するものですが。 :ロマ〕

〔特異点によって破綻した後、世界線が復元された唯一の事例です。今から常識が形作られていくであろう世界に、我々の言う常識は通用しないでしょう。 :マスター〕


〔思ったんですけど、1*-5*-6*の「*」って何です? :御坂〕

〔基準世界線1-1-1が存在する空間軸と異なる次元に存在する軸をどれだけ持つかの指標です。この場合*が三つついているため、全ての空間軸が基準世界線とは異なる次元の軸に位置しています。 :マスター〕

〔分かりません。 :御坂〕

〔後でお教えします。超ひも理論から。 :マスター〕

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