第2話 ふれんず


 その日、中央休憩室のお昼時は静かなものだった。

 

 画面いっぱいに広がるサバンナの光景。映し出される少女は現代にあっては稚拙と言わざるをえない3Dモデリング。

 感情にノリの足りない声と、気抜けしたコーラのような展開。


「これが今日本で一番HOTなアニメだって!?」

 堪らず一人の研究員が悪態を付き始めた。


 本日の映像は第六研究員が一人、ジェフが持ち込んだ、これまた録画アニメだ。商業利用したら著作権に引っかかるから注意だ。

 いや、曲がりなりにも一集団の慰安目的で放映すると引っかかるのだろうか?

 まぁ知らん!


 物語は進む。

 右も左も判らぬ少女はどうやら記憶喪失のようだ。ズックと名付けられた少女はイリオモテヤマネコを名乗る猫耳少女に身の上を語り、猫耳はそれならばと識者の居る場所を提示する。

 世界はどうにもヒトが存在しておらず、そこはヒノガタを模したケモノの世界であった。

 不安に震える少女。猫耳娘が手を取り、彼女の世界の出口へと導く。


 そして訪れる別れの時。不安から何度も振り返る少女。

 しかし猫耳娘の住む世界はそこまでで、その世界から出る事は命の危機をも意味する。野生の世界は過酷なサバイバルなのである。好奇心は身を滅ぼすのだ。

 

 だが、それを破り猫耳少女は振り返った。

 それは好奇心からなのか、彼女たちが辿ってきた、ほんの僅かな道程に刻まれた絆なのか。

 

 そうして第一話が幕を閉じた。


「なんか、心なしか疲れたね」

 例によって壁沿いで眺めていフレイはふぅ、と大きく息を吐いた。

「これがクール・ジャパンだって? これじゃまだスポンジ・ボブの方がファンタスティックさ!」

 塊の中から更に声が上がる。


「いや、これを見るに今やアニメーション技術において日本の独壇場なんて時代は終わったね。今は中国でも頭角を表す技術進歩が目まぐるしいと聞く。そりゃ、日本のHENTAIには未だに神に祈りたくなる事もあるが、とてもハートに響くとは言い難いね」

 口々にアニメ論が展開される。


 少なくともレクリエーションの体は成しているようだ。

 放たれるディスカッションが興奮を重ね白熱の一途を辿ろうかというその時、今回の発案者であるジェフは手を大きく開いてそれを遮った。


「諸君! 実は今日持ってきたデータには2話目もあるんだ!

 このアニメは日本人でも意見が分かれていてね、2話を見ずして語るべからずとまで言われる程さ!」


「いや、もう休憩時間終わりなんじゃ……」

 空気の読めないA10が呟く。

 その場の全員がその視線をフレイをと向けると、


「よし、そこまで言うなら行こうか」

 物分りの宜しいというか愉快犯なフレイは二つ返事でそれに判を押すのだった。





 そうしてその日の後半の始業時間は大幅にズレこみ、数日間に渡って感染は拡大。症状は悪化の一途を辿り、ほぼ全職員の知能指数が低下。謎の言葉が席巻し、基地内に未知の異文化が芽生え、僅か12話に渡るシリーズが終わると、やがて中毒症状を巻き起こす小さなパンデミックとなるのであった。

 わーい。

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