第15話-裕太[回想]

圭が、蓮を殺した。

そう言われてから、3日ほど経っただろうか。

また俺は圭に呼び出された。

だか今回呼び出されたのは夜23時。

圭はアパートに住んでいるため、こんな時間に来たら相当迷惑だろ、と思いながら静かに圭の部屋の前へと行く。

鍵は開いているので勝手に入ってくれと言われたので、ゆっくりと扉を開ける。

玄関の横の棚には、手紙と軍手、ハンカチが置いてあり、手紙を読む。

[来てくれてありがとう。ここから先は、絶対に軍手をしてほしい。フラワーアレンジメントを手伝って欲しいんだ。花には、意外と棘があったりして、危ないから。

それと、今裕太が触ったものを、ハンカチで拭いてほしい。潔癖症なんだ、俺。]

丁寧で、この綺麗な字は、圭のもので間違いなかった。

花には棘?フラワーアレンジメントを手伝う?

でもそういえば、こんな風に玄関に置いて手紙を添えたりはなかったが、前にも手伝ったことがあったな。

圭のことだ、集中してて、説明するのもめんどくさいのか?

とりあえず、俺は従って、軍手をしてみた。

潔癖症だからハンカチで拭けって……来客に失礼なやつだな、と思い、軍手だけして奥に進む。リビングには誰もいない。風呂場か?と何の疑いもなくすぐに向かった。

以前も、いないと思ったら、花も大きく、水につけなければいけないからと風呂場でやっていたことがあった。

こんな時間に呼び出しておいて出迎えないとか。そう思いながら、浴室に入ると、浴槽の周りには花々が置かれ、床にも花々が桶の中に入れてあり、首に蔦を巻いた蓮が浴槽に仰向けで入っていて……

ドッキリか何かなのかよ、と近づき、おい、と額に触れると驚くほど冷たく、後ずさると足元の床に手紙が置いてある。

[いやなことを頼むようだけど、手伝って欲しいんだ。ここに置いてある花たちを、浴槽の水に浮かべて。その前に、クーラーボックスの中に氷があるから、浴槽に氷を入れて欲しい。クーラーボックスはキッチンに置いておいてくれ。花を入れている最中、腐ってきたらいやだろう?花は、浴槽に浮かべてくれたらいい。あと、ユウガオは、左手の隙間に差し込んでおいてくれ。この花々は、俺の遺書なんだ。最後の頼みだ。それと………面白いからずっと黙ったいたけど、琴子も、裕太のこと好きなんだよ。だから、ちゃんと守ってやってくれ。巻き込んで、ごめん。裕太がここにいたことがバレないように、ドアノブなんかは拭いておいて欲しい。じゃあ、蓮のところに行ってくるよ。]

死んだ……のか…………?

なに、勝手なこと……

勝手に死んで、勝手に氷と花を入れろなんて。自己中心的な圭への怒りと、いなくなった悲しみと、恐怖といろんな感情が混ざる。

だが、遺書なら。親友の、最期の頼みならと、なぜか受け入れ、気づけば氷を浴槽に入れていた。

俺にとって、圭は大切な親友だ。

蓮は最期の言葉を遺せなかった。

その代わり、圭は、ちゃんと。

そう思いながら、花を浮かべた。

終わると、俺はクーラーボックスを指定された位置に戻し、俺がいた形跡が残らないように、手紙なども回収する。内側のドアノブを拭き、すぐに出ようとしたが、もう一目だけ、圭に会いたくて、浴槽を再度静かに覗く。

植物園みたいになった浴槽。全身黒で、首にツタを巻き、鼻の中に横たわる圭。まるで、棺桶の中で眠っているかのように。

あの時の償いは、やはり死という意味だったのか?圭……止めてやれなかったけど、蓮は、喜ぶのか?琴子も、また落ち込むんじゃないか?そう呟くが、ふと我に帰り、圭に、おやすみ、と言って静かに家を出て、帰宅した。

帰ると急いで風呂に入る。

圭の香りが残っているのでは?花の匂いも付いているのではないかと、不安になった。

このことが警察にばれたら、俺は犯人になってしまうのではないか。

そう思い急いでシャワーを浴び、身体を拭いて、浴槽をふと見ると、圭がいるような気がして、逃げるように部屋に戻る。

部屋に帰って、ベッドに仰向けになって初めて、自分が泣いていることに気づいた。いつから、泣いていたんだ、俺は。

怖くて泣いてる?いや、違う。怒り、悲しみ……混ざった感情で泣いてるんだ。

圭の両親が変わり果てた息子を見たら、どう思うだろう。

死んだ息子を見たら、2人は………

なんで止めてやれなかったんだろう。

なんで死体を見つけて、指示に従ったんだろう。

なんで………俺は暗闇のなかそんなことを思いながら、眠りに落ちていった。

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