第12話-裕太[回想]-

『話したいことがあるんだ。』

『どうしたんだよ?』

改まって、変なやつだな、と俺は圭の家のソファーに座り、コーヒーを飲む。

『…蓮を殺したのは、俺だ。』

『……は………?』

圭は俺の正面に座り、俯いて話す。

何をいうんだ、こいつは。

『…俺は蓮と遊んでたわけでもない。蓮を、俺が、突き落としたんだ。』

『何言って…』

『落とすつもりはなかった、ただ、後ろから、驚かせたかっただけだった。…蓮は水辺の花を摘んでたんだ。琴子に、あげるために。だから、後ろなんて、見てなかったんだ。驚かせようと思って、俺は、背中を押した。』

それで落ちたっていうのか……でも…

『でも、図書館にいたって…』

『それは嘘じゃない。図書館に行ってた。そのあと、帰り途中、川の方を見たら、蓮がいたんだ。…ほんと、パニックになった、蓮が落ちた時は。素直に、押してしまったことが言えなくて、遊んでいて落ちた、と、気づいたら言ってた。』

圭はそういうと、レジンで固めた花を俺に見せてきた。

『これ、蓮が摘んでた花なんだ。蓮が落ちたのに、蓮が落としたこの花を拾ってたんだ。無意識に。………約束してたんだ、蓮と。13年前の春に、10年に一度とか、20年に一度とかしか咲かない、皇帝アナナスって花があるんだけど、その花を、大人になったら必ず見ようって。今年、咲いたんだ。けど、俺は、蓮に見せることができなかった。俺のせいで。蓮の母親に会った時、罪悪感とか後悔が一気に押し寄せた。俺は、この人の息子を殺し、何も知らないこの人にハーブティなんか淹れて、のうのうと生きている。自分への殺意が湧いた。』

そういうとレジンで固めた花を握りしめ、俯く。

まさかほんとうに、死のうとしてるのか…?

けど俺は、なんて声をかけたらいいんだ。蓮とそんな親しいわけでも、圭のことも、二人のこと、詳しく知らない俺は、なんて声をかけてやればいいんだろう。なんだかいやな予感がして、冷たい汗が背中を伝った。

『…ん、もうこんな時間だ、悪いけど帰ってもらってもいいかな?明日、仕事が早いんだ。…話を、聞いてくれてありがとう。』

笑っているのに、威圧的で、素直に従い、その日は帰ってしまった。

圭は、まさか、死のうとしてるのか?

罪悪感、殺意…………

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