第11話-琴子-
[10年ごのおれ、こんにちは、げんきですか。10年から20年にいちどしかさかない花、こうていアナナス、けいからおしえてもらった、その花はもう見ましたか?写真見せてもらっただけでも、すっごいでっかくかんじたけど、ほんとにでっかいの?ことこもいっしょに見ているのかな?たのしみです。それと、ことことケンカするの、やめないと。!あやまらなきゃ。あとは、おれも大人になって、いろいろたいへんだとおもうけど、おれならできるぜ!]
こうていアナナス?
そういえば、圭の家のそばには植物園のような建物があった。そこも圭の家のものだが、そこに咲いているのだろうか?
気になって、携帯で調べる。
……出てきた、皇帝アナナスは日本名、アルカンタレア・インペリアリスと言う植物、10-20年に一度、枯れる直前に咲く花。
お兄ちゃんは、圭と花を見る約束をしてたんだ。そのアルカンタレア・インペリアリスというのは、今咲いているのかな?
明日、調べさせてもらおう、植物園の中を。
私の知らなかったお兄ちゃん。友達も、妹のことも、しっかり想ってくれていたんだ。
手紙を抱きしめた。
圭は、どうしていなくなったのだろう?
例えその花が咲いていだとしても、圭が死ぬ理由にはならない。
圭に、何があったんだろう。
そのまま床に横たわる。
色々と考えているうちにいつの間にか眠っていて、気がつくと朝になっていた。
まずい、やってしまった、体が痛いけど、行かなきゃ。
私はお風呂に入って、歯を磨いて身支度をして、お兄ちゃんの手紙をカバンに入れて圭のの家に向かった。
家に着くと、由美子さんが外の花を並べていた。
「由美子さん、こんにちは。」
「あら、琴子ちゃん!!来てくれたのねー!お花買いに来たの?」
「えっと、植物園、あるじゃないですか、裏に。そこのなか、よろしければ見せていただきたいんです。…アルカンタレア・インペリアリスって、ご存知ですか?」
「琴子ちゃん、よくアナナスのこと知ってるわね!お父さんが植物ヲタクだからね、植物園を作って、一番に持ってきた花がアナナスなの!圭も楽しみにしてたの。アナナスもきっと、琴子ちゃんが見に来てくれたら嬉しいと思うわ、案内するわね!」
張り切った様子で、こっちこっち、とわたしに手招きをする。
元気そうに見せているが、少し、やつれている気がする。それもそうだ、大切な息子がいなくなってしまったんだもん…。
そう思いながら圭にフラワーアレンジメントを教わっていた場所を通り抜け、もっと奥へ行くと、植物園が広がっていて、真ん中に上へと伸びている、2メートルほどの大きな花が咲いていて、その下には、アルカンタレア・インペリアリスと書いた可愛らしい看板がある。
これがお兄ちゃんが言ってた、約束した花のことだったんだ。
圭は、約束を覚えてたのだろうか?
きっと、覚えていたんだろうな。
この間あった時も、お兄ちゃんのこと、たくさん覚えていたのだから、きっと。
「でっかいでしょ!日本では皇帝アナナスって言うの、皇帝って言われるだけあるよね、こんなに堂々と咲くんだもの。」
由美子さんは花を見上げて言う。
「…お兄ちゃんと…蓮と、圭、約束していたんです。13年前、この花が咲く何十年後かに、必ずまた一緒に見ようって。」
そう言ってカバンから手紙を出し、由美子さんに渡す。
すると、愛おしそうに、目を細めて手紙を読む。
「圭のことも、琴子ちゃんのことも、大切に想ってくれていたのね。もし、蓮くんも、圭も生きていたら、この花を見て、二人で仲良くお酒でも呑んだりしていたのかしらねえ。まあ、圭はお酒、呑めないけどね。」
ふふ、と笑い、ありがとう、と手紙を返してきた。
「…圭、なにか、変わったこととか、ありませんでしたか?私は…気づかなくて」
「いいのよ、琴子ちゃん。変わった事、ねえ……お墓参りに行った日、香織ちゃんがうちで蓮くんへの仏花を買ってくれたんだけど、その時圭となにか話していたかな。そのあと、わたしも圭と話すと、あまり、思い出してしまうから、蓮の話はしたくないんだって言って、疲れたからって家に帰っていったの。いつも、蓮くんの話になると、辛そうになるのは、仕方ない事だけれどね。」
由美子さんはまたアナナスを見る。
圭がもし、お兄ちゃんの死となにか関係しているんだとしたら、私のお母さんと会ったら、余計辛くなるかもしれない。
「あの…アイビーって植物、あるじゃないですか、その花言葉って、友情とか…なんですよね?」
「アイビー?ええ、そうね、あとは、永遠の愛とか…少し怖いけど、死んでも離れないとかね。だからこそ結婚式なんかにも使われるんだろうけれど。あんな可愛らしい葉っぱの形なのにね。」
死んでも、離れない。
お兄ちゃんとってこと?
わからない。
圭、もしかして、浴槽にあった花も全て、花言葉を考えて、置いたものだったの?
私はとにかく、もう一度結城刑事にこれらのことを伝えなければいけないと思い、由美子さんにお礼を言うと、警察署へと向かった。
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