第8話-琴子-

私は今、取調室にいる。

前には、30代後半くらいの、スラッとした体型の男の刑事、結城刑事が座っている。

「…圭に、一体何があったのですか?」

結城刑事のことをまっすぐ見つめ、話す。

「こちらでも捜査していますが、自殺か、他殺か、わからないんですよ。」

「一体どんな状態で、亡くなっていたんでしょう?」

「…木原さんのご遺体は浴室の、浴槽の中で見つかりました。中の水はキンキンに、氷で冷やされており、たくさんの花が浮かべられ、木原さんの首にはツタが巻かれていました。浴槽周囲にも花が飾られていてね、植物園のような状態だったんですよ。…こちらです。」

刑事はそういうと現場写真を見せてきた。

そこには、まるで眠っているかのような、圭の姿。手にも花が握られている。

もし自殺なら、圭ならあり得るような気がする、と思った。

「そんなに、驚かれないんですね。」

「えっ、あぁ…死んでいるっていうより、眠っているようだし、花を飾るようなところが、圭らしいかもしれない、なんて思っていました。…今でも、圭がいなくなったことは信じられません。…どうしてみんな、いなくなってしまうのでしょう?圭も本当は、お兄ちゃんの事で…?でも、あんなに昔のことなのに…」

「それは私も考えました。…前日、木原さんにお会いした時、どんなことを話されましたか?」

「本当に他愛もないことです。お店の調子とか、私の学校生活のこととか。…あ、あと、圭の首に巻かれてるそれ、アイビーの事も教えてもらいました。」

「アイビー?」

「はい、それ、観葉植物とかによく使われてるやつで、圭がいつもフラワーアレンジメント教えてくれる部屋にも、綺麗に飾られていて、聞いたんです、この植物なに?って。そしたら、『それはアイビーって植物で、花言葉は、友情、とか、永遠の愛、とかなんだよ、素敵な花言葉だよね』って。」

「花言葉、ですか。」

刑事は少し何か考えると、再度写真を見せる。

「この写真の中の植物、他に何か、花言葉は聞いていませんか?」

「いえ、私、あんまりそういうの聞かないので、わからないです。アイビーはたまたま教えてくれただけだったので…」

「そうでしたか。…なるほど。その、最後に会った時、気になったことなんかもなかったですか?」

「あとは、えっと…お兄ちゃんの話をしたくらいです。」

「蓮さん…でしたか?」

「ええ、須藤蓮、私の兄で、圭の親友で…圭に、謝られたんです、その日に。『俺がちゃんとしてれば、蓮は死ななかったかもしれない。琴子、ごめんな』って。今更そんなこと言うから、なんだか不安で。だから、言ったんです、圭が謝る事じゃないよ。…圭はいなくならないでね、私たち、ずっと一緒だよね。親友だもん。って。『そうだな』って、言ってくれてたのに。…なのに。」

「あなたはちなみに、事件当日は何を?」

「私は家でずっと大学の課題を。父が家にいたので、父が分かっているはずです。」

「そうですか。」

刑事はため息をつき天を仰ぐ。

本当に私はなにも知らない。

なにも。

それに知っていたらきっと、死なせたりなんて絶対にしなかったのに。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る