第7話-結城-

俺、結城修哉ユウキシュウヤは、土曜の真昼間から、非番だって言うのに呼び出され、だるい気持ちもある中隣に第一発見者、木原由美子を座らせ、車の中で考えを巡らせていた。

今日、若い男の遺体が発見された。

場所は被害者、木原圭の住んでいたアパートの一室。

木原の遺体は、浴槽の水…氷水の中。溺死。

当時の服装は黒いシャツに黒いスラックス。

また、木原の首には蔦のような植物が巻きついており、浴槽の周り、水上にも花々が浮かべられていた。

手にはユウガオ、そして右手を強く握りしめていて、死後硬直もあったため無理やりこじ開けると、レジンで加工された押し花があった。

飾り付けられた植物たちは、推測だが木原の職場であり、実家の花屋から持ってきたものだろう。

まるで植物園みたく飾り付けやがって。

また、木原の体内からは睡眠薬の成分が見つかった。

だからもし、風呂場まで連れていかれたとしても、抵抗の後のようなものがなかったことは説明がつく。

もし自殺なら、あんな綺麗に水面に花を浮かべることなんてできるのか?1つでも、ひっくり返ったものが出てくるはずだ。それが一切なかった。なんでわざわざ植物なんかを?

殺した奴の美意識とやらか、それとも他に、意味があるのか。

そうこう考えているうちに署につき、取調室へと由美子を連れて行き、座らせた。

「…息子さんが亡くなり、大変ショックでしょうが、人の記憶ってすぐに消えるものなので、今のうちに、失礼しますね。まず、詳しい発見状況をお聞かせください。」

そう言うと由美子は涙を抑え、深呼吸をし、わかりました、と目を合わせず答えた。

「今日は、元々あの子昼にうちに来るって言ってたんです、次の日、お得意様がいらっしゃるから、準備をするとかで。でも、時間を破ったことなんてないあの子が、昼になっても来なくて、最初は寝坊かしらと、思って家に行ったんですが、扉の鍵はしまっていなくて、少し違和感があって、ベッドルームへ行って、扉をいくら強くノックしても返事がなくて、開けてみたら誰もいなくて、お風呂にでも入ってるのかと思ってチラッと洗面所を見たら扉が開いてて、のぞいたら、浴槽の周りに、植物が。なんなのよ、って、浴槽に近づいたら……」

そこまで言うと由美子はまた涙を流し始めた。

「…何時頃でしたが、それを見たのは。」

「13時近く…でしたでしょうか…」

由美子は涙を拭う。

遺体は冷やされていたため、何時頃に亡くなったのかも分からない。また周囲の住人は物音も聞いていないと言う。

「息子さんが、自殺する可能性なんかは…」

「ありません…ないに決まっています…あんなに友達とも楽しそうで、仕事もいつも楽しそうにしていたのに…」

「例えば過去に、何かあった、なんてことは?」

「………ひとつ、あります。あの子の…幼馴染の子が…川に落ちて…そのまま…」

「それは一体いつ頃の?」

「ずいぶん経ちました、あの子が21歳、蓮くんが亡くなったのは8歳…13年も前のことです…」

確かにそれは今更すぎるが…だが溺死である事が一致している、関係はありえるかもしれない。

「ちなみに息子さんと仲良しっていう友達の名前、教えていただけませんか?」

「…疑う訳ではないですよね……?」

由美子がこちらを少し睨んだ。

大人しそうな女性だから、少し驚いたが、すぐに冷静になり、

「そう言うことではありません。ただもし、息子さんが殺されたんだとしても自殺だとしても、何か少しでもわかる人がいるなら話は聞いてみるべきです。」

「…わかりました、…1人は、須藤琴子ちゃん。圭と同い年で、蓮くんの双子の妹さんです。もう1人は、四宮裕太くん、この子も圭と蓮くん、琴子ちゃんの幼馴染馴染みで、同い年の子です。2人とも仲良くしてくれていて…この間も3人で蓮くんのお墓まいりに行っていましたし、琴子ちゃんは時々フラワーアレンジメントをしに来てくれて…」

「そうでしたか。わかりました。ちなみに、誰かに恨まれていた、なんてことは?」

「そんなのは絶対にありえません。圭は、優しくて本当にいい子で…大学へ行きたかったはずなのに、家を継いでくれて…」

「なるほど。前の日に、何か会話は?」

「会話……その、仕事の、お得意様の話と、ハーブティーの話くらいで。」

木原の母親はなにも知らないようだった。

その日に母親を帰らせた。

次に幼馴染だという二人に話を聞くことにしよう。

「結城さん!!」

通路を歩いていると後ろから部下である塚田慶喜ツカダヨシノブに声をかけられ振り向いた。

「木原の母親、どうだったんですか?」

「本気で、なにも知らないようだった。幼馴染である二人の話も聞いた。次はその二人に声をかけようと思う。」

「そうですか、了解しました…それにしても、なんであんな遺体の周りは植物だらけだったんでしょう?やはり花屋なだけあって、死ぬときまで一緒に居たかったんですかね?もし他殺だとしたら、一体?」

「さあな、けど、俺は他殺だと思う。自殺ならあんな綺麗な状態で遺体も、花を浮かべたりもできないだろ。ただ、服の乱れがないのは気になる。抵抗したならシャツがズボンから出ていたっておかしくないだろ。」

休憩所で煙草を吸い、考える。

自殺、他殺、あるいは-…

「確かに、その通りですね。それか、自殺を手伝わせた、とかですかね?」

「…俺も今、ボンヤリ思ってた。自殺を手伝うねえ…心理状態がわからねえな。」

わかりたくもねえ、と思いながら、俺は煙草の煙を眺め、翌日には例の幼馴染に話を聞いたのだ。

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