第5話-裕太-
交番前に入ると、見慣れたおじさん。
「ああ、やあ、よくこんな天気の悪い中来たね!また何か落とした?」
4年前からここで交番勤務している
「今日はちょっと、話がしたくて。今、時間大丈夫ですか?」
「いいよいいよ!さ、座って、ペットボトルで良ければ、お茶があるんだ、休憩がてら話そう」
そういうと清水さんは小さな冷蔵庫からペットボトルを二本取り出し、俺の前において、どうぞ、とニコニコしながら言った。
「それで、話ってどうしたんだい?」
「実はその…前に話した幼馴染のことでちょっと。」
いただきます、とお茶を飲みながらポツポツと話し出す。
「友達と遊んでて足を滑らしたって話してましたよね、その友達が誰なのかとか、データ残ってないですかね?その…最期に何を話していたのか、どんなこと考えていたのか、知りたいんです。」
「なるほど…うーん、担当していたのは僕ではないし、個人情報だからなあ」
申し訳ないけど…と清水さんは肩をすくめた。
そりゃそうか、それに、俺に名前をバラしたことで、清水さんの立場が危うくなるのは絶対にあってはいけないことだ。
「そうですよね、すみません、愚問でした」
俺はまたペットボトルのお茶を飲む。
「悪いな。大切な人だったのだろうから、教えてやりたかったが…ああ、ただ、あの日、蓮くん…だったか?亡くなった日、男の子が交番に駆け込んで来たらしくてな。友達が川に落ちちゃったんだって泣きじゃくっていたらしい。そういうことがあったってことは、聞いたよ。」
「男の子、ですか。じゃあ、他の、例えば大人がわざと川に落としたとか、そういうことではなかったんでしょうか?」
「ああ、一緒に帰っていたみたいだし、第三者がやったことなら、友達も一緒に落とされるなりしていたんじゃないかな?」
確かに。その通りだ。ではやはり、蓮は友達と帰っていたのか。それで、遊んでいて、誤って、川へ…それをきいて、なんだかホッとしてしまった。
もし落としたやつが生きていて、捕まってないなら、それこそ許されざること。
でも、圭はよく第三者が、という考えが浮かんだな、と感心してしまった。
「なら、いいです。その男の子、誰か気になるけれど、蓮を殺した犯人が生きてる、とか、そういったことではないのなら、それで。」
「そうか。でも、本当にあの交番に駆け込んで来た男の子は、亡くなった子の事すごく大切だったんだろうな。まだ死んだと決まってない、川に落ちた時点で、泣きじゃくるほど。その子は今、どうしているんだろうね。そのあとちゃんと、立ち直れたならいいが。」
清水さんもお茶を飲む。
泣くほどに大切な友達…元々友達の多かった蓮のことだ、だからこそ、なんだろうな。
羨ましい。もし俺が死んだら、圭や琴子は泣いてくれるんだろうか。
「…じゃあ、俺、帰りますね。お忙しいのに、急に押しかけて、変な話しして、すみませんでした。今度なにか美味しいもの買って来ますね。」
「気にしなくていいよ、どうせ暇、と言ってはアレだけど、是非遊びに来てくれ。いつでも、相談に乗る。お土産は話でいいから。」
ニコニコと笑う清水さんにお辞儀をして、外に出て車に乗った。
あたりはもう薄暗くて、また雨は少し止んでいた。
男の子が誰かは分からなかったけど、蓮は愛されていたことはわかった。
またシートベルトを締めて、ハンドルを握って、家へ帰り、誰かからメールが入っていた。[話があるから、今度会えないか。]
俺はただ、なんの話だろう?と思いながら、適当にメールを返し、リビングに入るとおかえり、という弟に、おう、と返事をして、その日の夕飯に何を作るか考えていた。
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