第4話-圭-
裕太と別れたあと、店に入ると、見覚えのある後ろ姿があった。
「
女性はこちらを振り向くとパッと笑った顔を見せた。やはり、笑顔が蓮と琴子にそっくりだ。
「圭くん!!蓮に、会いに行ってくれたのよね?ありがとうね。蓮もすごく喜んでいると思うわ。今日早くお仕事終わったけど、旦那が仕事だから、おばさん達は明日行こうと思っていて、そのためのお花と、仏壇用のお花をちょっとね。」
香織さんはそう話すと、優しい顔をして花を見つめる。
「そうでしたか。蓮も花が好きだったから、また花が増えたらはしゃぎそうですね。目に浮かびますよ。」
俺は蓮を思い浮かべ、クスッと笑った。
香織さんも、でしょう?ふふふ。と優しい顔のまま微笑んだ。
「香織さん、もし良ければ、お茶でもどうですか?まだ作るのに時間もかかるし。圭、ご案内して。」
花を用意していた母さんがカウンター奥からひょこっと顔を出して言った。
「香織さん、こちらです。」
「あら、ありがとう!」
俺は奥の部屋へ案内し、香織さんを座らせる。
「香織さん、ハーブティー、お好きですか?ちょうどこの間、美味しいハーブティーを手に入れたんですけど…」
「圭くんが言うなら、本当に美味しいのね!じゃあ、お願いしちゃおうかな。」
香織さんは笑顔のままそう答えた。はい、と返事をして、ハーブティーを淹れる。ふわっと、独特の香りが広がる。スッと鼻で吸って、香りを楽しみ、香織さんの元へと運ぶ。どうぞ、とカップを置くき、席に着くと、香織さんもまた、スッと香りを嗅いで、いい匂い!と楽しそうにしながらハーブティーを飲んだ。
琴子といるときもそうだが、香織さんを見ているとたまに、蓮の顔と重なる時がある。
俺はそれが好きなんだか嫌いなんだか、わからない。
ふっと香織さんからカップへと目線を移し、ハーブティーの香りを楽しみながらゆっくり口に流し入れる。
「そういえば、圭くんって昔から、ジュースとか、そういうのは飲まなかったよね。やっぱり圭くんは味覚も考え方も大人なのね」
香織さんはカップの縁を指でなぞりながら話し始める。
「蓮とはまた性格なんかも違う子だからこそ、きっと仲良しだったんでしょうね。蓮には落ち着きってものも、大人げなんてなかったもの。」
香織さんはいたずらっぽく笑い、それを聞いて、俺もふふ、と笑った。
香織さんのそないたずらっぽい笑顔、その顔も、蓮にそっくりだ。なんて思いながら。
「たしかに、性格は同じ系統なんかでもなかった気はします。蓮の周りにはいつも誰か友達がいて、校庭で元気いっぱいに遊んで、俺は休み時間中は図書室で本を読むような性格でしたし、集団で騒ぐのはあまり、得意でもなくて。でも、蓮には憧れていました。いつも楽しそうで、騒がしいやつだけど、蓮の周りの子も、いつも笑顔でしたし、そうやって人を笑顔にできるところも、やっぱりすごいな、俺に無いものを持ってるんだなって。」
俺はまたハーブティーを飲む。
「それを聞いたら、蓮はきっとなんだそれって言いながら鼻を膨らませて、すごく喜ぶと思うわ。昔からの癖でね、褒められたりすると嬉しいくせに素直に喜ばず、鼻が膨らむのよ。」
変でしょ?とい言いながらまた笑う。
確かに、そうだった。照れ臭い時には、鼻を膨らせる癖が出る。
面白いから、わざわざ蓮は凄いよ、ヒーローみたいだね、なんて言って、花を膨らまさせることもやったりした。
蓮は本当に、素直じゃないように見えて、誰よりも素直なんだ。言葉で言わなくても顔には出る。
そういうところも、蓮が愛されていた意味の1つなのかもしれない。
「蓮、家に帰るといつも、圭くんの話教えてくれたのよ。圭が面白いって言う本は、本当に面白くて、蓮が好きだっていう花は、本当に綺麗に見えるんだ、って。目をキラキラさせて。圭くんのこと、大好きだったのよ。悩んでいる時も、真剣に聞いてくれるのは圭だけだとも言っていたし。本当に、友達でいてくれて良かったわ。短い8年間って時間の中でも、あなたみたいに素敵なお友達ができたんだから。これからも、仲良くしてやってね。あなたの話も、お花も、蓮は大好きなの。」
微笑んでハーブティーを飲み終わると、ちょうど母さんが仏花を持ってやって来た。
「香織ちゃんお待たせしちゃってごめんね。」
そう言い香織さんに花を差し出す。
「いいのいいの!すごく綺麗な花!かわいい、きっと蓮、喜ぶわ。ほんと、お墓に置くとすごい量の花になりそうだけど、綺麗だし、いい匂いだってきっと言うと思うわ。お茶もありがとう、由美子さん、圭くん。」
香織さんは美しい花を抱えて去って行った。
「圭、お茶淹れて。お母さんも飲みたい。」
今度は母さんが席に座る。俺は頷き、同じようにハーブティーを淹れ、母さんへ出す。
「ありがとう。…もし私が、圭を失ったら、どうなってたのかしら。きっと香織ちゃんみたいに気丈には振る舞えないわね。本当に香織ちゃんたちは、よく戦っていると思うわ。」
「…そう…だな。……ごめん、もうあまり、蓮の話、したくないんだ。その、思い出しちゃうから。あいつのこと、すごく。…疲れたし、家帰るわ。」
俺はそういうと、花屋の向かいにあるアパートへ向かって中に入り、部屋に入るなり、ベッドのサイドテーブルの下にある箱を開け、中に入った、樹脂で固めた押し花を手に乗せ、ぎゅっと握りしめて、床に座り込んだ。
「ごめん…………………俺が………」
手のひらに爪痕がくっきり残るほど、握り締めたあと、押し花を見ながら、俺にはある考えが浮かんだのだった。
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