第3話-裕太-

琴子が車から降り、俺と圭に笑顔で手を振ると、家の中に消えて行くのを見つめて、俺はため息をついた。

「なかなか手強いね、琴子は。」

圭はくすりと笑って俺を見る。

「ほんと…逆にこんなアピールして気づかないもんかね?」

俺はもう一度ため息をついて、車を走らせる。

俺は琴子が好きだ。昔からずっと片思いだ。

笑顔がすごく可愛くて、優しい琴子。

特に蓮が死んだ時、俺が琴子を守らなければ、と思ったのだ。

「別に、普通に告白したらいいのに。琴子だって、裕太と一緒に居たんだし、好きだって言われたらすぐ意識するようになるかもよ?」

圭は外を眺めながら言う。

「はぁ…んー、まあ色々考えてみるわ。」

俺は苦笑しながら運転を続ける。

「…蓮がいなくなって、13年も経つんだな。未だに俺の中であいつの姿は鮮明で、そんなに経つなんて、気づかなかった。」

圭は蓮の死んだ川を眺めながら話す。

「確かに、早いもんだよな。俺たち、小学生だったのが、いつの間にか21だもんな。そういえば…蓮って、死ぬ前、友達と遊んでたんだよな?その友達って誰だったんだ?」

俺がそういうと、少しの間沈黙が続き、しばらくして圭が口を開いた。

「…俺はあの日、図書館に行っていて、一緒には帰ってなくて…誰と帰ったのか、知らないんだ。あの日、俺が一緒に帰っていれば、助けられたかもしれない。」

圭は瞳を伏せて、当時をゆっくり思い出しているようだった。

圭は蓮の親友であるから尚更、当時のことを悔やんでいるようだった。俺だって同じ気持ちだ。そう呟いて蓮の家の前で車を止めた。

「圭、元気出せ。近いうちに、3人でどっか遊びにでも行こう。圭は忙しいだろうけど、予定合う日に絶対。」

圭に笑いかけると、圭も微笑み、

「ありがとう、それとさ……蓮って、本当に遊んでて足を滑らせたのかな?」

「え?」

「…いや、考えたくはないけど、もしかしたら、見ず知らずの奴に突き落とされたんじゃないか…なんてな。悪い、元気付けてくれたのに。忘れてくれ。今日はありがとな。じゃあ、また。」

圭はシートベルトを外し、外へと出て行き、こちらにそれでは、というジェスチャーをした。

俺は戸惑いながらもジェスチャーを返し、車を走らせた。

…俺は考えたこともなかった、事故ではなくて、殺人だったのでは、なんて。でもだとしたら、誰がなんのためにやったんだ?

ただ最近は誰でもよかったなどと言って人を殺す奴がいるくらいなのだから、ありえるのか、などと考えていた。

もし殺人なんだとしたら、俺は…琴子も、琴子の家族も、蓮自身の人生も、圭も変えてしまった犯人を許せない。

警察は事故で処理したようだし、相当昔の事件だ。再捜査などは証拠がない限り難しいだろう。警察は、嘘をついて誤って落ちたと言ったのか…?だとしたら今更犯人が見つかっても、捜査してはもらえないのではないだろうか。その時はきっと俺が…犯人も同じ目に遭わせてやりたいと、殺してやりたいと、そう思いながら車を走らせる。

…一度、当時交番にいた警察官から、話を聞いてみよう。せめて、本当に事故なら、蓮と最後に、どんな会話を交わしたのか、知りたくなったのだ。

俺はハンドルを握りしめ、交番へと向かった。

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