第2話-琴子-

今、土砂降りの中、裕太と圭と私で、兄に逢いに向かっている。

裕太は一昨年に運転免許を取り、それからは車で3人でお墓参りに行くことが恒例になっている。

前は父さんと母さんと行っていたが、仕事が忙しく、時間が合わなくなったのだ。

裕太は運転席、圭は助手席に座っているため、2人がどんな面持ちでいるのか、私にはわからない。

私はというと、向かっている途中、もし、兄が生きていたら、という事を毎年考える。

兄は昔から、ドライブが大好きで、よく父さんに連れて行ってもらっていたものだから、今ここに兄がいたなら、裕太がヘトヘトになる程連れ回していただろう。もしくは、兄のことだから、自分で免許を取っていたかもしれない。

それなら裕太と交代で運転して、もっと遠出ができたかもしれない。墓場なんかじゃなくて、もっと綺麗で楽しい場所に。

それと、もし兄が生きていたなら、顔が整っていたから、随分モテて、可愛い彼女をドライブへ連れて行っていたかもしれない。

彼女ができたら、惚気た話を聞いていたかもしれない。

兄の楽しそうな姿を、純粋に見てみたかった…などと、思考を巡らせていると、いつの間にか雨は止んでいて、兄の眠る場所に着いた。

「裕太、おつかれ。ありがとな、毎年。俺も、早く免許取らなきゃ。」

圭は、そう言いながらシートベルトを外す。

「まあでも圭は仕事してるし、忙しくて取るの大変だろ。俺は運転するの好きだし、苦じゃないからいつでも言ってもらって構わねーって!」

裕太はニカッと笑い、シートベルトを外す。

兄の親友、木原圭キハラケイは、高校を卒業してすぐ、実家の花屋を継いだ。故に忙しくて、大学生である私や裕太とは違って、自由な時間はさほどない。同い年だが、大人っぽくて、落ち着いていて。もう1人の兄のような存在だ。

四宮裕太シノミヤユウタは私と同じ四年制大学に通っている。今は大学3年生だ。

裕太は高校の化学の教師を目指している。

昔から頭が良くて、スポーツ万能、顔も整っている方で、学校の子たちからとても慕われていて、今でも大学では常に周囲には人がいる。

私、須藤琴子ストウコトコは、普通の女子大生だ。別に絶大な人気があるわけでも、兄のように整った顔というわけでもない。

ただ普通に友達がいて、それなりにキャンパスライフを楽しんでいる。

私は、ウエディングプランナーを目指して勉強中だ。

兄がいなくなってから徐々に、人の幸せに携わりたい、と思うようになった。新郎も新婦も、ちゃんと大切にしたい、と、死が2人を別つことがあっても、忘れられないキラキラした思い出を残せるように。

あれこれと考えながら私は兄にあげるための花束の花の香りを少し吸い込みながら、兄のいるところへと3人で向かう。

「琴子、大丈夫?」

圭が心配そうに顔を覗き込んでくる

「っあ、うん、大丈夫!!今年も、花束作ってくれて本当にありがとう、お兄ちゃん、すっごい喜ぶ思う。綺麗だし、いい匂い。」

急に覗き込んでくるものだから、少し驚きながらも、花束を見つめて微笑む。

兄へ手向ける仏花は、いつも圭が作ってくれていた。普通の仏花とは違い、少し変わった花も入っている。本人には、花言葉の意味もあるし、親友だからこそ、ただの仏花にはしたくなかったのもあるから。と言われた。花言葉を聞いたが、恥ずかしいから、と教えてくれなかったが、圭のことだから、きっと素敵な意味を込めいるんだろうな、と思う。

「いいんだ、俺も毎年、レンにあげる花を考えるの、楽しみなんだから。」

そう言って圭は優しく微笑む。

「琴子さぁん?俺も運転頑張ったんだけど? 」

裕太は不貞腐れながら私の顔を覗き込む。

「裕太もいつもありがとう!運転お疲れ様。」

「ん。それでよし。!」

裕太はまたニカッと笑うと先を歩き出した。

しばらくして兄の墓に着き、墓石を掃除して、花を入れて、線香を入れて、3人で手を合わせる。

兄の優しい笑顔を思い浮かべて。

「…雨、降ってきたね、車に戻ろうか。」

しばらくして圭は空を眺めながらそう言った。

「そうだね。…またね、お兄ちゃん。」

私は墓を見つめてつぶやき、歩き出した。

車に戻ると、いつもと同じように、レストランへ向かい、昼食を済ませて、雨脚の強まる中、それぞれ裕太に家まで送ってもらい、家に帰ると、私は兄が恋しくなり、兄の部屋へ向かい、ベッドに腰掛けてぼうっと雨音を聴きながら、窓を眺めていた。

兄がなくなった夜も大雨であったことをなんとなく思い出しながら。

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