Ivy
イチバンボシ
第1話 -琴子-
私と兄は本当に仲の良い双子だったそうだ。
勝手に私が買ってもらったお菓子を食べていたこと、家の中でかくれんぼをして遊んだこと、私が大好きなおもちゃをなくして泣いている時、必死で元気付けようとしてくれたこと。
女の子のように可愛く整った顔。いたずらっぽく笑った顔。私が泣いた時に向けられる、優しい優しい、私が一番大好きだった顔。
ちゃんと覚えている。
でも、大好きな兄は、未だ8歳のまま。
今は墓石の下。幼い兄は眠っている。
兄が眠りについて13年も経った。
兄は、川で溺れて亡くなった。友達と遊んでいる時、誤って落ちた。…いわゆる事故死だったそうだ。
私はあの日、なぜ兄と帰らなかったのか、ケンカなんてしたのか。あの日からずっと後悔している。
…兄は死ぬ時、きっと苦しかっただろう。溺死…つまり息ができない。8歳の小さな口など、あっという間に水は塞いでしまうだろうから。川の流れが早いこともあり、事故は何度か起きていたが…あの頃はまさか、自分の兄が初の死人になるなんて、思いもしなかった。
兄が死んだ日、母さんは涙が枯れるのではないかというほど泣いた。父さんはただただ、兄の遺影を見つめていて、私は、”死”を理解し、受け入れることができずにいた。
だって棺に入った兄は、本当に眠っているようだったから。今考えたら実に不謹慎だが、花に囲まれた兄は本当に美しく見えた。
だが、火葬場へ運ばれてきた時、燃やされてしまう事を知り、泣きわめき、いますぐ火葬することをやめるようにずっと叫んでいた。
兄はなぜ眠っているだけなのに、あんな熱い炎の中に入れられなければいけないのか、わからなかったからだ。ただそのまま、一緒に家に帰ったらいい。それで起きたら、まずは謝って、また遊んで、おやつも一緒に食べて。これからもそんな風にやっていけばいい。そう思っていた。
私はその時初めて、人が死ぬことがどういうことなのかを思い知った。
しばらく、ショックで学校へ行けなかった。
母は仕事を詰め込むようになった。そして夜中に帰ってきては、仏壇の前で静かに泣いた。
父はあまり笑わなくなった。父はたまに兄の部屋に入り、静かにベッドに腰掛け、部屋中を見渡して、ぼうっとして。
悲しい、とか、辛い、とか、そんな言葉じゃ言い表せないような絶望。
私の幼馴染の
死んだ、ということを認知されたくなくて、2人に、兄のことを聞かれても、具合が悪くて、今、病院にいる。と嘘をついていたが、やがては親伝いにバレて、2人もしばらくは暗い顔で学校に来ていた。
それからしばらく経ち、2人はお墓まいりにも、家に線香をあげにきてくれた。
3人で、仏間で兄との思い出話をすることも何度もあって、それは今になってもやっていることだ。
改めて、兄は愛されていたのだ、と、何度も何度も思い知らされた。
そして今日は、21度目の私の誕生日であり、13度目の兄の命日だ。
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