異世界の邪神が海産物ぽかったので食べてみた

とくがわ

第1章

第1話



 気がついたら俺は、磯の匂いのする薄暗い大地に身体を横たえていた。


 ここはどこだ?見当もつかない。

 俺は誰だ?そうだ、俺は磯野馨いそのかおるだ。

 なんでここにいる?ダメだ、思い出せない。


 とりあえず起き上がり、周りを見回した。

 荒涼とした大地に磯くさい匂いが立ち込めている。


 足元に一本の刀のようなものが落ちていた。…違う、これは刀ではない。マグロを解体する時に使うマグロ包丁のように見える。何故こんなところにこんなものが。


 俺はマグロ包丁を拾い上げた。なんだろう、しっくりくる。マグロ包丁に意思があるはずはないのだが、そいつが俺に伝えている気がする。


「私はマグロ包丁ではない」

「なんだよお前」

「私はマグロを切る包丁ではない、私が斬るのは邪神だ」

「邪神包丁ってとこか?」

「……包丁から離れてほしい」

「すまん。でもなんでお前喋れるんだ?」

「そんなことはどうだっていい。来るぞ!」


 磯の匂いが強くなって来た。目の前には、一体の、イカ、がいた。


「邪神だ…」

「美味そう」

「え?」


 邪神と包丁が不審な目で俺をみたような気がした。邪神が止まったその一瞬、俺は包丁を突き立て、一気に邪神を引き裂いた。連続して包丁を振るい続ける俺を、邪神の目が見つめていた。


 新鮮なイカのイカそうめんというものは実に美味である。透明なイカそうめんこそがイカそうめんの醍醐味である。


 イカそうめんだけというのも新鮮なものであれば悪くはないが一味足りない。そうだ、ここにイカスミもあるではないか。イカそうめんにイカスミをつけて食す。美味い。ちゃんとしたところで食いたいところではあるが。


 ……え?


 俺はなんでこの陸の上に上がったイカを自然に切り刻んで食ってんだ?……美味そうだったからか?美味そうだった、いや美味かったこいつが悪い。


「おい」

「なんだよ包丁」

「……お前……なんなの?」


 包丁に疑問を持たれてしまった。


「なんなのって、俺は磯野馨……あれ、ダメだあとは思い出せない……」


 記憶がほとんどない。名前以外はさっぱりである。1つ言えることは、俺は海産物が大好物だということである。




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