神々会議

 床も壁も天井も汚れ無き白で統一された部屋。

 扉すら無い密室の真ん中には灰色の円卓、それを取り囲むように等間隔で6人の神が並んで座っていた。


「では、本日の神々会議を開始しようか」


 話の口火を切ったのは、ビシッとスーツを着こなす〈マジメを司る神〉。

 ちなみに、神々は自分が司るものにまつわる服装を着る習性を持っている。


「めんどくせ~。早く終われ~」


 一切オブラートに包まず、今の気持ちをストレートに吐き出したのは〈ぐうたらを司る神〉。

 上下グレーのスウェットをビシッと着こなしている。

 会議においてその態度は無いだろう……と考えるのは所詮人間。

 優秀な神の条件とは、己が司るものに忠実であることであり、ぐうたら神は神の鏡と言っても過言では無いのである。


「それよりぃ、みんなでイイコトしなぁい? ウフッ」


 紫色のキャミソールを着こなす〈セクシーを司る女神〉が、吐息混じりに囁いた。


「よろしい。では、真面目に良いことをしようでは無いか」


 マジメ神が真面目に答えるなら、ぐうたら神は「めんどくせ~。やりたいヤツだけ勝手にやっとけ~」と相変わらず素晴らしい司りっぷりを見せる。


「……ちょっとみんな聞いて! なんかおかしく無い? 私たち、本当は5人じゃなかった? なのに、今ここにいるのは……6人も居る! ギャァァァァァ!!!」


 と、気持ちいいぐらいの叫び声を上げたのは、白装束を着た〈ホラーを司る女神〉。

 とにかくすぐホラーろうとするのは神として良い心がけではあるものの、この会議は元から6人参加することが決まっていた。

 つまり嘘。嘘は良く無い。

 もちろん、〈嘘を司る神〉であればその限りでは無いが。


「6という数字はなんて美しいのかしら。それはまるで天使の卵。持ち手の付いた天使の卵そのものだわ」


 ゴシックファッションに身を包み、うっとりした表情で語り出したのは〈ロマンチックを司る女神〉。

 ちょっと何を言っているのか分からない……というのは所詮人間。

 ロマンチックとは心のキラメキであり、意味などという薄っぺらい物差しで測れるものでは無いのだ。


「うえ~い! みんな最高じゃん! 会議最高! 神々最高! うえ~い!」


 いきなりハイテンション絶好調で口を開いたのは、キラキラしたサングラスをかけ、意味不明な英字ロゴが入ったピチピチのTシャツにジャケットを羽織った〈チャラ男を司る神〉。

 中身の無い発言こそ、チャラ男神の真骨頂である。


「さあみんな、そろそろ本題に入ろうか。本日の議題はズバリ『神々を増やす方法』。現状、人間の数に対して神々の数があまりにも少なすぎる。もっと増やしていかなければならないということで、忌憚なき意見を出し合っていこうではないか」


 マジメ神が真面目に議題を発表すると、真っ先に手を挙げたのは意外にもぐうたらを司る神であった。


「めんどくせ~。別に増えなくてよくね~」

「なるほど。他には?」


 次に手を挙げたのはセクシーを司る女神。


「ウフッ。増やすって言ったらアレしかないわよねぇ、アレ。アタシだぁい好き。激しくて、時に優しくて、したりされたり……ウフッ」

「なるほど。他には?」

「ギャァァァァァ! 神と人間が交わって生まれるのは悪魔ぁぁぁぁぁ! いやぁぁぁぁぁ! 来る……きっと来る! ……ギャァァァァァ!」

「なるほど。他には?」


 ロマンチックを司る女神が、ゆっくりと時間を使いながら手を挙げた。


「禁断の夜から生まれるのは、もう一つの満月。それはつまり、漆黒を照らす月光の雫。言うなれば、星屑がたどり着く理想郷……」

「なるほど。他には?」

「うえ~い! みんなの意見最高じゃん! 神々増えるじゃん! 増えまくっちゃうじゃん! 言うなれば……増えるじゃん! うえ~い!」

「なるほど。一応全員の意見が出揃ったが、言い足りないことがあればぜひ」


 すると、またもや最初に手を挙げたのはぐうたら神だった。


「めんどくせ~。噛み付いたら神にできるってことでよくね~」

「ギャァァァァァ! ゾンビィィィ!!!」

「噛むならやっぱり首筋よねぇ。チュッチュッってしながらガブッ。そう、もっと激しく大胆に……チュッチュッガブッ! チュッチュッガブッ……ガブガブッ!」

「血の滴る夜……人が減り、神々が増え、世界が真実の姿を見せる。それはつまり、夜明けの足音。言うなれば、朝日が隠した真実の黄昏……」

「うえ~い! そんでみんな神々じゃん! 人々バイバイ神々うぃ~す! うえ~い!」



 

 ……と、いよいよ盛り上がってきた会議が行われてる部屋の隣の部屋。

 会議室の壁に埋め込まれたマイクロカメラが捉えた映像が、壁掛けのモニターに映し出されている。

 白衣を着た2人の男が、それをジッと見ながら語り合っていた。


「まったく、この患者たちの会話は本当に面白いですなぁ。ずっと見てられる」

「同感です。当院に〈神々病〉を発症した患者が搬送されてくる、と最初に聞いた時は不安で一杯でしたが、いやぁ全くもってそんなものは杞憂に終わりました。未だに感染経路など不明な点は多々あるようですが、こんな神々なら私もなってみたいぐらいですよ」

「ハハハッ、そうですな。彼らの楽しそうな姿を見たらうえ~い」

「……えっ? だ、大丈夫ですか??」

「ん? いや、これはほんの冗談……うえ~い! 最高じゃーん!」

「……ギャァァァァァァ! 来る……きっと来る……!」

  


〈了〉

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る