お菓子戦艦タルト

 お菓子王国とオカズ帝国。

 ともに島国である両国は海を隔てたお隣さん同士なのだが、建国以来常に対立し続けていた。

 そして数ヶ月前、とうとう戦争状態に突入してしまう。

 そのきっかけとなったのが、かの有名な〈パンケーキ裁判〉である。


 パンケーキはお菓子……誰もがそう思っていたのだが、あるときオカズ帝国が突如〈タベモノ連邦裁判所〉を通じてお菓子王国に対し、


「パンケーキはオカズである!」


 と訴えたのだ。

 寝耳に水のお菓子王国側は当初大騒ぎとなったものの、パンケーキがオカズなわけない……と油断したのが命取り。

 裁判の結果、なんとパンケーキはオカズだと正式に認められてしまったのである。

 歓喜に沸くオカズ帝国とは対照的に、お菓子王国は悲しみに暮れた。

 メンタル的なダメージだけでなく、今や食べものとしての確固たる地位を築いていたパンケーキの移籍によって国家間のパワーバランスが大きく変動。

 勢いづいた帝国側は最大の好機とばかりに宣戦布告。

 勝訴の流れに乗るように、お菓子王国を手中に収めるべく一斉攻撃を仕掛けてきた。

 そして、いよいよ万策尽きて敗北宣言間近と囁かれていたのだが──。




「お菓子提督! ついに完成しました!」

「おお、ついにか! いける……いけるぞ! 我がお菓子王国逆襲の時が来た!」


 崖っぷちまで追い詰められたお菓子王国の最終兵器。

 その名も……お菓子戦艦タルト!


 硬く美味しいタルト生地の装甲は敵艦からの攻撃を完全シャットアウト!

 さらにそのタルトの内側はスポンジケーキで出来ており、圧倒的な浮力で機動性抜群!

 主砲の生クリームレーザー砲を始め、マカロン爆弾、ソフトクリーム魚雷、そしてシュークリーム大砲と多彩な攻撃を誇る!

 燃料にはハチミツを使用し、動力伝達効率が大幅向上!

 そして、船底から甲板まで全てをビターチョコレートで覆うことにより猛々しさを醸し出すだけでなく、カカオ効果により敵のレーダーをかく乱!


「──と、間違い無くお菓子王国の歴史上最高の戦艦と言っても過言ではありません!」

「でかしたぞ造船技官! 島国同士の戦いは、海を制するものが勝利を収めるのだ! さあ、出撃だ!!」


 


 ──お菓子戦艦タルト、ブリッジ。


「提督、正面12時の方向に艦影あり! オカズ帝国の戦艦と思われます!」

「よし、先制攻撃だ! ソフトクリーム魚雷発射!」

「アイアイソーダ!」


 濃厚な牧場生搾りミルクを使ったソフトクリーム魚雷が戦艦タルトから勢いよく飛び出し、敵艦に向かって海中を一直線!


「衝撃波確認! 命中! 命中!」

「でかした! で、沈んだか? ちゃんと沈んだか……?」

「……い、いや、敵艦、ビクともせず! む、無傷です!!」

「な、なんだと!? どうなってるんだ一体!?」

「ただいま確認を……」


 飴で出来た双眼鏡を敵戦艦の方向へ向ける航海士。


「……あ、あれは……カツオ節です! オカズ帝国の戦艦の装甲は、頑強なカツオ節のようです!!」

「なにぃ!? オカズの奴らめそうきたか……。カツオ節は硬い……硬い硬い硬い! しかも、海との相性抜群じゃないか! な、舐めたい……いや、舐めた真似を!! それなら、次はシュークリーム大砲だ! 撃てーい!!」


 ボンッ、ボンッ、ボンッ!

 サクサク生地が自慢のシュークリーム砲弾が敵艦めがけて山なりに発射!

 正確無比を誇るグラニューレーダーにより確実に命中する軌道を描いて……はいたのだが、敵船艦上空で突如爆発。


「シュ、シュークリーム砲、すべて迎撃されました!」

「なにぃ!? ど、どういことだ!?」

「あれは……唐揚げミサイルです! 最新鋭のカラットアガットルミサイルによって迎撃された模様!」

「おのれ、こしゃくな真似を……かくなる上は、主砲で総攻撃だ! 生クリームレーザー砲発射! ついでに、マカロン爆弾も全部撃てーい!!」

「アイアイソーダ!」


 ……が、しかし。

 その全てを、敵戦艦が展開した〈湯葉リア〉によってガードされてしまう。


「なんだあのヘルシーなバリアは……くそっ、もう打つ手無しなのか!

「提督、残念ながら……」

「……ならば、全乗組員に告ぐ。今すぐこの艦から撤退せよ! 救命艇に乗って国へ戻れ! 私一人ここに残り、敵戦艦に体当たりして相打ちを──」

「提督! 敵戦艦から攻撃! あ、あれは……おにぎりです! 無数のおにぎり爆弾が発射されました!」

「お、おにぎり!? 終わった~。見込みが甘かった~……お菓子だけに」



〈了〉

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る