キャベツサッカーW杯

「さぁ、ついにやって参りました、キャベツサッカーW杯決勝! 好天に恵まれ、スタンドを埋め尽くしたサポーターの皆さんは、間も無く吹かれるホイッスルを今や遅しと待っていることでしょう。そして、本日の解説は夏木さんです。よろしくお願いします!」


「はーい、どうもよろしくぅ。いやぁ、決勝ってのはやっぱり興奮するねぇ! もう、興奮しすぎてパンツ履き忘れてきちゃったよ、がっはっは」

「…………さ、さて、決勝のカードは何と日本対ブラジル。我らが日本が、まさかの快進撃でついにここまで来ましたよ夏木さん!」


「そうだね! 大したもんだよ。って、まあ、僕は絶対日本は決勝まで上がってきてくれると信じたけどねぇ!」

「ほう。さすが夏木さん。元CJリーグの強豪チーム監督をされていただけはありますね」


「うん、まあ、日本と言えばとんかつじゃない? とんかつと言えばキャベツじゃない? だから優勝間違いなし! なんてね?」

「…………」


「うん」

「……おっ、キャベツサッカーのアンセムが聞こえてきましたよ。いよいよ選手入場です!」


「おっ、出てきた出てきた。いやぁ、みんないい顔してるねぇ!」

「そうですね。そして、選手に続いて、審判団の入場です。もちろん、主審はキャベツを小脇に抱えています」


「抱えてるねぇ。見た感じ、新鮮なキャベツだね。うん、これはイケる。日本の選手たちは、新鮮なキャベツの扱いが得意だからね」

「なるほど、それは心強い情報ですね。おっと、ここで両チームのキャプテンが握手を交わし、主審が手に持っているキャベツの皮を1枚ずつめくります。お馴染みの光景ですが、夏木さん。これは一体どういう意味があるんでしょうか?」


「うん。両者キャベツの皮をめくって、大きい方が前半どっちのゴールに攻めるかを決め、もう一方のチームのキックオフで試合が開始され──」

「おおっと、キックオフの笛がなりました! ついに試合開始です! 夏木さん、序盤はどういった展開になると予想されますか?


「そうだね。試合開始直後のキャベツはまだ皮もめくれず、身も引き締まってるから凄く重くて硬いんだよね。だからフィジカルで劣る日本チームとしては、なるべくキャベツを回して、じっくり攻めるんじゃないかな。逆にブラジルは、そういった日本の弱点も研究済みだろうから、ガンガン攻めて──」

「おっと、日本チーム見事なパス回しからシュート!! あー、惜しくも入りませんでした! でも、いいんじゃないですか夏木さん!」


「そうだね。いいよね。どんどん攻めればいいよ攻めれば」

「おっと、ブラジルも負けずと攻める! ガンガン攻める!」


「ほらね! 僕が言った通りでしょ! 行け行け行けぇ!!」

「…………。お、おっと! ブラジル選手の華麗なドリブルに、日本選手がたまらず激しいタックル! ああ、主審が胸ポケットから、イエロー芽キャベツを出してしまいました! 序盤でこれは痛い!」


「そうだね。イエロー2玉で退場だからね。次からはその事が頭にある分、守りに隙がでちゃうかもね」

「そうですね! おっと、そしてフリーキックで蹴ったボールがピンポイントでフォワードの元へ……うわぁ! ゴルゴルゴルゴルゴール!! ブラジル先制!!」


「あちゃ~。ここは120%集中しなきゃいけない場面だったんだけどねぇ。まっ、気持ち切り替えて。まだまだ時間はたっぷりあるんだから!」

「そうですね! 頑張れニッポン!!」


 ──そして、結局スコア0-1のまま前半終了。

 120分のハーフタイムを挟み、運命の後半が始まった。


「いやぁ、夏木さん。ついに後半開始のホイッスルです!」


「そうだね。キャベツサッカーのハーフタイムってなんでこんなに長いんだろうね。もう、長すぎて、僕なんか家が近いから一旦帰宅してお茶してきたよ。そっからゆっくりスタジアムに戻ってきたのに、まだ30分も残っててびっくり、がっはっは」

「ですねぇ~。さぁ、話を試合に戻しましょう。1点ビハインドで後半を迎えた日本代表は、どう戦えばいいのでしょうか?」

 

「うん。がんばろ。とにかくがんばろ」

「は、はぁ……もちろんそれも大事でしょうけど、えっと、もう少し具体的に何かあれば……」


「そうだね。後半の終盤近くになるとキャベツもどんどんめくれて、キックのダメージで繊維が壊れて柔らかい感じになるからね。そうなったら日本にも十分ゴールチャンスが生まれるはずだから、まずはそれまで何とか失点しないように凌ぐ。それしかない! それと、がんばろ!」

「わっかりました。夏木さんの言うとおり、なんとかこのまま追加点を許さないで頑張ってほしいものです!」


 ──そして、日本代表はブラジルの猛攻を何とか凌ぎ、0-1のまま終盤を迎えた。


「さぁ、残りタイム5分を切りました。夏木さん、なんとか失点せずにここまで来ましたよ!」


「だね! ほら、見てキャベツ見て! あんなに小さくなってら! あれなら日本選手でもドカンといけるよドカンと! いけいけいけ!」

「そうですね……って、おっと。夏木さんの言葉通り、日本選手の動きが明らかに良くなっている! 対するブラジルの選手たちの足は止まり始めてますよ! 軽快なパスとドリブルでブラジル陣内に攻め入る日本! そして、強烈なシュート! 入ったぁぁぁ! ゴーーーーーール!!!」


「わぁぁ! やったやった!! いや、まだまだまだ! もう1点! いけるいけるいける!!」

「はい! 日本のサポーターも大声援で後押ししています! さぁ、そうこうしている内にもうキャベツは動き始めている。おっと、交代で入った日本の3選手が、華麗なダイレクトパスで一気にブラジルのバイタルエリアを突破! そして、エースストライカーにキャベツが渡る! シュート! ……と見せかけてキックフェイントでブラジルディフェンス陣を翻弄し、今度こそ強烈なシュート! キーパーの逆、逆、逆!! ゴーールルルルルルル!!!! 日本逆転、逆転日本!!!!」


「わぁぁ! やったやった! いや、まだまだまだ! もう1点、いやもう10点!!」

「夏木さんそれはさすがに……って、いま終了のホイッスル! 勝ちました! 日本代表、悲願のキャベツサッカーW杯優勝を果たしました! う……申しわけございません、感極まってしまい……」


「わぁぁ! やったやった! 優勝した! 本当に優勝した! バンザーイバンザーイ!!」

「ううう……やりましたね、夏木さん。あっと、ここで予め準備していた有名シェフが走ってピッチの中に向かいます。そして、今日の試合で使われたキャベツを受け取り、ベンチ横に用意されたキッチンのまな板で千切りにします! 軽快な包丁さばき! そして、両チームの選手に振る舞います。キャベツの千切りの前では、勝者も敗者も関係ないんです!」


「だね! 素晴らしい光景だ!」


「あっと、そろそろ放送終了の時間となりました。夏木さん、ありがとうございました」

「ありがとうございました! いやぁもう最高!」


「はい。ご覧頂いた通り、キャベツサッカーW杯は日本の優勝で幕を閉じました。では、また次回、4年後にお会いしましょう」

「うん。4年後楽しみだね。って、ねぇ、ボクたちもキャベツの千切り貰いに行こうよ」

「あっ、はい。行きましょう行きましょう! では皆さんさようなら~」

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