ピラミッドラブストーリー
恋の始まりは、ピラミッドの先端。
あの三角が合わさった先っちょの尖ってるとこ。
まあ、厳密に言うと、尖って見えて少しだけ平らになってるんだけど、そんなことはどうでもいいの!
大事なのはそう、彼がその先端に立ってたってこと。
それは運命としか思えなかった。
だって、普段ピラミッドなんてあまり来ることなんて無かったんですもの。
何億分の一の確率で私がピラミッドに立ち寄った時、彼はその先端に立っていた。
しかも、直立不動で。
思わず私は声をかけてしまった。
「ねえ、そこで何してるの?」
そしたら彼、じっと遠くの空を見つめながらこう返したの。
「何って? そうだね、探してるのかな。明日の向こう側ってやつをさ」
……ううん、理屈じゃ無いの。
もう、言ってる意味はさっぱり分からないけど、私はキュンってしちゃった。
恋ってさ、先にキュンってした方が負けじゃない?
うん、絶対そう。
先にキュンってした方が負け。これだけは絶対譲れない。
だから私、彼にこう言ったわ。
「ねぇ、してやられちゃった。アナタの勝ちよ。ほら降りてきて私をギュッと抱きしめて」
普段の私と全然違うとか、まだ出会ったばかりとか関係無い。
だって、ピラミッドの前では誰だって大胆になっちゃうんだから。
「いや、それは出来ない。なぜなら、負けたのは僕の方だから」
えっ? それって……
「どういうこと??」
思わず聞き返しちゃった。
本当は、一瞬でその言葉の意味を理解してたのに。
でも、彼の口から直接その理由を聞きたくて……やだな、これもピラミッドのせいかしら。
そして彼は、初めて"明日の向こう側"から目を離し、私の方を見た。
「僕って本当にバカだな。なんでこんな所に上がってきちゃったんだろう」
彼と私の視線は、見えない糸でギュッと結ばれていた。
ジッと見つめられてすごく恥ずかしいけど、目を逸らさないように頑張りながら、彼の言葉の続きを待った。
「なんで、そんなに美しい人がいるのに、こんな所に上がってきちゃったんだろうって。すごく後悔してるんだ。もどかしいぐらいに」
そう言うと、彼はそっと瞼を閉じた。
それが彼の寝顔かと思うと、一気に胸がドキドキしてきた。
だめ、しっかりしなきゃ私。
見る見る内に紅潮していく頬をポンッと軽く叩きながら、私は思いきって彼にこう言った。
「ねぇ、聞いて。そんな悩み、簡単に解決するんだから」
「えっ……?」
彼の瞼がそっと開いた。
世界で一番美しい瞳に見つめられながら、私は最後に一言叫んだ。
「降りてくればいいんだよ! ほら! 早く!」
「……そっか! そうだ、降りればいいんだ! ありがとう。愛しの君。何よりも大切なことを教えてくれて──」
と、彼がピラミッドを降りようとしたその時……
「ほらー、ユウキくん、マナちゃん、いつまで遊んでるんですかー? お昼の時間ですよー、早く戻ってこないと、給食無くなっちゃいますよー!」
幼稚園の先生が笑顔で呼びかけた。
「わー、やだやだ~。ハンバーグ、ハンバーグ!」
ユウキは、焦った顔でピラミッド型の遊具から駆け下りた。
「違うよユウちゃん、今日はカレーだよカレー。ほら、急げー!!」
マナも慌てて駆け出す。
まさかこの2人が、近頃このピラミッドを使ったままごとに夢中だなんて、大人たちは知る由も無かった……。
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