タイムマシンサポートセンター

「はい、こちらタイムマシンサポートセンターです」

「あの~、そちらのタイムマシン使わせて頂いてるんですけど」

「ありがとうございます」

「凄く便利で助かってるんですけど、なんかタイムマシンに乗る度に物忘れが激しくなってるような気がするんですけど、これって気の──」

「あっ、そういう仕様ですので」

「えっ? 気のせいじゃなくて?」

「はい。気のせいじゃなくて仕様のせいです。時間を移動するという行為は人体に多大な影響を与えるんです。過去や未来に行かれて楽しんで頂いてるんですよね?」

「ええ、それはもう。仕事が終わったら脇目も振らずに帰ってタイムマシン。休日は食事も取らずにタイムマシンって感じだけど……」

「ご愛用頂きありがとうございます。そこまで頻繁にタイムマシンに乗られてるのに、物忘れだけで済んでいるなんてとても運の良いお方だなと正直驚いております」

「そりゃどうも……って、どういうことですそれ? なんかヤバいことが起きちゃうことも……?」

「いえ、我が社のタイムマシンは安全第一をモットーにしておりますので、お客様の身に危険が及ぶことなど……」

「いやいや、さっき何か気になること口走ってたけど、ってか急にマニュアル対応になってない?」

「いえ、我が社は最先端技術を駆使した機械を販売しておりますが、一番大切にしているのは人のぬくもり。できる限りマニュアルに頼らない対応を心がけており、社員食堂もオートメーションではなくあくまで手作りを重視し、例えばハンバーグに関しては必ず手ごねで……」

「わかったわかった。とにかく、物忘れが激しくなっちゃうのはタイムマシンの仕様で、少し乗るのを控えれば治るってことだよね?」

「いいえ。一度消えた脳細胞と友達に貸したお金は一生返って来ないものです。残念ながら、今さら控えたところで後の祭りですよ」

「ひでぇ……よし、こうなったら訴えてやる! 人体に影響を与えるようなものを販売したって!」

「どうぞご自由に。ただし、当社が抱えている最強の弁護士団、懇意にしている大物政治家の圧力を持ってすれば、お客様のような一個人が裁判を起こしたところで正直……」

「わかったわかった! ちょっとカッとなって口走っただけで、本気で訴えようなんて思ってないから。ってか、一番大切にしてる人のぬくもりどこいったよおい。冷酷無比すぎるでしょ」

「ありがとうございます」

「いえいえ……って、なんなんだよこの会社。まぁ、面倒くさいからもういいやその件は。あと、もう1つタイムマシン使ってて気になるところがあるんだけど」

「はい、どのような?」  

「タイムマシンの入口の下辺りに何か出っ張ったとこあるじゃない? あそこ、気がつくとヌメヌメしてるんだけど。で、ウエットティッシュで拭くんだけど、何回か使ってるとまたヌメヌメしちゃうんだけど、もしかして欠陥品なんじゃないかって凄く気になってるんだけど……」

「あっ、そういう仕様です。タイムマシンを繰り返し利用していると、時間のカスがこびりついてしまうんです、あの出っ張ったとこに」

「ああ、他のマシンでもみんなヌメヌメなってるのね。だったら良いわ。使う度に拭けばいいだけの話だし」

「ご理解頂きありがとうございます。なお、ヌメヌメ成分は人体に多大な影響を及ぼすことが確認されておりますので、くれぐれも直接手で触れないようにご注意ください」

「えっ……!? 結構、ギリで拭いてたけど? 一応ちゃんとウエットティッシュで拭いてたけど、小さいサイズのウエットティッシュだったからこすってるときにグルグルってなっちゃって、そん時に素手でヌメヌメに触れちゃった可能性があるんだけど。一体どんな症状が起きたりするの?」

「それは……。おぞましすぎて私の口からはとても……」

「いやいやいや、怖すぎるんですけどそれ。でも、パッと見、肌になんかブツブツが出来たりとかなんも無いんだけど」

「あっ、症状が出るとしたら、ヌメヌメに触れた直後に出てるはずなんで、いま大丈夫なら大丈夫だと思います」

「ああ、それを先に言ってよ。ドキドキしたなあもう。でも、その話聞いちゃったらこれから掃除するの躊躇しちゃうんだけど……」

「それならお客様。先日発売されたばかりの最新型へ買い換えをご検討されてみてはいかがでしょうか? そちらの最新型では、出っ張ったとこへのヌメヌメの付着を最小限に抑える機能を備えております」

「ほほう。そりゃ安心だ。でも、さぞかしお高いんでしょ?」

「いいえ、最新型の価格は、お客様がご利用されているタイプの約38倍程度で──」

 ガチャ。

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