パスタ綱引き

『第48回町内対抗運動会。大変盛り上がっておりますが、続いての競技はパスタ綱引き。お待たせ致しました、パスタ綱引きです。出場選手の皆様は準備の方よろしくお願いします』

 

 そのアナウンスが流れると、屈強な戦士──いや、選手たちが腕まくりしながらグラウンドへと歩き出した。

 そして、この日のためにわざわざお越し頂いた有名イタリアレストランのシェフが、第一試合で使用するためのパスタを茹で始める。

 綱引き用に特別に作られた全長15mの一本パスタ。

 ゆで時間や気候によって出来上がったパスタの硬さも大きく変わってくるので、第一試合に出場する2チームの選手たちは、真剣な眼差しでシェフの動きをジッと見守っていた。

 そして、熱い戦いの幕が切って落とされた。

 出場するのは1丁目から8丁目まで全8チームで、試合はトーナメント方式で行われる、

 第1試合は、2丁目が圧勝で1丁目を下す。

 第2試合は、3丁目の勝利……と思いきや、副審が3丁目選手の不正に気付き、反則負けで4丁目の勝ち上がりとなった。

 町内対抗という性質上、今後の生活に配慮して反則の詳細は明かされなかったが、恐らく3丁目の選手が規定以上の粉チーズを手に付けていたんじゃないかという噂が流れたが、真相は闇の中。

 その後も次々と試合が行われ、とうとう決勝戦となった。


『いよいよパスタ綱引き決勝戦。ディフェンディングチャンピオン2丁目チームに対するは、昨年準優勝の5丁目チームです。奇しくも2年連続同カード。因縁の対決ということで、両チームとても気合いが入っているようです』


 有名イタリアレストランのシェフが、絶妙なタイミングで鍋からパスタを取り出すと、運営スタッフが慎重にそれをグラウンド中央に運ぶ。

 その間も、両チームの選手計10名は、パスタの様子に目を凝らし、茹で具合やアルデンテの塩梅を推し量る。

 なぜなら、硬めと柔らかめでは戦略が180度変わってくるからだ。

 柔らかめと判断すれば慎重に、硬めと判断すれば多少強引に、という具合に。

 そして、5人とも赤いTシャツで揃えて気合い十分の5丁目チームは、去年の雪辱を果たすため、なんとかパスタのゆで具合を確認しようと躍起になっていた。

「タナカさん! あれ、どう思う??」

「ああ、そうだね……だ、だめだ! 老眼が酷くて全く分かりゃしねぇ! ナカノさん、なんとかわからねぇか!?」

「よし、任せろ……だ、だめだ! オレは米派だから、パスタのことなんか分かりゃしねぇ! ノムラさん、た、頼む……」

「おし、任された……だ、だめだ! トイレに行くの忘れてて、正直パスタの硬さとか判断する余裕がねぇ! くそっ、何でオレはこんなにトイレが近いんだ……あとはムラニシさん、もう……頼れるのはアンタだけだ……」

「フッフッフ、みんな大丈夫。私はこの日のためにどれだけ多くのゆであがったパスタを見て目を鍛えてきたことか……だ、だめだ! コンタクトがずれて何も見えやしねぇ! チッ、私はなんてバカなんだ! いつもはメガネなのに、今日は沢山の奥さんに見られるからって色気出して普段つけないコンタクトなんかしてきてしまった……あああ、許してくれぇ……ああ、神よ……」

「みんな、大丈夫さ! この1年間。土日の全てをパスタ綱引きの練習に費やして来たじゃないか! 練習終わりに飲み交わしたビールの数だけ、僕らは勝利に近づいていたはずだ! イケる、絶対イケる!」

「そうだ! ニシヤマさんの言う通り! あらゆるゆで具合のパスタを使って練習してきたんだから、きっとこの手が勝手に握り具合を調節してくれるに決まってる! もはや、我々の勝利は決まってるも同然だ!」

「そうだ、勝った!」

「やった! 勝った!」

 そして試合が行われ……


『ご覧の通り、パスタ綱引き決勝は2丁目チームの圧勝となりました。2年連続優勝を飾った2丁目チームの選手たちに、大きな拍手をお贈りください。では、次の種目マカロニ玉入れに出場する方は……』

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