バーベキューウィズヴァンパイア

 良く晴れた休日。

 俺は学生時代の仲間に誘われて、バーベキューの出来る公園にやってきた。

「お、斉藤! こっちこっち!」

 声をかけてきたのは、一番仲が良かった水嶋だ。

 まあ、コイツとは今でもたまに飯を食いに行ったりもしてるので、特に懐かしいということもない。

 どうやら、俺が一番最後の到着だったらしく、他のメンバーは全員揃っていた。


「斉藤君、久しぶり!」

「よお、久しぶり!」


 メガネ女子の成実。

 相変わらず真面目そう。


「よお、斉藤。ちょっと太ったんじゃね?」

「うるせい、前からこんなもんじゃい!」

 

 藤井は小柄で毒舌。だけど根は良い奴だ。


「あっ、斉藤君……大人っぽくなったね」

「えっ、あ、そう? ははっ」

 

 メンバー最後の1人、正統派美女の美和からそんな事を言われて、俺は本気で照れてしまった。

 こうやって集まると、まるで青春が蘇ったような──


「サイトウさん、ハジメマシテ」

 

 ……ん?

 

「ドウモ、ドウモ」


 ……はい?

 なんですか、この外人さんは?

 今日のメンバーは5人。

 水嶋と成実、藤井と美和、そして俺の仲良し5人組のはずなのに……。


「ミンナソロッタコトデスシ、ジャア、ハジメマスカ!」


 おいおい、仕切り出したんですけど外人さん。

 よく見ると、顔とかめっちゃ蒼白いし、黒いマント羽織ってるしやっぱ外人さんってすげーな……って感心してる場合じゃないよ!

 マジで誰この人。

 なぁ、水嶋──


「よーし、じゃあバーベキュー始めるぞ!」


 って、水嶋もみんなも普通に受け入れちゃってる感じなんですけど。

 黒いマントの外人さん誰よりもテンション高く「オー!」とか右腕振り上げちゃってるし。

俺はハッキリさせようと水嶋の肩を叩き、

「なぁ、彼は何者?」

 と、外人さんの方に目をやりながら訊いた。

「ああ、ヴァンパイアだよ。バーベキューやってみたいって言うから」

「あ、そうか。すっきりした。ってことで、腹も減ってきたし、始めようぜ!」

 そしてオレたちは、テキパキとバーベキューの準備を進めた……って、いやいやいや!

 ヴァンパイアって、なんです!?

 あまりにあまりにも過ぎて逆に普通に受け入れちゃったけど……って、他のみんなは全く何にも戸惑う様子を見せず、グリルに火を入れたり淡々と準備を進めていた。

 空気を壊すのも何だし……という理由でとりあえず俺は心のモヤモヤをグッと飲み込んだ。


 

 網の上に乗せた肉や野菜がジュージューと美味しそうな音を立て、日も暮れかかりオレンジに染まった空に煙が立ち上っていた。

 好きなように焼いて好きなタイミングで食べる。

 オレたちは、そんなバーベキューの醍醐味を味わいながら、各々近況報告なんかを語り合っていた。


「ワタシはデスネ、最近スゴク貧血気味デス。コノご時世、ナカナカ簡単ニ血ヲ吸ウコトモ出来ナクテ」


 ……オマエも語るのか!

 ってか、まだいるのコイツ! 全然帰る気配無し!

 血吸うとか言ってるし、ヒクわぁ~。

 でも美和とか「あははは」とか笑って返してるし。

 どーなってんのこれ。

 最近のバーベキューは、ヴァンパイアと一緒にやるのが流行ってるとでも?


「アッ、ニンニクハ焼カナイデクダサーイ! ウワァ~、ウワァ~」


 めっちゃブルってるし!

 好き嫌いするなよ!

 ニンニクのホイル焼きとかバーベキューの主役でしょーが!


「アッ、マント焦ゲタ、マント! ヒィ、コレ高インデス~!!」


 知るかよ!

 バーベキューやるのにマントなんか着てくる方が悪いだろが!

 あー、面倒くさいなもう、ヴァンパイア。

 せっかく久しぶりにみんなと会えるって楽しみにしてたのに。

 とんだ邪魔者が入ったもんだよ……と、思いきや。


「ネエネエ、斉藤サン」


 なぜか、ヴァンパイアがヒソヒソ声を出しながら俺に近寄って来た。


「な、なに??」

「ハイ、ツカヌコトヲオ聞キシマスガ、斉藤サン、モシカシテ美和サンノ事ガ好キ何じゃ無イデスカ?」

「はっ? な、なぜそれを……」

「フフフ。目ヲ見レバスグ分カリマスヨ」

「そっか……って、ダカラナニ?」

 あまりの唐突さに、俺も思わずカタコトになってしまった。

「コレヲドーゾ」

 そう言って、ヴァンパイアはマントの中から小さな小瓶を取り出した。

「コレハ、我々一族ニツタワル秘伝ノ惚レ薬デス。コレヲ使エバ、美和サンハアットイウ間ニ斉藤サンノモノニ……」

「マジで……??」

 当然、聞いた瞬間は半信半疑だったが、彼がヴァンパイアだと言うバックボーンを考えると、乗ってみる価値はあるんじゃないかと思ってしまった。

 そして俺は、ヴァンパイアのアドバイスに従い、美和の紙コップにこっそり惚れ薬を仕込んだ。

 すると……


「ねえねえ、斉藤君」


 美和がヒソヒソ声で俺に近づいて来た。

 そして、耳元に囁きかけてきた。


「バーベキュー終わって解散になったらさ、斉藤君のウチに遊びに行ってもいい?」


 ……キター!

 惚れ薬、ホンモノだった!!

 そして、ヴァンパイアの方に目をやると、アイツはニヤッと笑ってウインクして見せた。

 くー、かっけぇ!

 

 その後、俺と美和は付き合い始めた。

 そして、今でも頻繁に集まってはバーベキューを楽しんでいる。

 永遠の《仲良し6人組》で。 

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