シースルー景気

 それまで、透明な素材と言えばガラスやプラスチックが主流だったが、科学技術の進歩により金属など様々な物質を透明化させることに成功すると、様々な物がシースルー化された。

 例えば、つい最近話題になったのが<シースルービルディング>。

 ある企業の新社屋なのだが、鉄筋・鉄骨・コンクリート全てが透明。

 138階建てビルの壁や床など全てがシースルーなので、デスクワークする社員や会議の様子など、全てが外から丸わかり。

 透明純度の高い素材を惜しみなく使用しているため、中に居る人がまるで宙に浮いてるように見え、ある種幻想的なその建物は観光客の定番スポットにもなっていた。

 中で働く社員たちにとってはたまったもんじゃないが、衆人環視ではサボりようが無く、集中して仕事をこなすことができたため残業ゼロにも関わらず業績は極めて好調で、結果的に会社側、勤務者双方にとってウインウインだった。

 他には、最近徐々に増えてきているのが<シースルートレイン>。

 車体や車輪、座席やつり革まで全て透明化された電車。

 つまり、高速走行中の車内からは何にも遮られずに外の風景を見ることができ、そのダイナミックさは一見の価値あり。

 休日ともなると、全国各地から集まった観光客がひしめき合い、平日の通勤ラッシュさながらの超満員状態シースルートレインが街中を走り抜け、その異様な光景を外から見て楽しむ人も少なくなかった。

 他にも、シースルー化されて大ヒットした商品は数え切れないほどある。

 例えば、<シースルー冷蔵庫>はドアを開けなくても中の食材を一目で確認することができる上、従来使われている素材を透明化しただけなので保冷性は変わらないため、エコだエコだとみんなこぞって買い換えた。

 インテリアはシンプルイズベストの"隠すオシャレ"から"見せるオシャレ"へと移り変わり、<シースルークローゼット>や<シースルーチェスト>が空前のブーム。

 また、透明化された木材とマットレスを使用した<シースルーベッド>は、まるで宙に浮いたまま寝ているような感覚がウケてロングセラーに。

 とにかく、透明化すれば売れるシースルーバブル状態。

 挙げ句の果てには、シースルー自動車まで発売されたが、直後に事故が多発したためすぐに生産中止となった。

 ただ、それでも世間は「さすがに車の透明化はナイわ~」と言って苦笑いするだけで、まだまだシースルー時代は終わらなかった。

 そして、ついに<シースルーマンション>が登場した。

 他のどんなものがシースルーになろうと、安らぎを求める住まいだけは透明化されないと思われていたため、透明化されたマンションに関してはさすがに賛否両論だった。

 ただ、トイレや浴室はもちろん、全ての壁には<不透明化システム>が備わっており、スイッチ1つで簡単に透明・不透明の切り替えを出来る配慮などもされていたため、当初の厳しい声を跳ね返すように無事完売した。

 そんなスイッチを付けてしまうと、結局住民はみな全ての壁を不透明にしてしまうのでは……と思いきや、意外とそうでも無かった。

 なぜなら、長時間不透明にしている家は「なんか怪しい事でもしてるのでは」と噂されてしまうからである。

 しかし、常時透明化することによりそのマンションには劇的なメリットが生まれていた。

 外から丸見えすぎて、空き巣などの犯罪が一切発生しなかったのだ。

 となると、必然的に既存の不透明マンションや一軒家の犯罪発生率が高まり、シースルー化の建てかえ需要が爆発的に増えた。

 そんなシースルー景気に多くの企業は業績を上げ続け、給料も上がって国民生活はかつてないほど潤っていた。

 中でも、最もシースルー景気の恩恵を受けていたのが……


「クックック、今日も街中で『イテッ』『アイタッ』と鳴き声が聞こえる聞こえる」

「ハハハ、社長にとってはその声が『チャリンチャリン』と聞こえているのでは?」

「クックック、そんな悪い人間じゃないよワタシは。まぁ、今夜も美味しい肉が食べられるぞ、とは思うがね」

「ハハハ、さすが社長。ところで、新しい工場計画の件ですが……」

「クックック、どんどん作りたまえ。いちいちワタシを通さず、バンバン建てまくって構わんよ。なんせ、我が社には日々痛がる彼らを癒やす使命があるのだからね」

「ハハハ、かしこまりました。では早速、建設会社に連絡を……」

 ここは、超高層シースルービルの最上階。

 ある企業の持ちビルである。

 あらゆるモノがシースルー化し、急増したのが透明な壁への衝突事故。

 そして、発売された<シースルー絆創膏>は透明商品最大のヒットを記録し、この絆創膏メーカーは世界有数の企業にまで急成長をとげていた。

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