ユーチューバーの恩返し
昔々、あるところにお爺さんとお婆さんが住んでいました。
とある寒い雪の日、お爺さんは町へ薪を売りに出かけた帰り、罠にかかっている1人のユーチューバーを見つけました。
もがけばもがくほど、罠はユーチューバーを締め付けています。
それはそれは痛々しい光景で、お爺さんはとても可愛そうに思いました。
「動いちゃダメじゃ。動けば動くほどギュッとなるタイプのヤツじゃ。ほら、いま助けてやるからな」
罠から助けてやると、ユーチューバーは面白そうなネタがあるほうに飛んでいきました。
家に帰ると、お爺さんはその話をお婆さんにしました。
すると、扉を叩く音。
「こんな夜中に誰でしょう……」
と、お婆さんは念のためバットを手に持ちつつ、扉を開けました。
すると、そこには爽やかな青年が立っていました。
「夜遅くにすみません。雪が凄くて道に迷ってしまいました。どうか一晩、こちらに泊めてもらえないでしょうか?」
「あれ? キミはさっきの……」
お爺さんはそう言いながら青年の顔をマジマジと見つめた。
「いや、えっと、違います。ボクはお爺さんにとって初対面の青年ですよ。じゃないと話が美味しい感じに進まないんですよ。ほら、お爺さん、あなた記憶力は良い方ですか? 悪いほうですか? ほら、お爺さん?」
「ま、まあ、そう言われたら決して良い方ではないねぇ……年も年だしのう……」
「ね。初めましてよろしく。ってことで、どうか一晩、こちらに泊めて貰えないでしょうか?」
「ああ、いいよいいよ。こんな汚いボロ屋でよければのう、なあ婆さんや」
「ええ、貧しくて余分な布団は無いもんで、ボロボロのソファベッドで良ければ泊まっていって下さいな」
ユーチューバーはその言葉に喜び、泊めさせて貰うことにしました。
しかし、次の日も、そのまた次の日も雪は降り止まないばかりか勢いは増すばかり。
思わぬ連泊となってしまったユーチューバーは、お返しに炊事、洗濯、何でもやりました。寝る前には、2人にパソコンの使い方を教えてあげました。
子供のいない2人は、そんな彼を我が子のように思いました。
ある日、ユーチューバーはこう言いました。
「僕は、面白い動画を撮りたいと思います。SDカードを買ってきてくれませんか?」
お爺さんは、早速アマゾンで注文し、彼に渡しました。
「これから、撮影します。撮影中は、決してこの部屋を覗かないでください」
「了解じゃ。決して覗かずに、クロスワードパズルでもやってるよ。面白い動画を作っておくれ」
ユーチューバーは部屋に閉じこもると、1日中動画を撮り続けました。
夜になっても出てきません。
次の日も、そのまた次の日も動画を撮り続けました。
お爺さんとお婆さんは、部屋の中から聞こえる笑い声や叫び声を聞いていました。
3日目の夜。
声が止むと、SDカードを持ってユーチューバーが出てきました。
それは実に情熱のこもった、今まで見たことも無いSDカードでした。
「これはユーチューバーの動画と言うものです。どうか、すぐに動画投稿サイトにアップして下さい。そして、もっと良いカメラを買って下さい」
次の日、お爺さんは町へでかけました。
どこに動画投稿サイトとやらがあるのか分からないお爺さんは、
「動画~、ユーチューバーの動画はいらんかね~」
と、SDカードを直接売り始めました。
すると、とても高いお金でカードが売れたので、嬉しくなったお爺さんは新たなSDカードと高いカメラと霜降り牛を買って帰りました。
次の日、ユーチューバーはまた動画を撮り始めました。
3日過ぎた時、お婆さんはお爺さんに言いました。
「あんな面白い動画をどうやって撮ってるんじゃろ。ちょっと覗いて見たいわあ」
「もう、婆さんったら。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけじゃよ」
2人はとうとう覗いてしまいました。
すると、ユーチューバーの居るはずの部屋には、やはりユーチューバーが居ました。
ユーチューバーは、ハイテンションでカメラに向かって動画を撮影していました。
その夜、ユーチューバーはカメラを持って部屋から出てきました。
「お爺さん、お婆さん、実は僕は、罠にかかってるところを助けられたユーチューバーです。恩返しに来たのですが、この姿を見られたからにはもうここにはいられません。長い間お世話に──」
「えっ? この姿って、最初から最後までずっと同じ姿に見るがのう」
「いや、これは世を忍ぶ仮の姿的なアレなんですけども。言っちゃうと、ほら鶴の恩返し的なアレをやってみるドッキリ的な企画なんですけど……」
「まあ、ようわからんがまたSDカードをくれると助かるよ。なんか知らんが、あれは凄い値段で売れるんじゃ」
「いや、だから、ドッキリ企画でこれっきり的なアレで……」
「いいんじゃよ。優しい子だって知ってるからのう。これからもSDカードをよろしく頼むよ」
「……はい。じゃあ、撮れたらまた来ます……」
ユーチューバーは苦虫を噛みつぶしたような顔をしながら帰って行きました。
お爺さんとお婆さんは、いつまでもいつまでも裕福な暮らしを続けました。
めでたしめでたし。
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