キャッチャー連続殺人事件
今年に入り、キャッチャーを狙った殺人事件が多発。
とうとう、プロ野球の開幕を前にして全球団のキャッチャーが全滅という異常事態にまでなってしまった。
1軍はもとより、2軍3軍のキャッチャーも全滅。
そしてついに、長いプロ野球の歴史上初めて、キャッチャー不在のまま開幕を迎えた。
その影響をモロに受けたのは審判だった。
そりゃそうだ。
キャッチャーの居ないホームベース上めがけ投げられた時速140kmの速球は、バッターが打ち返さない限り主審のお腹に直撃。
それが1試合の中で200回以上繰り返されるもんだから、試合終了後の主審は大抵病院に直行し、そのまま入院となるケースも少なくなかった。
また、キャッチャーが居ないことで投球後のボールが返球されないため、ピッチャーは投げる度にいちいち自分でボールを取りに行かなければならなくなった。
そのため、ピッチャーの負担・疲労度は倍増。
結果、いかに制球が悪かろうが、球速が遅かろうが、変化球の切れ味が無かろうが、とにかくスタミナのある投手が重宝されるようになった。
一方、バッターはと言えば、とにかく<振り逃げ>を狙う者が続出した。
野球では3つ目のストライクを取った球をキャッチャーが捕球出来なかった場合、バッターが一塁に進塁することが許されているのだが、キャッチャー無き今、世はまさに振り逃げ天国と化していた。
その結果、試合は総じて大味になり、野球ファンからはクレームが相次いだ。
その問題はやがて国会でも取り上げられ、結局「今年に限って振り逃げは一切禁止」とする暫定ルールが適用されることになった。
それに対し、一部の<振り逃げフリーク>が猛反対したが、圧倒的に人数が少なかったためすぐに鎮火した。
また、キャッチャーが居ないため1チームの打者が8人となってキリが悪いということで、セリーグで新たに指名打者制が採用され、元々その制度があったパリーグではさらに1人追加で指名打者が計2人になった。
指名打者を増やすぐらいなら、その選手をキャッチャーの代わりにさせればいいんじゃないか、という声もあったが「それは本職のキャッチャーに失礼」という謎の礼儀を盾にあっさり却けられた。
そんなこんなで、いつもとはひと味もふた味も違うプロ野球界ではあったが、試合を観るファンたちはお腹を押さえて痛がる主審に同情し、自分でボールを取りに行くピッチャーの姿に感動し、振り逃げをせずに正々堂々立ち向かうバッターの姿に勇気を貰うなど、徐々に新たな野球を楽しみ始めていた。
ちょこんと座るキャッチャーの姿が無いのは確かに淋しい。
しかし、野球はチーム競技。
1人が居なくなっても、他のメンバーたちが力を合わせてその穴を埋める。
ワンフォーオール、オールフォーワン。
1人はみんなのために、みんなは1人のために。
夢半ばで旅立ってしまったキャッチャーのためにも、他の選手たちが今まで以上に全力で野球に取り組み、優勝を目指す。
その姿は人々に大きな感動を与えた。
キャッチャーのポジション自体を永久欠番とし、来年からもこの感動野球を続けていって欲しい! ……というファンの想いもむなしく、その年のドラフト会議では全球団1位から3位まで全ての指名がキャッチャーであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます