ビームブーム到来

 よく、SF映画やロボットアニメなんかで光線銃やビーム兵器なんかが出てきたりして、少年や大きな少年たちは強い憧れを持ったものだが、あくまでもそれは架空のモノでしかなかった。

 ……今からほんの数年前までは。

 SF好きの頭が良い科学者たちが真剣に研究を進めた結果、ビームは現実の物となった。 ただ、そこから実用化にこぎ着けるまでには紆余曲折があった。

 最初期のビームは、発生装置そしてビーム自体も自然に悪影響を与える可能性があると指摘されていた。

 事実、ビームを使った実験で周囲の汚染度が高まるという研究結果も出ていた。

 しかし、SF好きの頭が良い科学者たちはそこで立ち止まる気などサラサラ無かった。

 寝る間も惜しんで研究に研究を重ね、ついに100%地球に優しいビームの開発に成功した。

 ただ、そこでまた大きな問題が生まれた。

 ビームを独占し、強力な兵器として国家の防衛力を高めようとする政治家たちの存在である。

 確かに、思い返せば映画やアニメに登場するビームとは、敵を倒すための武器や兵器といった存在であり、現実世界でも同じように利用しようと考える者が出てくることは当然と言えば当然だった。

 SF好きの科学者たちは「少しだけ時間をくれ」と言って、寝る間を惜しんでなんとか良いアイデアは無いかと頭を捻った。

 やはり、彼らは天才的な頭脳の持ち主だった。

 生成されるビームの分子構造を少し変化させることで、人の体に当たっても傷ひとつ与えず、どんな物体に当たっても破壊しない完全なる安全性を実現させた。

 当然、軍事利用を企んでいた政治家たちは口を揃えて「ちゃんと殺せて壊せるビームを作れ」と言い寄ってきたが、科学者たちは「なら、あと100年、時間を頂きます」と返してやった。

 それでも政治家たちは簡単に引き下がろうとしなかったが、彼ら以外のあらゆる科学者、研究者たちにビームの改良を試みさせたが、誰1人として成功する者はおらず、最終的に諦めて去って行った。

 そして、入れ替わるように現れたのが実業家たちだった。

 特に、オモチャ会社やエンタテイメント企業などは莫大な金額を積み、ビームの使用権を得ようとした。

 SF好きの科学者たちは首を横に振った。

「そんな大金は必要ありません。開発にかかった実費と、ささやかな老後への蓄えさえ頂ければビームを使って頂いて構いません。ただし、1つだけ条件があります。どうか、世界中の子供たちに笑顔と興奮を与えるようなモノを必ず作ってください」

 それから、世界中でビームを使ったオモチャが発売され、ビームを使ったバトルゲームなどが遊べるテーマパークが作られ、ビーム花火大会など各種イベントが開催された。

 科学者たちの願った通り、ビームを見る子供たちの顔は笑顔に満ちていて、ビーム銃を撃つその目はキラキラと興奮で輝いていた。

 ただし、それはごく一部の子供たちに限られた。

 欲をかいた実業家たちは、ビームの価値を高い水準で維持するため、談合して商品やサービスの価格を極めて高く設定した。

 その結果、上流家庭以外の子供たちは……


「なあ、タカシ! この前さ、あそこの土手んとこでビーム花火大会やってたじゃん? そん時のビームのカスがまだ残ってるらしいぜ」

「えっ、ヨウスケそれマジ? 行ってみよう行ってみよう!」

 タカシとヨウスケは小学校の同級生。

 2人の家は決して裕福では無いものの、かといって特別貧しいということもなかった。

 それでもやはり、ビーム玩具を買って貰うことも、ビームテーマパークに遊びにいくことも夢のまた夢の話だった。

 そんな2人が生まれて初めてビームという存在を目の当たりにしたのが先日行われたビーム花火大会。

 その残り香を求めて、2人は土手にやってきた。

「うーん、やっぱ無くない?」

「え~……あるって聞いてたんだけどなあ……あっ、それ! ビームじゃない!?」

「えっマジ? ……って、ホントだ! ビームだ! ビームの残りカスだ!」

「よっしゃ、持って帰ろうぜタカシ!」

「おう! じゃあ、半分こな!」

 2人はオレンジ色のビームをポキッと2つに割って、喜び勇んで家に持ち帰った。


「ただいま~」

「あら、お帰りタカシ」

「ねえ、ビーム拾ってきたんだけど」

「バカねぇ、そんな簡単にビームなんて拾えるわけ……って、あらやだホントにビームじゃない。ってことは、今晩のおかずはチャーハンね!」

「やった! ビームで焼いたチャーハンってめっちゃ美味いんだよね!?」

「そうよ。ビームで焼いたチャーハンはめっちゃ美味しいのよ。ほら、支度するから大人しく待ってなさい。あっ、そうそう。パパにメッセージ送っておいてちょうだい。今晩は早く帰ってきて、ってね」 

「りょーかい! 遅くなったら、パパの分のビームで焼いたチャーハン食べちゃうよって脅しとく」

「ふふ、よろしくね」

 そしてタカシは、スキップしながら自分の部屋に戻っていった。

 満面の笑みを浮かべながら……。

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