チンピラ惑星
それは綺麗な満月の夜。
その日、夜側に住んでる世界中の人々が、空を見上げて口をポカンとさせていた。
なんと、満月の横にさらに大きな丸い星の姿があったのである。
とんでもないことが起きたと大騒ぎ。
「満月が2つに分裂した!」
「いいや、元の月のサイズは同じだから分裂じゃない。あれは別の惑星に違いない!」
「そんなバカな。じゃあ、なんで今まで見えなかったんだ??」
「それは……あの星の人たちがみんな電気消してたからじゃない?」
「なるほど。って、ヤバいぞ! ずっと隠れてたのに、今になって電気付けたってことは、地球を襲ってくるんじゃないか!?」
「そ、そうだ! そうに違いない! きっと、なんか気分を害しちゃったんだよ、ヤバいよヤバいよ」
「なんだよそれ、チンピラかよ……」
「そうだ! チンピラだ! あれはチンピラ惑星だ!」
それから間も無く。
国際宇宙調査機構の副代表が緊急記者会見を開いた。
「えー、皆様ご存じの通り、今夜突然満月の隣にもう一つ、大きな丸い星が現れました。それを受け、我々の本部に有識者を緊急招集して話し合いを進めた結果、あの星は『チンピラ惑星』であるとの結論に至りました」
パシャパシャパシャ、と一斉にシャッター音が鳴り響き、副代表の顔にフラッシュという名の星屑が降り注いだ。
そのニュースは、インターネットやテレビによって瞬く間に世界中を駆け巡った。
国同士の争いや異常気象、不倫問題なんかそっちのけで、人々の関心と視線は空に浮かぶチンピラ惑星の1点に絞られていた。
そして、得体の知れない不安からか、各地で暴動が起き始めた。
混乱を収拾する方法はただ1つ。
チンピラの正体を知り、何を求めているのかカツアゲなのかなんなのか、それをはっきりさせるため宇宙開発先進国が手と手を取り合ってチームを結成。
直ちに、経験豊富な宇宙飛行士たちを乗せたスペースシャトルが打ち上げられた。
目的地はもちろん、チンピラ惑星である。
全人類の期待を乗せたシャトルは無事、打ち上げに成功。
順調に大気圏を飛び出したその時だった。
「おい、あれ見ろよ!」
宇宙飛行士の1人が窓の外を指差した。
その先には、見たことも無いような宇宙船の姿があった。
「もしかしてチンピラ惑星からの使者とか? 大丈夫かよ……」
「覚悟しておいた方がいいかもね。だって、相手はチンピラだから」
「うん。全財産取られるだけじゃ済まないだろうな。だって、相手はチンピラだから」
「だろうね。鉄パイプ持ってるだろうね」
「それか釘バットね」
「ああ、怖い。釘バットでやられても宇宙服大丈夫かな?」
「ダメだろうね。穴開きまくりだろうね」
「やー怖い怖い。眉毛は細いかな?」
「細いだろうね、チンピラだから。おまけに変な柄のシャツ着てるだろうね」
「あー、もうやだ。この前、子供が生まれたばかりだってのに」
「それなら大丈夫だろうね。チンピラは意外とそういうのに弱いからね」
「だろうね。意外とお袋さんのことは大切にしてるだろうね」
「ああ、少し安心し──」
ピピーッ、ピピーッ。
船内に、甲高いブザーが鳴り響いた。
「こ、これは……!?」
「落ち着いて。通信を感知したのよ。恐らく、あのチンピラ宇宙船から……」
「よし、出るぞ」
「オッケー」
「──はい、こちら地球合同チームのスペースシャトル。こちら、地球のスペースシャトル」
リーダーが、冷静な声で発信者不明の通信に応えた。
すると……
「あっ、どーも。初めまして。お隣に引っ越して来たものです」
「……はい?」
「あっ、そちらの惑星のお隣に引っ越して来た惑星のものです。とりあえずご挨拶させて頂ければと思いまして……」
「は、はぁ、それはどうも丁寧に……」
そう。
その惑星は、地球人を襲いにきたわけでも、資源が枯渇してそれが豊富な地球から奪い取るためにやってきたわけでも無く、単に淋しくて、人が賑わってる地球の隣に引っ越して来ただけだった。
人も惑星も見た目で決めつけてはいけないのだ。
ただ、1つ。
彼らが着ている服は「それどこで売ってるの」と思わずツッコみたくなるような謎柄であったことだけはお伝えしておこう……。
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