33匹の子ぶた

 あるところに、それはそれは仲良く暮らす33匹の子ぶたがいました。

 来る日も来る日も、みんなでワイワイ楽しく、朝から晩まで食っちゃ寝、食っちゃ寝してました。

 そんなある日。

 どこからともなくオオカミがやってきました。

「ガァー! 腹減った~何かくれ~、腹減った~何かくれ~」

 最悪なことに、そのオオカミはとてもお腹を空かせていました。

 空腹のせいでとてもイラだっていて、触る者みな傷つける状態です。

「わぁ、やべぇ~やべぇぞ~、イヤマジで~」

 オオカミの襲来に気付いた警戒心の強い子ぶたが、他の子ぶたに大声で伝えます。

33匹の子ぶたたちは、ワァワァ言いながら懸命に逃げ出しました。

「ガァー! 美味そうな豚がたんまり居るじゃねぇか! 焼いて食おうか煮て食おうか、生姜焼きにしようか豚しゃぶサラダにしようか、ジュルルルル」

 ヨダレを垂らしながら、ゆっくりと子ぶたたちに近寄るオオカミ。

 幸い、空腹の限界をとうに越えていたオオカミは体力を使い果たしていたため、走ることはおろか歩く事もままならず、アリさんに追い抜かれるほどゆっくりとした足取りでしか子ぶたたちを追いかけることができませんでした。

「みんな、オレたちがいくら逃げても、いつか必ずオオカミに追いつかれてしまうだろう。だから、家を作ろう。自分の身は、自分で守るんだ!」

 知的な子ぶたの提案は満場一致で採用され、33匹の子ぶたたちはそれぞれ自分なりの家を作り始めました……。


 そして、オオカミはようやく最初の子ぶたの家に辿り着きました。

「どうだ! ワラで作った家だぞ! 入れるものなら入ってみ……」

 残念ながら、隙間だらけのワラの家にすんなり入る事ができたオオカミに食べられてしまいました。


 次は2番目の子ぶた。

「どうよ? 木の枝で作った家! 入れるものなら入ってみ……」

 残念ながら、ちょっと前に通販で衝動買いした高枝切りばさみを使ってすんなり中に入ることができたオオカミに食べられてしまいました。


 3番目の子ぶた。

「アディオス、1、2番。オマエらの分までオレは生きてやるぜ。このレンガの家で……」

 残念ながら、視力の悪いオオカミがレンガを赤いふ菓子と勘違いして強引にかみ砕きつつ侵入し、食べられてしまいました。


 4番目。

「素材が古典的すぎるんだって。見てよボクが作った近代的な鉄筋コンクリートの家を……」

 見た目によらず手先が器用なオオカミは、ヘアピンによるピッキングでドアの鍵を開けて侵入し、ペロッと食べました。


 5番目。

「詰めが甘いね。ある統計によると、泥棒は5分以上かかる家は狙わないらしいから、ボクはちゃんとドアに4つも鍵を付けて……」

 オオカミは5分以上かけて一つ一つ鍵を開けて侵入して食べました。


 6番目。

「中途半端だね。ボクはドアに108つの鍵を付け……」

 意外とコツコツ仕事に集中できるタイプのオオカミは、1時間以上かけて全てのカギを開けて食べました。


 7番目。

「もっと頭を捻らないと。ボクは鍵付きのドアを5重に設置し、しかもそれぞれに複雑な仕掛けを……」

 食事の次に脱出ゲームが好きなオオカミは、すんなり謎を解いて食べちゃいました。

  

 8番目。

「やっぱ餅は餅屋。ってことで、ボクはセコムに……」

 オオカミは、警報を聞きつけて駆けつけたセコムの人ごと食べちゃいました。

 9番目。

「逆に、初心に返ってワラの家で……」

 すんなりオオカミに入られて食べられました。


 10番目。

「キリ番おめでとう。お礼にこれをあげるからボクは食べな……」

 オオカミはパクッと平らげ、デザートにケーキを食べました。


 11番目 ~16番目。

「1人じゃ淋しいから、ボクたちルームシェアして……」

 オオカミはまとめてパクッと食べちゃいました。


 17番目。

「オオカミさん、さすが! 凄い! イケメン! よっ、オオカミの中のオオカ……」

 ゴマすり攻撃も虚しく、あっさり食べられ……はしませんでしだ。

 その前に食べた6匹丸ごとが効いたのか、満腹になったオオカミは、17番目の子ぶたをタッパーに入れ、お土産にしました。


 18番目。

「獣が恐れるもの……それは火。そして予め用意しておいたガソリンを……」

 オオカミは、自ら火事を起こして丸焦げになった子ぶたをタッパーに入れました。


 19番目~30番目。

「オレたちは人海戦術! 数の原理! さあ、やれるもんならやってみ……」

 オオカミはLINEで仲間を呼び、大量ゲットした子ぶたを使ってバーベキューを楽しみ、仲間は満面の笑みを浮かべて帰っていきました。


 31番目。

「助けてくだせぇ、ここで食べられたら、家に残してきた妻と子が路頭に……」

 オオカミはその嘘を見破り、タッパーに入れました。


 32番目。

「ハッハッハ、まいったまいった。万事休す。さぁ、煮るなり焼くなり好きにし……」

 オオカミは、煮るなり焼くなりしてタッパーに入れました。


 最後、33番目の子ぶた。

「まあ、いいよもう。みんな食べられちゃったから、ボクだけ残っても淋しいだけだし。あっ、でも一応これだけ見といて……」

 と、オオカミは子ぶたが差し出した1枚の紙に目を通すと、黙って帰って行きました。

 最後の最後に食べられずに済んだ33番目の子ぶたを救ったのは、医者から貰ったインフルエンザの診断書だったのです……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る