複雑すぎる超能力

 その男の超能力は、実にややこしい。

 いま、男は駅前のベンチに座っている。

 彼の視線の先には、可愛らしい女の子。

 その女の子は、友達でも待っているのか、スマホ片手にキョロキョロ辺りを見回したりしている。

 男は、心の中で強く念じた。

 スカートよ、めくれろ!

 ……と。

 もし、彼がややこしくない超能力者であったのなら、彼女の白いスカートはすぐにふわりとめくれただろう。

 しかし、残念ながら彼はややこし超能力者。

 めくれろと念じた相手のスカートではなく、めくれろと念じた相手のいとこの初恋相手の右隣に住んでる人が一番苦手だと思ってる人間のスカートがめくられるのだ。

 したがって、いま彼が念じたことで、どこかに居るはずのその人はスカートがめくれて「イヤン」となってるはずである。

 ただし、対象者が男性だったり、女性でもスカートを履いていない場合はまたさらに話がややこしくなる。

 スカートをめくるために発生した念は路頭に迷い、やさぐれて行き場を無くし、野良念となる。

 野良念はあてもなくさまよい続け、スカートを履いてる女性を見つけては「とりあえず、この人のめくっとけばいいか」という衝動に駆られるが、微かに残った理性がそれを押さえつける。

 見つけてはグッと我慢し、見つけてはグッと我慢する葛藤の繰り返し。

 たった1つの目的すら達成できないことに悩み、自己嫌悪に陥ってはやけ酒に溺れる野良念。

 そんなすさんだ生活を送っていたある日。

「もしかして、あなたもですか?」

 突然、後ろから声をかけられてビクッとする野良念。

 振り向くと、そこには可愛らしい野良念がいた。

 その子の主も、実にややこしい女性超能力者だった。

 その能力は<他人の思考を読み取る>といういわゆるテレパスだったのだが、対象者が何かパスワード的なものを思い浮かべていた場合、個人情報保護の観点から超能力は弾かれ、路頭に迷い、やさぐれて行き場を無くし、野良念となってしまう。

 似た境遇を持つ二人の野良念が、仲良くなるのにそう時間はかからなかった。

 毎日、朝から晩まで気が済むまで語り合い、天気の良い日には遠出したりもした。

 そんなある日。

「ボク達、このままでいいんだろうか……」

 スカートめくりの野良念がふと呟いた。

「だよね……ワタシたちがフラフラしてたら主さん、いつまでも能力使えないんだもんね……」

 テレパスの野良念も同調する。

 そう、一人の超能力者につき念は1つ。

 つまり、野良念が帰ってこない限り、超能力を使いたくても使えないのだ。

 二人は、この放浪生活に自由を感じ、野良念生活も悪くないと思い始めていたが、それと同時に仕事をしていないことへの罪悪感にもさいなまれていた。

 とは言え、その辺を歩いてる人間をターゲットにするのは心苦しい……と思ったその時。

「あっ!」

「あっ!」

 二人は何かを思いついてハッとした。

「ボクの心を読んでくれれば、キミは元の場所に帰れる」

「ワタシのスカートをめくってくれれば、アナタは元の場所に帰れる」

 そして、二人の野良念は同時に能力を発動させた。

 テレパスの野良念のスカートがふわりとめくり上がり、それを見たスカートめくりの野良念の思考が読み取られる。

『純白のパンツ、一生忘れない……』


 かくして、2つの野良念は主である超能力者の元へと帰って行った。

 野良念の悩みなどつゆ知らず、ややこし超能力者たちはのんきにターゲットを物色したりなんかしている。

 あなたが部屋でくつろいでる時、家のどこかから謎の音が聞こえたとしたら、それは行き場を失った野良念たちの鳴き声かもしれない……。

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