5分で読めるヘンなショートショート
ぽてゆき
てへぺろ派VS土下座派
事の始まりは、2人の大物芸能人が同時期に起こした不倫騒動の謝罪会見だった。
1人は、不倫の経緯を説明した後、最後に「てへぺろ」と謝って締めくくった。
それに対する世間の声は、
「可愛いかったから許す」
「逆に責める気になれないわぁ」
「ふざけやがってちゃんと謝れクズ」
「いい年こいてキツい」
と、賛否両論。
もう1人は、不倫の経緯を説明した後、最後に土下座して締めくくった。
それに対する世間の声は、
「反省の色が伝わったから許す」
「あの姿こそ謝罪の至高」
「大袈裟にやりやがってちゃんと謝れクズ」
「ごめんなさいアピールが凄すぎてキツい」
と、こちらも賛否両論だった。
この件以降、世間はてへぺろ派と土下座派の真っ二つに分かれてしまった。
てへぺろ派の人たちは、謝る度にペロペロするもんだから舌の筋肉がガチムチに発達し、土下座派の人たちは、謝る度に頭を地面にこすりつけるもんだからおでこが異常にガチムチになっていた。
てへぺろ派の人間と土下座派の人間がケンカした場合、どう転んでも悲惨な結末しか待っていなかった。
てへぺろ派が自分の非を認めててへぺろで謝った場合、それを見てカッとなった土下座派は鍛え上げられたガチムチおでこで強烈な頭突きを食らわせ、血の海となる。
逆に、土下座派が自分の非を認めて土下座で謝った場合、それを見てカッとなったてへぺろ派は鍛え上げられたガチムチ舌で強烈な舌突きを食らわせ、血の海となる。
テレビを付ければ、倒産した会社社長が大袈裟に土下座していて、それを見た全国のてへぺろ派が液晶画面を舌で突いて破壊。
新聞を開けば、不祥事を起こした政治家がてへぺろしていて、それを見た全国の土下座派は粉々になるまで新聞紙に頭突きし続けた。
日本在住の外国人や観光客は、その光景を見て恐怖を感じ軒並み祖国へ帰っていった。
そんな事態に各国の首脳たちから抗議を受け、代表して首相が謝罪する事になったのだが、その際にてへぺろするか土下座するかを決めるために国民投票まで行う始末。
僅差でてへぺろ票が上回り、外国に向けて可愛らしくてへぺろする首相。
当然、納得いかない全国の土下座派が国会前に終結し、怒りの土下座デモを敢行。
アスファルトがボロボロになってしばらく車が通行できなくなったほど、激しい土下座を繰り返した。
「ってか、なんで抗議してんのに土下座してんのオレたち?」
と、正論を言う青年には頭突きによる制裁。
結局、ごめんなさいと土下座させられていた。
その様子を見たてへぺろ派は、勝ち誇ったように舌をペロペロさせ続けた。
「ってか、なんで勝ったのにてへぺろしてるの私たち?」
と、正論を言う女性には舌突きによる制裁。
結局、ごめんなさいとてへぺろさせられていた。
そんな毎日の繰り返し。
この国は……疲弊しきっていた。
おでこと舌だけがムキムキで、それ以外はゲッソゲソ。
太った人が居なくなり、スタイルを売りにしていたモデルたちは軒並み廃業した。
発達した舌は味覚が鈍くなり、てへぺろ派の人たちは美味しい食事も美味しく感じられなくなっていた。
発達したおでこは昼の間も太陽を遮り、土下座派の人たちは四六時中周りが暗く感じられて怖がっていた。
「こっちが悪かったから、もう終わりにしよう」
と、てへぺろ派が謝ろうとするのだが、クセでてへぺろしてしまい相手の反感を買った。
土下座派が謝ろうとすると、クセで土下座してしまい相手の反感を買ってしまう。
終わりなき旅、止まない雨。
不毛な争いは袋小路に陥っていた。
しかし、旅はやがて目的地に辿り着くように、雨はやがて晴れに変わるように、ついにてへぺろ派と土下座派の争いに終止符が打たれる時がやってきた。
そう、救世主サーセン派がどこからともなく現れたのだ。
てへぺろほど軽くもなく、土下座ほど重くも無い。
人類が辿り着いた謝罪の最終形、サーセン。
丁度良い塩梅の中の塩梅、サーセン。
早速、てへぺろ派が、
「いままでサーセン」
と謝れば、
「いや、こちらこそサーセン」
と土下座派も謝って返した。
謝られてこんな清々しい気持ちになったのはいつぶりだろうか、とてへぺろ派も土下座派も心から晴れやかな顔になった。
やがて、てへぺろ派のガチムチ舌は元に戻り、土下座派のおでこも元に戻り、廃業していたモデルたちも職を取り戻した。
サーセン派の登場によって国が救われた日を<サーセン記念日>として国民の休日になることが決まった。
それから毎年、その日になると全国各地で「サーセン、サーセン」と謝る声が聞こえてくるとかこないとか……。
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