殺人鬼インタビュー
インタビュアーを務める女子アナの一色琉菜(通称ルナプン)、カメラマン、プロデューサーの3人は車に乗り、殺人鬼が指定した場所に向かっていた。
「本当に大丈夫なんですか? 私、スタジオでぬくぬくと仕事したいんですけどぉ」
「大丈夫大丈夫。ルナプンはただ用意された原稿を見ながら質問していくだけから。殺人鬼っつっても、電話で話した限りじゃ全然普通そうな感じだったし。まっ、機嫌が悪くなったらどうなるかわからんけど」
「もう、脅かさないで下さいよぉ。殺人鬼の前に、私が殺しちゃいますよぉ」
「わぁ、やめてくれ~。アハハハハ」
「きゃははは」
「あっ、もうすぐ目的地に着きまーす」
運転を任されていたカメラマンが車を停めた。
ここは、巨大な森の一角。
キャンプ場として人気のエリアなのだが、シーズンオフのため人の気配はまったく無い。
3人が車を降りると、目の前に寂れたログハウスがあった。
「もしかしてここ? ルナプンこわぁ~い」
「ああ、ここだよ……。やばいねぇ、寂れてるねぇ、こりゃ出るぞ……。オレは霊感が強いんだよ……ああ、感じる、ビンビン感じる、いる……これは何かいる……」
「居ますよそりゃ。殺人鬼と待ち合わせしてるんでしょうが。ほら、行きましょ」
カメラマンは面倒くさそうに2人を促した。
とは言え、ログハウス全体を覆うツタといい、全ての窓に木の板でバッテンに塞がれてる感じといい、なかなかどうして背筋の凍る不気味さであることは間違い無かった
3人はゆっくりと近づいていき、そして正面扉の前で立ち止まる。
「ほら、ノックして。カメラも回しておけよ」
プロデューサーがカメラマンに向かって命令する。
「はいはい」
コンコンコンッ。
右腕でカメラを構えながら、左手でノックした。
すると、すぐに家の中の廊下を走る足音が聞こえた。
そして……
ギギギギギ、と音を立てながら、木の扉がゆっくりと開いた。
「あ、いらっしゃーい」
血まみれのホッケーマスクが扉の隙間から顔を覗かせた。
それを見た3人は思わず「ヒェ!」と声を出してしまった。
「ハハッ、怖がらなくてもいいっすよ。昨日、20人ぐらい殺して今はまだお腹いっぱいなんで」
殺人鬼は爽やかに笑った。
「そりゃ助かる、なぁルナプン」
「うん、良かったぁ。20人殺したばかりで良かったぁ」
不謹慎に喜ぶルナプンの姿を、カメラマンは日頃こき使われている恨みを晴らすかのようにきっちりカメラに収めていた。
「じゃ、こんなところで立ち話もなんなんで、どーぞどーぞ」
と、殺人鬼は3人をリビングへと案内した。
「カメラセッティング完了しました」
「オッケー。じゃあ、ルナプンよろしく」
Pの合図で、ついに殺人鬼インタビューが始まった。
カメラモニターには、L字ソファーに座る殺人鬼の顔と、ルナプンの横顔が映っていた。
「じゃ、殺人鬼さん、よろしくお願いしまぁす」
「はーい」
ルナプンは若干鼻声っぽくなっていたが、20人分の返り血を浴びた人間と相対しているので仕方ないなとPはスルーした。
「えっと、じゃあ最初の質問。なんで、殺すんですかぁ?」
「おっ、いきなり直球。さすがっすね。そういや、生で見ても可愛いっすね」
「え~、ありがとうございますぅ。よく言われますぅ」
「ハハッ、いつもTVで見てるのと同じだ~。って、質問質問。そーっすねぇ、なんで殺すか……うーん、キザっぽくなっちゃうけど、目の前に人が居るから……って感じかな?」
「おお、カッコいい! って、あたし目の前に居ちゃってるんですけどぉ、超ドキドキ系なんですけどぉ」
「ハハッ、ボク、基本的に悪い人間しか殺さないんで。それはもうお天道様に誓ってるんで。絶対っす。うっす」
「なに、超良い人なんですけどぉ~。って、あたし結構悪い人間なんですけどぉ。万引きとかもしちゃってたんですけどぉ」
「おい、ルナプン!」
さすがに、それはまずいとPが遮ろうとする。
「あっ、いっけな~い。カメラ回ってるんだった、てへぺろ。って、万引きしてたのは小学校の時だけですよぉ」
「なんだよ、それを先に言えよ。じゃあ全然オッケーだよ」
と、笑って流すP。
オッケーじゃねーよ頭おかしいだろこいつら、と心の中で呟くカメラマン。
「じゃあ、次の質問いきまぁす。殺すとき、どんな事考えてるんですかぁ?」
「どんな事……うーん、なんだろう、『いま殺してるなぁ』って感じかな?」
「いやん、そのまますぎ~」
「ハハッ、単細胞なもんで」
と、殺人鬼は爽やかな笑顔ではにかんだ。
いいよ、いいよ……と、高視聴率の予感に身もだえるP。
「じゃあ、次の質問。殺人がお休みの日は、何してるんですかぁ?」
「休みの日……うーん、主にガーデニングかな? あとはDVDを観てる事が多いっすね。こう見えて、結構ベタな恋愛モノとかが好きなんすよね~」
「やだ、ギャップ萌え萌え~」
「ハハッ、恥ずかしいっすね」
「やだ、照れちゃってこのぉ~。赤くなってるぅ~」
「ハハッ、これは返り血だっつーの!」
「いっけね、返り血だったぁ」
「ハハッ、楽しいなぁインタビュー」
と、満足げな殺人鬼。
この分だとスペシャル放送1回じゃ収まりきらないぞ……と、大人気シリーズ化の予感に身もだえるP。
そして、インタビューは大いに盛り上がり、夜が明けるまで続いた……。
後日放送された番組は、Pの予想通り前代未聞の高視聴率を記録。
ミステリアスさと爽やかさを兼ね備えた殺人鬼は一躍人気者となり、『殺人鬼ナンデス』『殺人3分クッキング』などMCを務めた番組が軒並み大ヒット。
お昼の顔として、世の女性たちのハートをガッチリ掴んで離さなかった。
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