桃太郎2019改訂版
あるところにお爺さんとお婆さんが住んでいました。
健康のため、お爺さんは山へ散歩しに、お婆さんは川へ散歩しに行きました。
お婆さんが万歩計をチェックしながら川沿いの道を散歩していると、ドンブラコドンブラコと大きな桃が流れてきました。
「おや、これは驚いた!」
お婆さんはすかさずスマホを取り出し、川を流れる桃を背景に自撮りしました。
その写真をインスタグラムに投稿すると、
『マジで桃流れててウケる』
『割ったら中から飛び出してくる系のやつじゃねこれ。obaasanさんはよ』
と、ちょっとした話題になり、いいねいいねの嵐にご満悦のお婆さんは大きな桃を拾い上げ、家に持ち帰りました。
そして、とっくに家に帰って菓子パンを食べながら週刊文春を読んでいたお爺さんは、その桃を見てたいそう驚きました。
ひとしきり2人で写真を撮り、飽きたところで中身を食べるため桃を切ってみました。
すると、中から元気の良い男の赤ちゃんが飛び出してきました。
「ヒィィィ!!」
「事件じゃこれは事件じゃ! 婆さん事件じゃ婆さん!」
慌てふためく2人。
しかし、よく見るとそれはもう端正でとても愛らしい男の子の魅力に気付くなり、
「まぁなんて可愛いんでしょう!」
「フォトジェニックじゃこれはフォトジェニックじゃ!」
と、金のなる木……もとい桃から生まれた桃太郎を大切に育てようと決めました。
桃太郎はすくすく育ち、やがて立派な男の子になりました。
赤ちゃん時代の桃太郎は持ち前の愛らしさをフルに発揮し、<可愛すぎる男の子>として各メディアに取り上げられ、そこそこの富をお爺さんとお婆さんにもたらしました。
ところが、成長期を迎えると若干むさくるしさを帯びてきて、そこら辺によくいる普通の男の子になっていた桃太郎は、言い様のない気まずさを感じ、あることを決意しました。
「ボク、鬼ヶ島に行って悪い鬼を退治します。そうすればまた、週刊誌やテレビの人がウチに来てくれるだろうから……」
そんな桃太郎の言葉に、お爺さんとお婆さんは「いいんだってそんな無理しないで」と言いつつ、お婆さんは早速きびだんごを作り始め、お爺さんはウィキペディアで鬼ヶ島のことを調べ始めました。
そして桃太郎は、お婆さんからきびだんごを、お爺さんからは鬼ヶ島の知識を貰って家を出ました。
旅の途中、トイプードルに出会いました。
「桃太郎さん、どちらへ行かれるんですか?」
「えっ? 喋ったこわっ。えっと、鬼ヶ島へ鬼退治に行くんだけど……」
「それでは、お腰に付けたドギーマンのやつを1つ下さいな」
「えっ? これはドギーマンのやつじゃなくてお婆さんの作ったやつなんだけど……」
「じゃあ、それで」
トイプードルはきびだんごを貰い、桃太郎のお供になりました。
そして、今度はマンチカンに出会いました。
「桃太郎さん、どちらへ──」
「えっ、なんでネコ? 2番目はサルじゃないの普通」
と、謎めいたことを呟くトイプードル。
話を遮られたマンチカンはイラッとした顔をしつつ続けました。
「桃太郎さん、どちらへ行かれるんです?」
「鬼ヶ島へ鬼退治に……」
「それでは、お腰につけたモンプチを1つ下さいな」
「えっ……。なんでこれみんな間違えるの……って、これはお婆さんが作ったやつなんだけど」
「じゃあ、それで」
マンチカンはきびだんごを貰い、桃太郎のお供になりました。
そして、今度はハシビロコウに出会いました。
「桃太郎さん、どちらへ──」
「えっ、ハシビロコウ? なんか流行ってるっぽいヤツばかり出くわすなおい」
と、毒づくトイプードル。
話を遮られたハシビロコウはイラッとした顔をしつつ続けました。
「桃太郎さん、どちらへ行かれるんですかねぇ?」
「鬼ヶ島へ鬼退治に……」
「はぁ……。まあそれはそれで否定しませんがね、このメンツならバトル的なアレじゃなくて、もっと儲かる方法があると思うんですよ」
「えっ……いや、ボクは別に金儲けのためとかそんなんじゃ……」
「いいんですいいんです。わかってますわかってます。全て私に任せてください。まずは人通りの多い道に面した物件、まぁ最初は資金的な都合もありますんで居抜きの物件なんかあれば……」
と、ハシビロコウのアドバイスに従い、桃太郎は不動産屋を回りました。
そして、なんやかんやあった挙げ句、なんとか犬猫ハシビロコウカフェをオープンさせ、時代の流れに乗るように大繁盛。
お爺さんとお婆さんも大喜び。
そして、3人と3匹は、いつまでも仲良く暮らしましたとさ。めでたしめでたし。
〈了〉
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