第三章 光の照らすもの-10

 シュリは背に、駆けてくる足音を聞いた。しゃがみこんだまま、首だけで振り向く。

「はぁ、間に合ってよかった。」

 いたわりを持った目でシトリーが見下ろす。照れたように笑いながら応じた。

「えぇ、何とか…なりました。シトリーさんのおかげですね。」

「手ごわい相手だったようですね。」

「本当に。手ひどくやられてしまいました。恥ずかしい限りですね。」

「何を言ってるんですか。大戦果じゃないですか。さ、立てますか?」

 そう言って手を差し出す。シュリは軽く礼を言うと、手を取り立ち上がるが、傷をかばうように少しよろめいてしまった。

「だ、大丈夫ですか?」

 シトリーが慌てて支える。

「えぇ。でも少し、休ませてもらいますね。怪我は魔法で治せますが、疲れまでは…。」

 そういって、近くの椅子に座り込んだ。

「それに、治療が必要なのは私だけではありませんしね。」

 そうつぶやく先には、クリネに肩を借りて立ち上がるサイラスの姿があった。


 四人はシュリの魔法で傷をいやした後、しばらく体を休めた。サイラスが手を切った盗賊も、部屋の隅でうめいている。四人は、その足を拘束すると、同じように応急処置を施した。

 わずかばかりの休息をとった後、サイラスは拘束した盗賊から盗んだ積み荷のありかを聞き出した。尋問するサイラスには、隊商とは言え荒事で渡ってきた男のすごみがあった。

 そうして積み荷のありかを聞き出した四人は、その納められた倉庫へと向かった。途中、食堂の外にはそこかしこに血や砂礫、焼け焦げた跡、そして動かなくなった盗賊が転がっていた。その光景が、シトリーたちも決して楽な戦いではなかったと物語っていた。盗賊の中で息があるものはみな逃げ出したようで、遺跡の中はしんと静まり返っていた。

 盗賊から聞き出した部屋に入ると、そこには確かに盗まれた積み荷があった。

「何はともあれ、目的は達成できたようですね。」

 ぐるりと荷を見渡しながら、クリネが安心したようにこぼした。

「あぁ、あいつらに一発くれてやることもできた。三人のおかげでさ。」

「だけど、この荷物はどうやって運ぶんですか?」

「それなんですが…」

 サイラスはつかつかと積み荷に近寄り、それを見上げてから三人を振り返った。

「いったん隊長たちのところまで戻りましょう。この遺跡の盗賊たちはあらかた逃げ出したか、動けなくなっちまいましたし、当分戻ってこられないでしょう。あのオアシスまで戻って、あとは隊長たちに任せましょうや。」

 そんなことで大丈夫か、とクリネは訝しげに尋ねたが、積極的に反論はしなかった。みな、戦闘の疲れに参っているようで、これ以上何も考えたくなくなっているようだった。


 遺跡を出て、目を焼く日差しの中を、ラングたちの居るオアシスまで四人は歩いた。

「三人とも、無事だったか!本当によく帰ってきた。」

 四人が戻ると、ラングを先頭に隊商の面々がわっと駆け寄った。シトリーたちは少々面食らったが、積み荷を見つけたこと、盗賊にアクマがいたこと、そして、殺された隊員の仇を取ったことを伝えた。

「そうか。あいつらの仇も取ってくれたんだな。…まったく、お前らには世話になりっぱなしだ。しかし、これで奴らも浮かばれるだろう。」

「隊長なんて、四人を送り出してから気が気じゃなかったんですよ。話しかけても気もそぞろで。」

「そうそう、自分も行けばよかった…ってずっと心配そうにしてましたもんね。」

「うるせえ!お前らだって、飯も食わねぇで待ってただろうが!…まぁ何より、こいつらがちゃんと帰ってきてくれてよかったよ。なぁ、お前ら。」

「はは、違いねぇ。」

 事の顛末を聞くと、ラングたちはじゃれあうように喜んた。彼らは、泣きながら、笑っていた。この好もしい男たちは、こういう顔をしながら、世の中を渡っているのだった。


「隊長、俺は心配してくれなかったんですかい?」

「お前は殺しても死なねぇだろ。…だが、いい働きだった。」

「へへっ。」

「さぁ、何人か残すから、お前らはゆっくり休んでくれ。」

「そうさせてもらいまさぁ。」

「こっからは俺たちの仕事だ。こいつらが命懸けで見つけてくれた積み荷だ、気合入れて回収に行くぞ!」

 ラングが振り向き、一声号令をかける。その後ろでは、おうっ、と男たちの猛りが響いた。シトリーたちは、誇らしくその声を聴いていた。

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