第一章 はじまりの国-4
女性は二人とも軽装の鎧に身を包んでいる。一人の女性は、長い黒髪を一つに纏めたいかにも気の強そうな雰囲気である。しかし、相対する人の背筋を正させるような毅然とした魅力がある。もう一人は長い黒髪を流し、こちらが年嵩なのだろう、穏やかでどこか余裕を感じさせる雰囲気で、凛然とした美しさがあった。二人並ぶと、まるでこぼれんばかりの蕾を湛えた花の一枝の様だ。
「こんにちは。この国でアクマ祓いをやっておりますシュリと申します。こっちは妹のクリネ。二人でアクマ祓いをしております。といっても、このあたりにはアクマも少なく、先祖返りもめったに出ておりませんでしたのであまり鉄火場は経験しておりませんが。」
「姉さん、そんなことは言わなくてもいいでしょう。まるで私たちがさぼっているみたいではありませんか。…初めまして、クリネです。これから、姉さんと二人であなたの供を仰せつかりました。」
二人の女性が、丁寧に挨拶をする。思わず、シトリーも背筋が伸びていた。
「シトリーです。よろしくお願いします。なんだか…大変なことに巻き込まれてしまいました。」
緊張気味に答える。すると、ふわ、と花の咲く用意笑って、シュリと名乗った女性が答えた。
「お察しします。委細は王様から伺いました。」
「私たちも、実戦経験はあまりありません。そうかしこまらずにいきましょう?」
シトリーたちは簡単な挨拶と自己紹介を済ませた。シュリたちは、姉妹でアクマ祓いとして育てられたようだ。実戦経験は少ないようだが、時々は近隣の村々へ、時には他国へ出かけて先祖がえりに対応していたようだ。対応、とは彼女たちが使った表現だが、おそらくアクマであるシトリーへ気を使ったのだろう。先祖返りの対処といえば、つまりはアクマを殺すことに他ならない。
自己紹介も終わったところで、シトリーは今後の行動について切り出した。
「では、早速ですが、その商人に話を聴きに行ってみましょうか。」
すると、僅かに上ずった声でクリネが答えた。
「そうですね、王様の話では、城内にいるようです。今後の行先を決めるためにも、すぐにでも行ってみましょう!…あら、姉さん、どうしたんですか。」
見ると、シュリが控えめにニコニコと笑っていた。
「クリネ、あなたずいぶん楽しそうね。旅をしてのお仕事なんて、今まで数えるほどしかなかったものね。でも、あまり浮かれてはいけませんよ?」
言われて、クリネの頬は俄かに赤みを差し、僅かに裏返った声でまくし立てた。
「わ、わかっていますよ!姉さんこそ、ぼうっとして迷子になんてならないでくださいよ。…シトリーさん、なに笑っているんですか。」
城内の兵士に尋ねると、その商人の居場所はすぐにわかった。兵士の詰め所で、おそらく武器補給の商談でも終わったとこだろう。
「すみません。ちょっと伺いたいことがあるのですが。」
シトリーが話しかけると、その商人は心得たように答えてくれた。
「あぁ、王様から話は聞いていますよ。最近の…アクマに関することですよね。」
その商人の話によると、この国以外にも少なくとも世界中の三か所で、アクマ関連の事件が起こっているようだった。まず一つ目。近くにあるハチボリの国では、アクマによってヒトが奴隷にされている地域もあるそうだ。他にもジールという国では、アクマの宗教による弾圧が起きているという。さらに、ほかにも被害のある国があるようだ。
「シュリさん、クリネさん、まずはハチボリ国が目的地ですかね?」
商人の話を聞き終えて、シトリーが二人に問いかけた。
「そうね。とにかく、そのアクマの被害が出ている国というのを見てみないといけませんね。ハチボリの国というと、海を越えていく必要があるわね。船が必要かしら。」
シュリさんが、思案顔になる。
「えぇ、そうですね。まずは港のあるショウバの港へ向かいましょうか。港であれば、船乗りや商人からもっと詳しい話も聞けるかもしれません。」
クリネが答える。
「でも、最近は町の外でアクマに襲われることがあるんですよね。シトリーさん、その…大丈夫なんですか?」
僅かに目を伏せて、シュリが尋ねる。
「大丈夫ですよ。僕も、それなりには戦えます。相手がアクマでも。ヒトだって、犯罪者が相手ならヒト同士でも戦えるでしょう?そんなもんですよ。」
シトリーが答えると、ふたりも顔を明るくした。
「なら、心配はいらないようですね。」
「えぇ。じゃあ、いったん解散して、準備を済ませてまた集合にしましょうか。」
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