26 クロース・クオーター・バトル・オブザデッド
「よし行くぞ! GO、GO、GO!!!」
玄関の扉に手をかけたレムリルが、その合図と同時に大きくそれを開け広げる。
すぐにもそれに反応して船坂が、そしてシルビア、アイリーンと立て続けに中へ飛び込んだ。
そうして四人が最初に目撃したのが、骸骨戦士だった。
「スケルトン!」
「階段の上にゾンビですよ?!」
安全装置の解除および銃弾の装填は完了している。
すぐにも眼の前に立っていた二体の骸骨戦士に向けて射撃を開始だ。
タンタンタンッ!
ヘルメットを被った骸骨戦士は、魔法石か何かでひときわ胸元を赤く輝かせていた。
自然と四人の攻撃がその魔法石に集中する。
だが玄関エントランスの奥にある階段踊り場でふらふらとしていたゾンビが、急激な動きをして階段を転がる様に移動してくる。
「わわーっ、ゾンビが来ました!」
「ちい、アンデッドの癖に動きが速いぞどうなってるんだ?!」
どうやら赤い魔法石が心臓部分の様なものだったらしい。
骸骨戦士については何もさせる時間を与えずに四人で粉々にする事ができた。
しかし飛びつきゾンビはそうもいかず、騎士であるシルビアが一番最初に反応して単射で数発ほど撃ち込んだ後に格闘戦にもつれこんでしまう。
「うおおお! 気持ち悪いこっちに来るなあああっ」
どうやら骸骨戦士の赤い魔法石の様な、眼に見える形の弱点めいたものが存在しない。
そのために近接戦闘に自信があったシルビアが前に躍り出て、途中からは銃撃があまり効果がないと見るや、M-4カービンの銃床でゾンビの顔面をぶん殴ったのである。
ぶちゃあ。
激しく顔面の熟成肉をまき散らしながら、ゾンビが大きくのけぞった。
「うわぁきしゃない! 何だこのベッチョリは?!」
爆乳長身エルフがその外見に似合わない悲鳴を飛ばした。
すかさず船坂が援護射撃をしようとしたが、それよりも早くいい動きでレムリルが呼応する。
タンタンっ!
単射で確実に胴体に数発撃ち込んだところで、ようやくゾンビは地面に倒れて動かなくなった。
「コウタロウさま、玄関口周辺の敵見当たりませんっ」
「よしクリアだな?! このまま左に警戒しつつ、右手の部屋を先に制圧しよう。アイリーンはそのまま後方警戒、レムリルは先頭を頼む!」
「わかりましたーっ」
小柄な狐耳のレムリルは獣人らしく身のこなしが軽い。
その点アイリーンは領主さまとしてどこかに指揮官先頭の気概みたいなものが見えるが、さすがに騎士のシルビアや獣人のレムリルの様に反応はそこまでよくなかった。
「コウタロウ、モスバーグを試したいぞ」
「わかった。射撃訓練は済ませているんだったな、それでレムリルを援護してくれ!」
ふたつ目の部屋に突入する前に、廊下でゾンビと遭遇。
すぐさまM-4を構えて攻撃しようとするレムリルを制して、シルビアがモスバーグM500ショットガンをぶっ放した。
ドガン! シャコン! ドガン!
「うおお、これはいいな! 相手が吹っ飛ぶぞ!」
「狙いを定めなくてもいいので、射撃が下手なシルビアさんでも何とかなりますね!」
「うるさいぞレムリル?!」
そのまま通路に沿っていくつかの部屋を掃討すると、引き返して反対の食堂がある方面に向かう。
今度はポジションを入れ替えてアイリーンが戦闘で船坂がその後に付く。
そうして食堂の入口で船坂が扉に手を賭けた途端、
「グルル、ガウンガウン!」
「ひい、双頭狼が何でこんなところに?!」
突如飛び出してきたのは船坂がこの世界にたどり着いた時にもいた、双頭狼だった。
その時は雑魚モンスターとたかをくくっていたのでたいして気概も無かったが、今は突如飛び出してきたものだからてきめんに驚いた。
「アイリーンさん下がって!」
「他にもゾンビとか骸骨戦士がいるぞ。骸骨は弓を持ってる!」
あわててパニックになったアイリーンを庇いながら、フルオートで双頭狼に撃ち込むと、吹き飛ばされた狼は息絶えた。
しかし後方から弓で攻撃を仕掛けてくる骸骨弓兵がいるため、四人は食堂入口から内部に突入できない。
バスン! シャコン! バスン! シャコン!
カチカチっ
「くそっ、弾切れだセイジ!」
「援護する、敵を近づけさせるな攻撃続行!!」
乱射する様にシルビアがモスバーグを連射した事で、どうにかゾンビは排除した。
しかし二体の骸骨弓兵が相互に弓で攻撃するので若干手間取った。
意を決したアイリーンが、射撃モードをフルートに設定すると、
「アンテッドは嫌いなんですうううううう!」
ダダダダダンと弾切れするまでトリガーを引きっぱなしにして、薙ぎ払う様にM-4カービンを射撃した。
ようやく食堂の制圧を完了したところで、今度は階上に向かう。
そこでもべとべとぬちょりとしたスライムや、意味不明のモンスターに恐怖の悲鳴を上げる化け物が船坂たちを待ち構えていた。
どうにか全ての部屋を掃討して、二階のベランダからカタリーナ婦人に掃討完了を告げる事ができたのは十数分後だった。
「おーっほっほっほ! みなさんには思いっきり楽しんでいただけた様ですわね。いかがでしたか?」
勝ち誇った様な、あるいは満足してもらえて光栄と言う様な。
そんなカタリーナ婦人の高笑いを四人は聞いて、ゲンナリした表情で入口まで戻って来たのだが。
「何ですかあのお風呂場にいたスライムは?! 七色に光り輝いていたんですけど!」
「いくらなんでもゾンビはやりすぎだ、耐久力が人間以上で訓練にならないっ」
「犬が、犬が、わたしの尻尾をペロペロしたんですー。早くお風呂に入ってきれいにしないとっ」
三人の美少女たちは抗議を口々にカタリーナ婦人にぶつける。
しかし、ある意味でこの訓練施設の内容に船坂は満足していた。
ここは異世界だ、予想外のターゲットが用意されていたが、この先どんな敵と遭遇するかも知れない。
「今後このターゲットは他のものと交換する事は出来ますか」
「ご用命とあらば可能ですわよ。吸血コウモリや、里の森にも生息している狂乱エイプ、その他人間の動きに近いゴブリンなども連れてこれますわね」
何しろ森にはモンスターがゴロゴロおりますので!
船坂とカタリーナのそんなやり取りを聞いた美少女三人は、ぎょっとした顔をした。
「これ以上ひどい訓練にするんですか?!」
「う、うん。でもその前にまず今のターゲットで練習を繰り返そうか」
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