24 近接戦闘の訓練施設を作ります
恐怖の館は特殊部隊が使用する訓練施設である。
主に
「コウタロウさま、それは里の外れにある射撃練習場とは何が違うのでしょうか?」
昼下がりの午後の事。
居間でのんびりとお茶を楽しみながら恐怖の館について説明をしていたところ。
すると不思議そうな顔をしたアイリーンが質問をした。
「戦闘の種類も色々あるからな。野外での戦闘に市街地での戦闘、もちろんそのシチュエーションに合わせて武器も選択しなくちゃいけない」
「確かにその通りです」
「恐怖の館は、主に近接戦闘を訓練するための施設だと思ってくれるといい。AK-47は優れた武器だけど、大きさもあるだろ?」
屋内で戦闘をする場合は取り回しが大変になる。
そこで現実の戦闘などでは、
ゲームの場合は射撃速度の速い短機関銃で、出会い頭に弾丸による数の暴力で弾幕を張るためにこれが利用される事もあった。
船坂がその事を説明すると、なるほどよくわかりましたとアイリーンが納得の表情をした。
すると同様に納得の顔をした白銀の騎士シルビアも、思った事を口にする。
「お嬢さま、戦う場所によって武器を使い分けるのは戦士の心得です。わたしも騎士見習いの事は槍と剣、それに短剣をそれぞれ練習したものです」
「槍は建物の中で使うには、長さがありますものね」
「長剣の場合でも同じですね。狭い部屋で集団戦闘をする場合は、互いの距離が近付くので注意が必要です。剣も大きく振りかぶると、」
チャンバラの真似事をしてみせたシルビアは、途中で天井を差して、
「あちこちに引っかかってしまうので、技術として別のものが要求されるわけです」
「なるほどー。からしにこふ、は槍の様なもので、拳銃は短剣の様なものというわけですね!」
シルビアの言葉にティーポットから暖かいお茶を注ぎ終わったレムリルも、ポンと手を叩いて納得していた。
「ちなみに、シルビアに先日渡したモスバーグ散弾銃も近接戦闘の武器として優秀だ」
「ほう。もすばぁぐ、は少々長さがある様だが、近接戦闘でも役に立つのか」
だいたい船坂の意図した恐怖の館についての趣旨が女性陣に受け入れらたらしい。
しかしどうやって、恐怖の館を用意するかだ。
訓練する者は敵に見立てたターゲットを迅速確実に倒しながら、時には出現する人質などは決して攻撃しない。
コースに従って武器を使い分けながら前進し、クリアするのだ。
ターゲットは事前に用意しておいて、それを訓練する者が次々と射撃していく方法がベターだが、可能ならば突然飛び出してくる目標というのも悪くない。
「それでしたら、わたしの叔母に相談してみるのがいいと思います」
「アイリーンさんの叔母さん?」
「はい。里の外れに住んでおりまして、わたしの家族の中では一番お爺さまの血を色濃く受け継いでいるんですよ」
アイリーンの祖父の血を色濃く。
それはつまり魔法使いであり発明家としての才能という事だった。
「今でも三連水車の補修作業や、新しい不思議な道具を作ったりするのは叔母のお仕事です」
「自動式のターゲット配置とか魔法でできるかどうか、聞いてみるのはアリだな」
「はい、ぜひそうなさいませコウタロウさまっ」
聞きましたかレムリル?
嬉しそうにそう返事をしたアイリーンは、すぐにもレムリルに里の外れにある叔母の家まで走る様に命じた。
了解しましたっと元気印の狐耳メイドは駆け出していく。
アイリーンも自分の提案が受け入れられて「少しでもコウタロウさまのお役に立てました」と満足そうだ。
「ふむ。コウタロウ、恐怖の館でモスバーグの練習はできるのだろうな?」
「できるよ。たぶんかなり使いやすいはずだ。散弾銃は多少狙いが甘くても、近距離反意攻撃が出来るからな」
「そ、そうか。わたしはまどろっこしく狙いをつけるのは面倒だと思っていたのだ!」
腕を組んでウンウンと自己弁護する白銀の騎士だ。
すると爆裂巨乳がひときわ強調されて、あわてて船坂は視線を外した。
しかし一瞬でもガン見していた事がバレたのだろう。
自分の胸周りをスカスカとやってから、とても嫌そうな顔をしたアイリーン。
それを目敏く発見して、自分と美少女領主の胸を見比べるシルビア。
「武器をいろいろ変えながら、本来使い勝手の悪い武器も一応試しておけば、いざという時に役に立つかもしれないな。みんなでライフルやカービン、それから散弾銃に拳銃と練習できるといいな」
どうやら誤魔化しの言葉は通じなかったのか、船坂はふたりの女性からジロリと睨まれてしまった。
◆
恐怖の館の候補となったのは、村はずれにある今話使われていない屋敷だった。
これはむかしチルチル領主家の分家の者が使っていたらしいが、今は放置されて久しいという事だ。
けれど船坂が実際に現物の建物を見学に行ってみると、その大きさは申し分ない。
「古いけどなかなか立派な建物じゃないか」
外観は二階建ての古い建物だが、それなりにお貴族さまの家族が使っていただけに立派だ。
しっかりとコースを作って玄関口や裏口、あるいは二階からの突入訓練などもできるかもしれない。
そんな風に船坂が思案を巡らせていると、
「すでに今は誰も使っていないので、改造などどの様に使っていただいても構いませんので」
「実弾を使ってボロボロになっても?」
「はい。どのみちもう何年もしたら、取り潰そうかと話していたんです」
「空き家が村外れなどにあると、盗賊や浮浪者の類が住み着いてしまう事も考えられるからな。それよりはお嬢さまの言う通り、有効活用をした方がいいだろう」
アイリーンがその様に説明してくれると、由緒正しい女騎士の格好にお気に入りのモスバーグを背中に担いだシルビアも同意する。
「確かに、サザーンメキの残党みたいなのがこの屋敷に住み着いたらやっかいだ」
「どうせ潰れてしまうのであれば、コウタロウさまのお役に立ってボロボロになった方が屋敷も幸せでしょう!」
どういう理屈だよと船坂が苦笑を浮かべたところで、ふと気配を感じたシルビアが振り返った。
つられてアイリーンや船坂も背後を振り向くと。
「おや、ちょうど叔母が来られたようですっ」
「ほんとだエルフだ。それにしてもずいぶん若いね?」
「わたしの母とは年の離れた姉妹でしたので、叔母と言ってもわたしにとっては姉みたいなそんざいなんです」
ニコニコしながらそう説明してくれたアイリーンである。
すると隣のシルビアが身を寄せて、船坂にこう耳打ちをした。
「カタリーナさまは年齢の事をすごく気にしておられる方だから、気を付けた方がいいぞ」
「?」
「あのご年齢でまだ未婚だから、最近すごく焦っておいでなのだ……」
少し離れたところからでも、レムリルと一緒にこちらへやって来る女性は目立った。
ド派手な衣装はお貴族さまの婦人と言えばそれまでなのかもしれないが、アイリーンとは違って原色系の目に焼き付く赤である。
そしてよく手入れされた燃えるような赤色の長髪は、物語の世界でしか存在しない様な縦ロールである。
「おーっほっほっほ! アイリーンさん、わたくしに会いたいとおっしゃる殿方はこちらの方ですの?」
初見の印象はとても強烈であった。
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