23 武器格納庫と新しい武器
「コウタロウさま、こちらがその倉庫になります!」
普段着のドレス姿で、屋敷の敷地内を案内するのはアイリーンだ。
堅固な石造りの大きな箱の様なものを前にして、彼女は嬉しそうに説明を続けた。
「これはわたしのお爺さまが設計したもので、耐火処理と耐魔法処理を施した、魔法施錠式の特別なものなんですよ!」
「すごいなコレ、バンカーバスターでも使わなければ破壊できなさそうな外観だ」
もともとこの石造りの分厚い倉庫は、チルチル領主家の資産を格納すためにアイリーンの祖父が建設を命じた者らしい。
優秀な魔法使いであり、発明家でもあった先々代はこのエルフの里に様々な発明品を残したが、これもまたそのひとつなのだろう。
「ばんかぁばすたぁ、ですか?」
「こういうガチガチの防御で固められている施設を破壊するための、特別な武器だよ」
「女神様の怒りの鉄槌、といったところでしょうか」
「そんな感じかな……」
バンカーバスターは堅牢な地上施設を破壊するために開発された、地中貫通爆弾である。
高高度から航空機によって投下されたそれは、加速によって鉄筋コンクリートや特殊構造の地下施設であっても破壊する事ができる。
「さすがにそんなものがこの世界に存在するとは思えないので、十分以上の防犯機能があるんじゃないかな」
「ありがとうございます。死んだお爺さまの魂もきっと喜んでいると思いますっ」
「お、おう……」
もともと倉庫の手配は狐耳メイドのレムリルに頼んでいた事だ。
けれど先日の一件があり、アイリーンは船坂の手伝いをしたいと積極的にアピールをしてきた。
そういう兼ね合いもあって彼はアイリーンに倉庫の案内を頼んだのだが、思いのほか上機嫌で案内役をしてくれたのである。
「この扉はこの魔法陣で登録した人間だけに開閉する事ができます。こうして触れて、」
「ほう、誰でも開けられるわけじゃないんだね」
「そうですね。こんな感じで魔法陣が反応すると、ロックが解除されますっ」
船坂が見ているとファアンと共鳴の様なものが聞こえて、カチャリと施錠が解除された様だ。
そのまま「んしょんしょ」とアイリーンが厚みのある鉄扉を押すと、彼もあわててその手伝いをした。
ゴゴゴゴギイイイイ。
「中が真っ暗だぞ。結構広そうだな……」
「少しお待ちください。すぐに発光魔法を使いますのでっ」
笑顔を向けたアイリーンが正面に向き直ると、少し真面目な表情を作って手を前に差し出す。
すると小さな光が発生し、みるみるテニスボールほどのサイズまで膨らんで倉庫内に放たれた。
中の広さは学校によくある体育倉庫といった感じだろうか。
船坂は少し埃りっぽい倉庫内に入って周囲を見回した。
「いろいろな武器もあるんだな」
「お爺さまが作られた発明品はあちらに、こちらが武器になりますね」
すでに倉庫内はきれいに整頓されていて、何かの詰まった木箱の様なものが片側にまとめられている。
それから今は使われていない棚と、無数の槍や剣が武器立てに並べて立てかけられていた。
少し気になったので船坂は手に取ろうとしたとこで、
「やめておこう……」
「?」
「いや、俺が不用意に備品に触れると現代兵器になっちゃうからな」
「うふふ、そうでしたね」
歩兵槍などのいかにも量産型に見える装備はともかくとして、その他の刀剣や盾の類などはいかにも省が施されている。
下手に触って先祖伝来の宝剣を妙な銃火器に変えてしまってはいけないのだ。
「でもあまりお気になさらなくてもいいですよ。今はコウタロウさまのくださった、からしにこふ、などがございますし、それらの武器がどの様に変異するのかも興味があります」
「それは確かに興味があるな」
よし、ではいかにも先祖伝来の宝剣みたいなものは避けて、歩兵槍ぐらいで試してみよう。
アイリーンの許可が下りたので、さっそく船坂は歩兵槍を凝視した。
すると隣で彼女も興味津々に身を乗り出して前かがみになる。
お肌とお肌が触れ合いそうになる距離まで近づいたので、船坂はドキドキした。
ちなみに船坂は戦闘服の上下を着ているのでお肌の露出面は無いが。
船坂はガッカリした。
「歩兵槍と言えば文字通り歩兵のメインウェポンだ。って事はアサルトライフル辺りになるのかな?」
「あさるとらいふる、ですか」
「俺の持っているM-4カービンとか、AK-47の親戚みたいな武器になる気がするな」
両手に持った歩兵槍はずしりと重みのあるものだった。
しげしげと観察している内に、例によって歩兵槍はみるみる変異して現代兵器に姿を変えた。
歩兵槍は船坂の所持しているM-4カービンへとなったのである。
「……これは!」
「コウタロウさまと同じ武器ですよね、でもすこし形状が違う気がします?」
船坂からそれを受け取ったアイリーンは、両手で抱き上げながら観察する。
形状が違う点に目敏く気付くと、銃身の下側を触って不思議そうな顔をして見せた。
「俺が持っているのはグレネードランチャーが装着したタイプだが、これには付いてない。けど武器の口径が共通だから、これを使えばマガジンをお互いに共用する事ができるね」
「なるほどです。わたしもこれを使わせていただいても?」
AK-47は船坂のいた世界でもっとも生産された、ソ連邦の生み出した世界的名銃だ。
だが七・二六ミリ小銃弾というやや口径の大きな弾を使う。
堅牢な造りで使い勝手もよいが、連射すると銃口が跳ね上がる傾向もあった。
「五・五六ミリNATO弾を使うM-4カービンの方が、反動は軽くなるかも知れないな。ついでだからみんなのぶんも、歩兵槍を変換しておこうか」
「それがいいですね。シルビアは弾を命中させるのが苦手な様ですし、その方がいいかもしれません」
などとふたりで相談をしていたところ。
堅固な倉庫の外から、ガラガラと手押し車を押す音が漏れ聞こえてきた。
「コウタロウさまーお待たせしました」
「貴様の指示通り、ゲストルームにあった装備一式を持って来たぞ。武器と弾薬でよかったんだな?」
「おお、きみたちか」
振り返ると手押し車を止めた白銀の騎士シルビアが、AK-47を抱きかかえながら入ってくる。
レムリルも弾倉の入った木箱を地面に降ろしながら中を覗き込んでくるではないか。
「あ、新しい武器ですかー?」
「コウタロウさまとお揃いの武器を新調していただいているところですよ。元は使わなくなった歩兵槍です」
まるで自分の事の様に嬉しそうな顔をしたアイリーンが、武器変換したばかりのM-4カービンをそれぞれに配る。
世界の武装組織が愛用するAK-47は、素人でも数日ほど訓練すれば扱いを取得できるとモノの本に書かれていた。
しかしM-4カービンはアメリカ合衆国の軍隊や世界中の特殊部隊などで採用されているものだ。
西側兵器と東側兵器では使用感が多少違うかもしれない。
そんな風に船坂が考えながら、玩具を与えられた子供の様に嬉しそうにしている女性陣を眺めた。
「新しい武器の訓練を兼ねて、恐怖の館でも作ってみるか」
「……恐怖の館、ですか?」
「うん。戦士の鍛えるために、とある国が考案した訓練施設だよ」
船坂はそう返事をすると、おどろおどろしい名前に恐怖している彼女たちにニヤリとしてみせた。
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