19 盗賊殲滅作戦

 アイリーンの呼びかけた精霊通信を耳にしたのだろう。

 修道院跡地の敷地正面を守っていたふたりの兵士が、監視台の仲間が倒れた事に気を取られている瞬間を狙って草むらから攻撃を開始した。


 タタタタン!

 連続射撃音が響くと、何が起きたのかもわからないうちにゲートの警備ふたりが倒れた。

 あまり射撃の腕が良くないシルビアは、狙って当てる事をあきらめて弾数で勝負したと見える。

 女騎士だけあって、跳ねあがる銃口をうまく制御するコツを覚えるのも早い。


「コウタロウさま、監視台に敵が上がってきます。それも複数!」

「ふたりに監視台に攻撃を集中させる様に指示してっ」

「了解ですっ」


 精霊通信は便利なものだ。

 一方通行の通達しか出来ないけれど、離れた距離でも確実に相手に言葉を伝える事ができるのだ。

 自分の持っている無線も仲間たちと共有できる様になれば、さらに有利だと船坂は確信した。


「よし、レムリルたちと合流しよう!」

「わかりましたっ」


 AK-47を抱いて立ち上がったアイリーンは、船坂が狙撃する合間をぬって飛び出した。

 駆け出す姿はややおぼつかないけれど、チルチル村を襲おうとした盗賊一味を許さないという覚悟があるのだろう。

 立派な領主たらんと美少女エルフは頑張っているのだ。


「俺がせめて側にいて守ってやらないとなっ!」


 ふたたび鐘塔に敵が姿を現した様だ。

 全体を俯瞰できる場所に敵が陣取っているというのは戦略的に非常にまずい。

 それこそ精霊通信の様なものを使える人間に、高所から適格な指示を飛ばしていると考えれば潰しておく必要がるのだ。


 タンタンタン!

 アイリーンが途中で立ち止まり、片膝立ちで監視台の方を射撃している。

 そのスキに船坂はレミントン狙撃銃を持ち上げて駆け出した。

 彼女が援護射撃をしているうちに前進して、今のうちに鐘塔を潰してしまうのが得策と考えたからである。


「シルビアとレムリルが修道院跡地の敷地内に侵入しました!」

「了解だ。あそこの鐘塔をグレネード潰してしまおう、再配置についた敵は狙撃で排除したが、これじゃキリがない」

「はい! よろしくお願いしますっ」


 船坂の体感で鐘塔を狙える射手距離まで近づく。

 ランチャー専用の照準器を立脚させて、ポシュンと間抜けな音とともにグレネード弾を放出した。

 そのまま鐘塔のてっぺんに飛んでいき、激しい爆発音がその場で鳴り響く。

 屋根や鐘ごと何もかもを吹き飛ばして崩落させた。


「お見事です! さすがコウタロウさまっ」

「制圧完了! よし俺たちもゲートから突入だ」


 激しく怒号と銃撃の音が聞こえてくるゲートの向こう側では、どうやら一方的な戦闘が続けられているらしい。

 船坂とアイリーンが中に突入した時には、互いに背中合わせになりながら相互支援をしつつ戦っているシルビアとレムリルが見えた。

 レムリルは単射モードで確実に仕留める方向で戦っているのだ。

 けれども、


「邪神様は偉大なり!」

「危ない!」


 タタタン! と指切でM-4カービンを射撃した船坂は、レムリルにしゃにむに斬りかかっていた敵を射殺する。

 やはりアサルトライフルの欠点は、相手に接近を許した時にある様だ。

 圧倒的な火力で敵を大混乱にさせている間に、確実に仕留めていくに限る。

 あるいは敵の首魁を最初に倒して、俺たちはもう駄目だと思わせる必要があるか。


「監視台から弓兵の盗賊が狙っています! コウタロウさま、あれも、ぐれねぇど、で狙えますか?」

「わかったやってみる。みんな距離を取ってくれ!」


 アイリーンの支援を受けながら、ふたたびグレネードランチャーに弾薬を装填。

 複数の弓手が取り付いている木組みの監視台を狙って、船坂は豪快に吹き飛ばしてやった。

 ドカンとまた派手に爆発したのを確認したところで、盗賊を率いているサザーンメキを探した。


「サザーンメキはどんな格好をしているんだ?!」

「恰幅のいい、ヒゲ面をした男だから見ればすぐにわかるというぞ! 大きな剣を持っていればそいつがサザーンメキだ」


 シルビアが叫びながらAK-47の銃床を敵に叩きつける。

 倒れたところを、トドメとばかりタアンと打ち込む姿が見えた。彼女は騎士らしく乱戦でも対処する術をもっているのが有難い。


「あれではないでしょうか! 礼拝堂の入口に出てきた太っている男性です!」

「ヒゲ面か?!」

「ヒゲ面ですねーコウタロウさまぁ!!」


 アイリーンとレムリルが口々にそう叫んだのを聞いて、船坂がM-4カービンを向けた。

 ドットサイトの中に驚いた男の顔をあわせて、トリガーを引く。


 タンタンタン!

 立て続けに三射したところで、太っちょの男は吹き飛ばされて倒れた。

 幹部だろうか、男の周りにいた男たちも驚いた顔をして逃げ出そうとしている。


「仕留めたか?!」

「コウタロウさまーさすがですっ」

「ああっ、他の盗賊たちが逃げ出しましたよ。女性を盾にして逃走なんて、男の風上にも置けない人物ですね?!」


 激怒してみせたアイリーンは、弾倉交換をしながら逃げ惑う敵を容赦なく射殺していった。

 船坂も「邪神さまは偉大なり!」と叫びながら接近する盗賊に、M-4カービンを射ちきると、あわててP220拳銃に持ち替えて射撃した。


「お頭がやられた、お頭がやられたぞ!」

「ここはもうだめだいったん下がれ! 邪神様は偉大なり!」


 邪神を称えながら逃げ出す盗賊たちを放置して、四人の銃声はひとまず終息した。


     ◆


「こ、降伏する。これ以上の無駄な抵抗はしないので、俺たちをどうか見逃してくれ!」


 夜明けを迎えて。

 頭を擦り付ける様にして謝罪を述べたのは、生き残った盗賊のまとめ役だ。 

 幹部たちの中でたまたま礼拝堂の中にいて逃げ遅れたのが原因だが、自分だけでも助かろうと必死の形相にアイリーンはあきれ顔をしている。


「見逃すかどうかはこの土地の領主さまが決める事であって、わたしではありませんからね」

「そこを何とかならないか。領主なんぞに差し出されたら俺たちは斬首されるにきまってるから……。そうだ、女たちを差し出そう。こいつらはよく調教されていて、男を気持ちよくする事にかけては絶品だっ」

「残念ながらわたしは女性なので、興味がありません」


 シルビア、このひとを縛り上げて下さい。

 船坂がこれまで見た事のない様な冷淡な表情でアイリーンが言った。


「これまで散々、好き放題の事をやって来たはずの盗賊です。今さら自分だけ助かりたいと命乞いをするなんて、筋違いにもほどがあります。それに娼婦を差し出すなんて!」

「そ、そうだな……」

「彼女たちだってどこかから連れ去られた人間たちでしょう。逃げられないとわかっているから、少しでも今の居場所をよくするために頑張っていたのです。それを、何を勘違いしてよく調教されていて、などと……」


 アイリーンの怒りは最もなものだった。

 それが証拠に降伏した盗賊一味の残党を、率先して娼婦たちが縛り上げていくのだから。

 AK-47を構えたシルビアやレムリルの前で彼女たちは黙々と、そして「ありがとう」の言葉を添えながら盗賊たちを船坂の前に差し出したのだ。


「ラスパンチョの村はここからそれほど遠くはない場所にあるはずだったよな」

「はい、この先の丘を越えた向こう側に村の中心となる里があるはずです。いちど、晩餐会でお会いした事がありました」


 アイリーンの言葉を聞いて船坂はジッパーロックされた地図を取り出した。

 ピースメイキングカンパニーのキャンペーンモードを開始した時には、作戦区域の周辺しか描かれていなかったはずだ。

 けれど改めて確認してみると、どうやら地図のマップ表示が変更になっている。紙にもかかわらず。


「ああここです。ここが修道院跡地で、こちらがラスパンチョの村の中心地になります」


 身を寄せて甘い吐息を漏らしたアイリーンから、船坂はドキドキしながら説明を聞いた。


「アイリーンお嬢さま、すでに陽も昇っているので村も活動を開始しているはずだから、わたしが行って村の領主さまに報告して来ましょうか?」

「お願いしますレムリル。シルビアは、集めた捕虜を礼拝堂の中に集めてもらえますかっ」

「わかりましたお嬢さま。おいコウタロウ、貴様もボサっとしてないで何か手伝え」

「お、おうっ。じゃあ俺は回収した武器を集めておく!」


 シルビアに不満をぶつけられた船坂は、盗賊たちの武器を一か所に集める作業をしていたのだが。

 ふと状態の良い長剣を一本を手に取って確認していたところ、それがみるみる別の武器へと変異していく。

 気が付けばそれは、モスバーグ社製のショットガンへと変化していたのである。


「こ、これは軍用ショットガンのひとつ、M500じゃないか!」


 軽度なミリオタとして多少の知識があったので、船坂はそれがイラク戦争などでも使われた米軍採用のショットガンである事を思い出した。

 ポンプアクション式で、近接距離においては圧倒的な制圧力を発揮する。


「ん、何だコウタロウ。また新しい武器を錬金していたのか」

「ああこれはポンプアクション式のショットガンだ。しかし、もう少し早くこれを手に入れていたら、近接戦の時に役に立ったんだがな……」


 ちなみにショットガンに使われる実包は、パッケージングされた中身に金属破片や粒などが治められている。

 これを発射すると実包の中身が爆発四散するので、近距離においては狙いが甘くても巻き込む形で相手に被害を与える事ができるのだ。


「だから、これはシルビア向きの武器かもしれないな……」

「な、何だ。わたしの狙いが甘いと言いたいのか?!」

「事実だろ?」


 腹を立てた女騎士がバシリと船坂の尻を叩く。

 するとその勢いでシルビアの胸が激しく揺れて、船坂はニヤリとした。


「次の機会があれば使ってみるといいぞ。だがその前に実包の数を量産しておかないとな」

「そんな機会はできれば訪れて欲しくないものだ」


 どんな時代、どんな世界でも騎士や軍人の出番がない平和な事が一番だ。

 武器が活躍するということは、それだけ政情不安という事なのだから。

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