14 鹵獲武器を手にすると、カラシニコフになりました

 並べられた盗賊一味の死体は六つ。

 そのまま街道に放置しておくわけにもいかないし、腐臭につられて魔物が現れる可能性もある。


「それにしても、れみんとん、の攻撃力は凄いですねお嬢さまっ」

「あんなに離れた距離からでも、鎧を着た悪党の体を貫いているのですからね」

「コウタロウさまー、お馬さんは全部連れてきましたよー」

「盗賊の武器も集めておきましょう。サザーンメキの手下たちがまた攻めてきた時に、戦う武器は必要ですので」


 レムリルとアイリーンが、盗賊たちの装備を剥ぎ取りながらそんな会話をしていた。

 ここはゲーム世界であったとしても非常なる現実なのだ。

 使えるものは何でも使うとばかり、領主の主従は盗賊たちの武器や馬を集めて船坂に差し出すのである。


「しかしどれも安っぽい武器ですねー。これなんて錆び付いた剣ですよ」

「斬れ味はあまり期待できそうもありませんねコウタロウさま」

「どれ、まあ無いよりはマシというぐらいだろうな。見せてくれ」


 船坂は錆びた長剣を受け取って具合を改めてみる。

 たいした装飾も施されていない、何の変哲もない長剣だった。

 斬れ味は錆びていなかったとしても元からあまり期待でき無さそうなナマクラの様である。

 切っ先と鍔元を比べてみると、刀身が歪んですらいる。


「こりゃスコップかクワを武器にしている方がナンボか攻撃力がありそうだ……おや?」

「どうされましたコウタロウさま」


 あまりに酷い剣を眺めていたところ、突如として錆びたそれが形状変化を開始した。

 まさか何かの呪いでもかかっていたのかと船坂は一瞬驚いたけれど、どうやらそうではないらしい。

 錆びた剣はみるみる姿を変えた後、武骨なアサルトライフルへと変化した。

 

「あー、コウタロウさまの持っている武器みたいになりましたね!」

「さすがコウタロウさまですっ」

「こっこれは、全世界の民兵御用達AK-47アサルトライフルだ!!」


 AK-47は天才銃器デザイナー、カラシニコフが生んだソ連邦を代表する小銃だ。

 頑丈で故障しにくく、そのため今も世界中のテロリストやゲリラなど、武装集団からこよなく愛されているのだ!

 試しに他の鹵獲武器を船坂が手に取ってみると、


「……なるほど。俺が鹵獲武器を手に持つと銃火器を召喚する事ができるのか!」

「コウタロウさまと同じ様な武器が、たくさん手に入るという事ですね?」

「そういう事になるかな、だが弾数には限りがある」

「えーけー47は全部で七個ありますね」

「AK-47一丁につき、弾倉が一本しか手に入らないのが惜しいな……」


 現代戦は補給の戦いである。

 例え強力な兵器を手に入れても弾薬が無ければただの金属の塊でしかない。

 今後は積極的に鹵獲武器を集めて、弾倉を集める事にしようと船坂は思った。


「とりあえずアイリーンさん様にひとつと、残りは弾倉を外して予備マガジンにするか」

「えっ、わたしが使ってもよろしいのですか?」

「ああ。AK-47は反動の大きい七・六二ミリ弾を使っているので、連射をすると銃口が跳ね上がるらしいが、練習も容易だとモノの本で読んだことがある」


 嬉しそうに見返してくるアイリーンに、船坂は程度のよさそうな一丁を中から選んで渡す事にした。

 ゲーム的な感覚で言えばどれも個体差は無いのだろうが、気分の問題だ。


「ありがとうございますコウタロウさま。大切に使わせていただきますねっ。コウタロウさま?」


 しかし敵から武器を剥ぎ取って手に入れる以外の方法は無いだろうか。

 例えば船坂の防弾ベストに付いてるマガジンポーチの中にAK-47用の三〇連弾倉バナナマガジンを放り込んでおくと、増えたりはしないだろうかと考えたのだが、


「あ、上手くいった……」

「えっと、どういう事でしょうか?」

「アッサリ弾数の問題が解決されたというわけだ。これで残弾を気にせず射撃練習する事ができるな」

「はい、さすがはコウタロウさまですっ」


 美少女エルフが微笑みを称え、無条件に船坂を賞賛する。

 悪くない気分になって彼は自然と頬が緩んだ。


「はいはい、コウタロウさまー。わたしもコウタロウさまやお嬢さまのお役に立ちたいです!」

「よしわかった。じゃあレムリルにはこれを渡しておこう」

「わあ、ありがとうございます! これでコウタロウさまみたいに盗賊をブチ殺してやる事にしますね!」


 幼さの残る表情と言葉の表現に酷くギャップがある。

 船坂は引きつった笑顔で「そうかよかったね」と返事をしておいた。


 しかし新たな武器も手に入れ、弾薬の問題が解決したので、白銀の騎士シルビアがにもAKを渡してもいいだろう。

 そう思って船坂が視線をさ迷わせると、女騎士がちょうど捕縛した盗賊一味の残党を引っ立ててくるのが見えた。


「きりきり歩け!」

「ひい何でもしますから殺さないでくださいっ」

「じゃあ大人しく、あらいざらい知っている事を全部話してもらおうか! でなければ、あそこに見える筋肉モリモリマッチョマンの変態が、言葉に出来ないほど酷い尋問をするからなっ」

「後生ですから、お尻だけは勘弁してください!」


 俺も男には興味ねえよ!

 船坂はたまらず不平不満を心の中でぶちまけた。


     ◆


 捕虜にした盗賊を尋問したところ、大人しく次の様な事を供述した。


「サザーンメキさまは教団支部に依頼されて、国家転覆に必要な軍資金を集めるために悪党働きを俺たちにお命じになられたんだ」


 ただ悪党働きをするだけでは、近隣の領主たちが兵を興して盗賊の討伐をはじめる。

 そこで襲うのは孤立した村の集落や、街道沿いを行き来している行商人に狙いを付けようとなった。

 たまたま運がいい事に、彼らはドラゴンに襲われたエルフの村の話を聞きつけたわけである。


「俺たちや兄貴がサザーメキさまのところへ戻らなければ、怒り狂って仲間を送り出すだろう。そうなりゃお前たちはお終いだ。何しろ俺たちは二〇〇人からなる武装集団だからな」


 捕虜は強がりを口にしたが、尋問するシルビアは歯牙にもかけない。


「だが貴様もどのみちお終いだ。村のルールに照らし合わせれば、悪党は死罪と相場が決まっている!」

「俺たちゃまだ何もしていなかっただろ?! 一方的に仲間は皆殺しにされたんだ!」

「うるさい黙れ! 貴様はサザーンメキの配下だと自白したし、このチルチルの村を襲撃する計画だと証言したではないか」

「ハッ……しまったっ?!」


 盗賊一味の計画は次の通りだった。

 まずシルビアが予想した通り、斥候チームがドラゴンに襲われた集落の様子を偵察する。

 可能なら旅人を装って被害状況を確認し、他の集落も襲撃可能かどうかもチェックだ。

 すぐにアジトに引き返して、村の女子供や財産をかっぱらって引き上げるというものだったらしい。


「残念ながら、あなたたちの思惑通りにはいきませんでしたね。村の被害は最低限に抑えられているし、こちらにはコウタロウさまという強力な助っ人もおりますから」


 アイリーンはまるでわが事の様に得意げになって船坂の話をする。


「コウタロウだあ? あの筋肉ダルマみたいな男か」

「はい、コウタロウさまは女神様のお遣わしになった守護聖人さまです。あなたたち邪神教徒が民草から何もかも奪うのを、絶対にお許しにはならないでしょう」

「め、女神様の守護聖人だあ? あの筋肉ダルマがか?」

「コウタロウさまの筋肉は聖なる女神様の筋肉です!」


 そんな脅しに俺たち邪神教徒は屈しない。などと盗賊は反論していた。

 聞いていて、そのセリフが一番似合うのは恐らくシルビアだなどと密かに思った船坂である。


「どうするコウタロウ。斥候に出した仲間が帰ってこなければ、捕虜の言う通りやがて連中が大挙して押し寄せてくる事になるだろう」


 チルチル村の軍事専門家であるシルビアは、その事を危惧しているらしい。

 何しろこの領内にいるまともな戦闘員は騎士の彼女と船坂だけ。

 AK-47を手に入れた事で、訓練をすればアイリーンやレムリルも戦う事は可能だ。


「しかし二〇〇人を相手にこちらが守るというのは、無理があるぞコウタロウ」

「ふむ。だったら、この男を生かしてサザーンメキのところに送り返すというのも、方法の一つだな」

「どういう事だ、敵にこちらの情報をわざわざ教えると言うのか?」


 胡乱な視線を向けてくるシルビアに、船坂は思ったことを説明した。


「戦いは守る側よりも攻める側にイニシアチブがあるというぞ。本で読んだ受け売りだけどな」

「ほう、その通りだ。攻撃する側はいつ、どこから攻めて何を条件に勝利するか決める事ができる。騎士見習いになって最初に学ぶことだ」

「だとすると、捕虜をわざと逃がして俺たちが後を付け、こちらからあべこべに敵のアジトを攻撃するのも方法だ」

「なるほど! その手があったか」


 白銀の騎士シルビアは、豊かな胸を抱きしめる様に腕組みして感心した。

 そうすると甲冑の上からでもわかる膨らみが強調される。

 この甲冑の素材は何でできているのだろうかと船坂は密かに思案した。


「それは名案ですねコウタロウさま。こちらからサザーンメキのアジトを襲撃するのであれば、早速からしにこふ、の使い方を習得しませんと!」

「はいはーい、わたし隠密行動は得意なんですよ! 足音が聞こえないからビックリさせるなって、よくシルビアさんにも言われますし?」

「わ、わたしは別に、からしにこふ、の使い方なんて覚えなくても大丈夫だからな! わたしは騎士だから武器の扱いは天才だから、見ただけでわかるんだからっ」


 どうやらシルビアは、自分だけ銃火器を使わずに仲間外れにされるのが嫌らしい。

 爆裂巨乳を揺さぶりながら、明後日の方向を向きつつ船坂に両手を差し出した。

 AK-47を寄こせという意味らしい。

 素直じゃないね! でも嫌いじゃないよ!


「ふ、ふん。コウタロウがお願いしますというから、仕方なく練習に付き合ってやるんだからなっ。貴様はわたしに感謝しろ!」

「ありがとうございます、ありがとうございます」


 船坂は爆裂巨乳にお礼を言った。


「よし、じゃあ時間が無い。短期集中訓練をやってから、盗賊を解放してやる事にしよう」

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