15 コウタロウ式ブートキャンプ(半日)
悪党サザーンメキが率いている盗賊の数は二〇〇人にも上るという。
一方、アジトを襲撃するのは船坂とアイリーン、それにレムリルとシルビアの四人だ。
船坂はゲームチートのおかげで武器の扱いはかなり補正がかかっている。
だがはじめてAK-47ライフルを手にする三人は、そういうわけにはいかない。
「これが安全装置の場所だ。一段下すと連射モード、その下が単射モードに切り替わる。じゃあみんなにマガジンを配るから、装填してみようか」
船坂は防弾ベストに突っ込んでおいたAK-47用の三〇連装をそれぞれに配って、実際に装填するところからやってもらう。
そうして射撃姿勢をとってもらい、背後に回って手取り足取りレクチャーした。
当然、女性陣と密着する事になるので、童貞の船坂はドキドキした。
「いきなり立った状態で射つのは難しいだろうから、片膝をついてやってみようか」
「は、はいコウタロウさま。何だかドキドキしますっ」
俺もだよ。とはアイリーンに返事ができない船坂である。
「照準の付け方は、目標に対して先端の突起とここの溝が重なる様にやればいいよ。落ち着いて、あの案山子を狙ってごらん」
「わかりましたー、突起が溝に重なる様にすればいいんですね。突起が溝に、突起が溝に……」
レムリルの言葉に妙な想像をしてしまったとは口に出来ない船坂である。
「引き金に指をかけるのは、実際に射撃する時だけだ。誤射を防ぐために普段はトリガーから指を外す様に心がけてくれ」
「はにゃ、貴様っ。耳がこそばゆいではないか。吐息がかかっているぞっ?!」
わざとやってるんだよ言わせんな。と言えば船坂は誤射されるかも知れない。
こうして三人娘たちは船坂の号令で、里の外れに用意した三本の案山子めがけて射撃訓練を開始した。
タアン、タアンと小気味良い音が響いて、林の中にいた鳥たちが逃げ出すのが見える。
「すごい反動です! おっぱいがブルブルいってますよっ。どうしたらいいですかコウタロウさまー」
「うらやましい、わたしなんかピクリともしまんよレムリル?!」
はじめのうちは射撃のたびに驚いていたレムリルとアイリーンだったが、馴れてくると会話を途中で挟む余裕も出てくる。
船坂は近くによって構えをチェックしたりしながら、弾倉を一本射ちきるまで続けさせた。
しかし白銀の騎士シルビアは、案山子の周辺に銃弾をばら撒くばかりで一向に命中する気配がない。
「お、おいコウタロウ。どうしてわたしの弾だけ明後日の方向に飛んでいくんだ! この、からしにこふ、は不良品じゃないのか?!」
「そんなはずはないんだけどなあ、こっちの銃と交換してみるか?」
「貸せ。そっちの、からしにこふ、なら上手くいくはずだ!」
AK-47を交換してみたものの、やはり案山子には命中しなかった。
船坂が見たところ、距離にして五〇メートルぐらいだろうか。
「射撃姿勢を変えてみるか。伏せ撃ちの状態なら、もう少し狙いやすいかも知れないし」
「むむう、どうしてわたしばかり上手くいかないのだ。アイリーンお嬢さまばかりか、レムリルのくせに案山子に弾を当てているぞ……」
「落ち着いていこう。寝そべった状態でしっかり銃身がぶれない様に固定して。よし射て!」
バアンと乾いた音が草原に響いて、弾丸は案山子の手前に命中した。
「いいぞ。左右にズレていないという事は、そのまま少し修正すれば命中する」
「そうか次は命中するか?」
「よし待ってろ、俺が後ろから修正してやるから。狙いをつけるときは溝に突起を重ねる、いいな?」
「……わかった。っておい貴様! わたしのお尻の溝に、何か膨らんだ突起が重なっているぞ?!」
気のせいです。
騒いだ次の瞬間に飛び出した弾丸は、見事に案山子に命中した。
「やればできるじゃないか。さすがは白銀の騎士シルビアだ!」
「おいコウタロウ貴様今何をわたしのお尻に擦り付けていた。言え、言わないと後が酷いぞ!」
「じゃあみんな、マガジンを交換して射撃しながら案山子にむかって前進してみようか?」
船坂は長耳を真っ赤にしたエルフの女騎士を無視して、射撃練習の続きを指示した。
「うふふ。シルビアったらコウタロウさまに指導して頂いて弾が命中したのがよほどうれしいんですね」
「どうですかねー。コウタロウさまとお肌とお肌の触れ合いが出来たからかもしれませんよ?」
「違う、しょんなわけはない! これはわたしが頑張ったから弾が当たったのであって、コウタロウのおかげではにゃい!」
それからしばらく、伏せ撃ちや片膝立ちでの射撃、前進しながらの射撃を繰り返し行った。
素早くマガジン交換する事も体に馴染ませておく必要がある。
ひとり三〇〇発以上の射撃訓練をしたところで、お終いにフルオート射撃の反動も経験してもらい終了だ。
「いちおうハンドガンも分解増殖させて人数分用意したから、これも最後に射撃練習しておこうか」
しかし戦闘服は武器弾薬を用意する事はできたが、バラのまま弾倉を持ち運ぶのが不便だ。
一般的な兵士は一二〇発から一八〇発程度の弾薬を携帯するが、マガジンポーチの中に収めるのが普通だ。
そう思った船坂は、試しに防弾ベストを切り裂いて数を増やせないかと考えた。
「鎧みたいなものだから普通に真っ二つはできないからな……」
脱いで切れ目が入れられそうな場所を探し、マガジンポーチを切断する事にした。
ここなら合成繊維や金属でできているわけではないので、切断は簡単だ。
すると予想した通り、それぞれが個別に再生を開始したので二個に増えた。
この方法で人数分を用意して配布したのだが……
「……シルビア、それを甲冑の上から着用するのか?」
「何かおかしいか」
「おかしいと思うぞ。鎧の上に鎧を着ている様な状態だからな……」
とても嫌そうな顔をしたシルビアに、船坂は思ったことを口にした。
「シルビアも意地を張らずに、コウタロウさまと同じお召し物を身につけた方がいいですよ」
「これは騎士のしての誇りだから拒否しますお嬢さま!」
「でも、ひとりだけ甲冑を身に着けていると、隠密行動するのに不便じゃないですか」
「むぅ、ふにゅう……」
わかった切ればいいんだろ!
最終的に白銀の騎士は白旗を上げて、戦闘服(上)と防弾ベストを着用する事で落ち着いた。
即席の訓練とありあわせの装備かも知れないが、一応準備は整った。
捕虜にして洋館の納戸の中に放り込まれている盗賊を解放すれば、後はその後を付けてサザーンメキのアジトを見つけ出すだけである。
「それじゃみんな、ひとつ安全第一で行きましょう!」
これから奇襲に向かうのにこの号令もどうかと思いながら、船坂は三人娘を見回してそう叫んだ。
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