11 試射会を開催します

 あくる日の朝、船坂は太陽が山々が顔を出す頃には目を覚ましていた。


 普段は夜更かしばかりしているので、朝はギリギリまで布団にしがみついているのが習い性だった。

 けれど、やる事が特になければ早くに就寝するし、自然と目覚めも早くなるのだ。

 早朝一番に活動を開始したのはわけがある。


「昨夜はゆっくりとお休みになられましたでしょうか?」

「おはよーございます、コウタロウさま。今日もいいお天気になりましたねー」

「ああ、いい天気だね。久しぶりに朝までグッスリ寝られたよ。俺の家は線路の踏切前だから、いつも朝からうるさいんだ」


 アイリーンとレムリルが口々に挨拶と交わす。

 船坂の説明が何を言っているのかわからなかったらしく、ふたりは互いに顔を見合わせていた。

 一方の寝起きがあまりよくないらしいシルビアは、寝癖のついたボサボサ髪のままだ。


「まったく、こんな朝早くからわたしを叩き起こして。つまらん用事だったらタダじゃ済まさんからなっ!」

「そういう事を言うものではありませんよシルビア。コウタロウさまが盗賊たちを撃退するアイデアを披露して下さると仰るのですから」

「むぅ。おい変態、お嬢さまを味方に付けるとは卑怯者だぞっ」


 変態じゃねえ!


「今から俺が持っている武器の威力を三人に見てもらおうと思ってな」

「あのう。コウタロウさまがドラゴン討伐の際にお使いになられた、空に魔獣を召喚する術式でしょうか?」

「へぇコウタロウさまは凄いですねっ」

「貴様は魔法使いだったのか?!」

「いや違うから……」


 無線で呼び出したガンシップは、恐らく条件が揃わないと連絡が取れない仕様になっているのだろう。

 ゲームでもボーナスタイム的に使われているのを、船坂はネットのプレイ動画で見た事がある。


「ガンシップはオプションだから今は使えないと思う」

「なるほど、魔獣を召喚するのは時間がかかるというわけですねっ」


 アイリーンの反応はだいたい合っているが微妙に違っていた。

 それに対して妙に期待の眼差しを見せているレムリルと、明らかに期待していない顔のシルビアだ。

 さすがにガンシップを呼び出す事はできないが、俺が役に立つと証明してやろう。

 船坂はそう思って里の外れまでやって来ると、三人の娘たちに向き直った。


「ひと気も無いし、この辺でいいだろう」

「いったい何がはじまるんです?」

「まあ大惨事異世界大戦の予行演習、ってところかな」

「ふんっただの大惨事にならなければいいがな……」


 今に見てろよと心中思った船坂は、まずM-4カービンに弾薬を装填する。


「シルビア、あれとあれは何だ」

「ただの案山子だな、おおかた休耕中の畑に放逐されていたものだ。あちの小屋も今は使われていないものだ」

「ちょっと下がってろよ、今からあれを破壊する。耳を塞いでいた方がいいかもしれないぜ」

「わたしは仮にも騎士だぞ。恐れる事はない!」

「……お好きにどうぞ」


 堂々と胸を張るシルビアは、胸を張る事で爆裂巨乳を自己主張した。

 反対に黙って指示に従ったアイリーンとレムリルは、少し下がると耳を塞いだ。

 何とレムリルには、けもみみと人間耳が両方ある事が発覚した!


「じゃあまず単射モードで」


 タアン!

 引き金を絞ると乾いた銃声が飛び出した。

 狐耳のレムリルは驚いてしゃがみ込んだが、アイリーンは及び腰だがしっかり観察していた。

 シルビアはさすが恐れ知らずを豪語するだけ……


「ひゃわわ、何だ何事だ!?」


 白銀の騎士シルビアは腰を抜かしていた。


 タアン! タアン!

 続いて数発を立て続けに案山子に命中させる。

 仕上げのつもりでマガジンが空になるまで連射すると、もうすでに案山子はズタボロだった。


「おいやめろ。耳が、耳が痺れる。何だこれは魔法か? 魔法なのか?」


 白銀の騎士シルビアは腰を抜かした状態で右往左往していた。

 だが船坂は手を止めない。

 グレネードランチャーに弾薬を装填すると、今度は使われていない小屋に向かって景気よくそれを発射した。


 ポーンという間の抜けた音が周囲に響く。

 そのまま飛んでいったグレネード弾は小屋の中に吸い込まれ、間をおかず大爆発した。


「にゃにゃにゃ爆発した、大爆発したぁ!」


 武器のお披露目はこんなもんだろう。

 他にも船坂はレミントン狙撃銃のスコープを実際に見てもらったり、拳銃射撃で鎧を穴だらけにした。

 フィールドバッグの中には対人地雷のクレイモアもあったが、さすがにお披露目するのは問題なので、こちらは本番で使う事にする。


「き、貴様はいったい何者だ?!」

「コウタロウさまは女神様の守護聖人ですよシルビア」

「さすがコウタロウさまです、すごいです!」


 後はアイリーンの治めている領地の地図情報を確認する必要がある。

 洋館まで戻ってくると船坂たちはさっそく作戦会議をはじめた。


「俺の武器を使えば、ある程度の数ならば互角以上に戦えるはずだ」

「はい、れみんとん? という武器を使えば、弓の届く距離よりも遠くから相手を寄せ付けずに叩けますね」

「問題はこの村の里と集落は全部で七つ、どこに相手が姿を現すかだな……」


 実際に地図情報と集落の場所を照らし合わせて見て回り、襲われそうな箇所のチェックが必要だ。

 今日明日のうちに襲われる事は無いのなら、今のうちに事前準備だ。


「コウタロウさま、これらの女神様に祝福された武器は他にも無いのですか?」

「いやあ、さすがに俺が装備しているぶんだけしかないな。弾薬は使用しても自動回復するみたいなんだが、何でもチートというわけにはいかないよ」

「そうですか。わたしもこの武器の使い方を覚えれば、領主として立派にみなさんの前に立って戦う事ができるのですが……」


 落胆をしたアイリーンを船坂は慰めた。

 確かに銃火器の数をそろえられれば最強の軍隊が作れるんだけどなあ。

 ないものはしょうがないと諦める船坂だ。

 今度は対抗心を燃やしているシルビアを見やると、


「わっわたしは決して役立たずではないぞッ。あのぐらいの事でわたしに勝ったと思うなよ!」

「いやこれ勝負事とかじゃないから」

「わたしだって鎧のひとつやふたつぐらいは、一刀両断にしてみせる。そこで見ていろコウタロウっ」


 悔しそうにしていた白銀の騎士は、自慢の長剣を引き抜いた。

 すると洋館の庭に飛び出して行って古い甲冑を相手にバッサリと斬り伏せてみせる。


 ズバンガシャン。

 アイリーンやレムリルは、シルビアの剣技は凄いと言っていたけれど確かにその通りだ。

 古びた甲冑はぱっくりと斬れめも鋭利に寸断されていた。


「ハァハァ、どうだこれがわたしの実力だ!」

「す、すげえぇ!」

「いいか、お嬢さまをお守りするのはこの白銀の騎士シルビアだ!」


 いざ近接戦闘となれば威力を発揮しそうだ。

 恐らく船坂が拳銃を引き抜く前に、体を真っ二つに出来るスキルである。

 くっ殺せと口走る女騎士とは違ったらしい。


「シルビア、あんたの実力はよくわかった」

「貴様にもわたしの凄さが伝わったか。あっはっは」

「話のついでにちょっと相談だ。盗賊の下見連中が来たら、情報を吐かせるために捕虜が欲しい」

「今日のところはこのぐらいで引き分けにして……にゃ、にゃに?」

「残りは可能な限り俺がレミントンで掃除をするから、うまく捕まえる事は出来るか?」


 船坂が身を乗り出してそう提案をしたところ。

 シルビアは急に長耳を赤くしてこう言った。


「……か、顔の距離が近いぞ馬鹿者っ」

「あんたの剣は頼りに出来そうだ。ひとりでいいからな、ぜひ頼む!」

「わたしの剣にかかれば捕虜でも恋人でも捕まえてやるっ」

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