※ ビニ本秘話——ノスタルジック都市伝説

「ビニ本」って、まだ売ってるのね———。


 久しぶりに、街の本屋さんを覗いてみた。昔ながらの小さな本屋さんだ。

 昨今では、「出版不況」とか「紙不況」とか言われてるけど、この本屋さんも例外なく閑古鳥が鳴いていた。


 しかし、懐かしい紙の本の匂いは健在だった。

 昔は、少ない小遣いを握ってよく本屋に通ったものだ。なんなんでしょうね、あのワクワク感っていうか、宝探し的な高揚感みたいなん。10時開店のパチンコ屋さんに並んで、軍艦マーチに誘われて、イザっ!!って感じに似てる(純粋に本屋さんを愛する御仁には失礼した、スマンこって)


 で、———————


 別に、軍艦マーチに誘われてチンジャラ♫チンジャラ♫と——っていう闊歩感で一番奥の怪しいコーナーに突進したわけじゃないんですけどね。

 ほれ、これまたちっちゃな街のビデオ屋さんの「アダルト」コーナーに、こっそり辺りの人気ひとけを伺いつつ突入する、みたいな、あの感じですか。


 ビニールでラップされた、怪しい本———、そそ、これが「ビニ本」。


 まっ、ずっと前からコミックなんかも「ビニ本」仕様になってて、それはあくまでも”立ち読み防止“っていう側面があるんだけど、こっちの(どっちの?)「ビニ本」はそういう側面プラス、「怪しさ」演出がある(気が、する)


 表紙一面の「艶かしい女性の裸体」が我らを(ほか誰?)誘ってる。


 そう——、あの、のビニールに完全防備されそれ以上の侵入を許さない!的に不敵に笑う(笑ってないけど)「ビニ本」だ!!


 まだ、あるんや、こんなん——。


 とか、ちょっと斜め目線で見る小生。

 けど、その、「怪しさ」には昭和のノスタルジックがぎゅっ、っと詰め込まれていて、見るものの心をワシ掴みにして離さない!——とか、即興のレビューすら浮かんできて、左右聞き見て、手に取る(取るんかよ)


 で、小生も中学、高校の頃は、大いにこの「ビニ本」の前身である「エロ本」のお世話になったもんだ。

 今の世の中、ちょいとクリ、クリックすりゃ「エロビデオ」サイトに行き着けて、生身の女性が動き、ナマのアヘアヘ声が聞けて、カテゴリ山積みな中からチョイスできちゃう時代になっちゃったもんだか、この「ビニ本」の息の根は完全に止められた、って思ってたんですよ。


 それが豈図あにはからんや!!


 ちゃ——んと、生きながらえているではないか!!


 で、色々、小生は考察してみたんですよ、なんでやろ?………と。



 それを語るには、高校の頃に流行った、裏技「マヨネーズの秘技」を語らねばなるまい(なにを、仰々しく言ってるのやら)


 当時のエロ本の場合、当たり前だけど裸体の女性の局部は「黒塗り」(マジックで消した的な)されていて、本場、米国の「PLAYBOY」みたいな、すっぽんぽん、じゃない。


 人間、否、オトコって、隠されると、見たくなる———生き物でござる


 で、日本全国の猛者たちは、なんとかこの「黒塗り」のマジックを消す方法はないかと日夜、シコシコ、試行錯誤を繰り返して、ついに発見した!!、ってことで、これまた、「怪しい週刊誌」にこっそり投稿するわけです。


 ——ふふ、コレ、で俺は消したぜよ


 見事、消えたよ、、、これ裏技だな。教えて欲しいか?


 的な———、投稿で溢れていた。都市伝説化してたね、まじで……。


 結論から言うと、全部、だった。


 そのうちの、一つが、「マヨネーズ」で消える、って「裏技」だった。これを学校でなんとか聞き出して(もったいぶる悪友)、かっ飛びで家に帰り冷蔵庫からマヨネーズを拝借して自室に,Go—————Go,Goーッ


 達人っぽく、その使用分量まで教えてくれた悪友に「おおきに!」と一言ごちてから、すわっ!


 まず5gほどを、丁寧に塗り込み——

 最初はゆっくり擦り——

 途中から、激しく——


 そして、ひたすら「念」を込める 消えろ、消えろ 消えろ!! と——


 小生は、悪友の手解き通り、一つの過失もなく実行した。


 そして、擦り倒すこと、10分、消えた!!、消えたぞ!! 真っ黒なマジックが————————————————!!!


 消えたのだ!!


 消しゴムの消しカスみたいな、ぐにょぐにょの、カスを取り払うと、現れたのは、次頁の………


 消えるわけないがな、アホくさ———————。



 と、ぽっかり空いた穴に、自分のアホさを見た思いで、ベッドに投げつけたのを遠い記憶のかなたで、思い出した

 


 ってことで、オチなんだけど。

 やっぱね——


「見えそうで、見えない——」

「隠されたら、邪魔なそれを、取り除きたい——」


 そういう、エロの原点っていうか、ロマンっていうか———、そういう世界って、きっとこれからもニッチに生き延びるだろうなーと、ストンと腑に落ちて、ゆっくり頷き私は閑古鳥の鳴く書店を後にした———

                      (的な〜〜理由です)


 帰り道、想った——。

 あの本屋の主人ったら、入り口近くのレジで欠伸ひとつしては、居眠り寸前。

 大都会の本屋みたく、鮮やかな色のマーカーで色どられたキャッチやレビューの紙もなければ、気の利いた手作り「▲×コーナー」もない。


 そりゃそうだな、あの閑古鳥っぷりだもんな。


 いまさら、そんな営業努力したってね、紙の本なんか売れやしないよ——。

 そんな主人の諦め声が聞えてきた。


 『Tsutaya Cafe 』もいいけど——。

こんな小さな街の本屋さんが、一軒、二軒と消えていくのは、ダムの底に沈む過疎の村を見送る想いに近く切ない。

 かく言う、自分は、ネットで本を読み、ネットで本の配達を頼み、ネットに自身の駄作をUpしては悦に入ってる——、そんな男にあの主人を憐れむ資格などはない。


 活字が好きで、インクの匂いが好き——。


 贖罪のつもりじゃないけど………

 踵を返し、件の本屋で「文庫本」一冊を、しこたま時間をかけて選んで買って帰った。

 気のせいか、埃っぽい匂いがしたけれど。

 


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