※ 大阪人は全員、虎キチ——ちゃうッ。

 大阪と、言えば、「阪神タイガース」———。


 あながち間違いではない。

 大阪人ですら忘れてしまう頃に優勝してしまう、我らが「阪神タイガース」。


 熱狂的な阪神ファンを大阪では「虎キチ」という。

「虎キチ」はあの聖地「甲子園」で試合のある日は、せっせと出かけていっては熱狂的に応援して帰ってくる。


 勝った日は——盛大に「六甲おろし」の合唱


 負けた日は——盛大な「ヤジおろし」で鬱憤晴らし———、これがお決まり。


※ ちなみに「阪神タイガース」球団の親会社である「阪神電鉄」は,この「虎キチ」たるお客さんを逃すと倒産する、っていう「都市伝説」がある。そりゃそうでしょ、平日にも関わらず、何万人と甲子園に訪れてくれるんだから——勝とうが、負けようが。ほんと阪神ファンって、「神」だわ。


 さて、大阪で「阪神ファン」ちゃう、って言うたら、そりゃもう肩身が狭い想いをするのは間違いない。

 かく言う、私も、れっきとした「阪神ファン」だったのだ。


 死んだ、親父が熱狂的な虎キチだったせいで、私も小学校六年の秋までは虎キチに育て上げられたんです。


 今の小学生坊主は「野球帽」なんて被るんだろうか

 昔は、野球帽と言えば、大阪に限って言えば、「巨人」と「阪神」の二種類しか売ってなかった。(後に、近鉄バッファローズも売られるようにはなったが)


 で———、


私も、例の縦縞タテジマの野球帽を小学校一年の時から親父に配給よろしく買い与えられ、なんの疑いもなく被ってスクスクと、虎キチに育てあげられた、ってわけです。


 そんな私が、物心っていうか、「なんでやねん?」——、とかいう疑問を抱ける歳になった小学校六年の秋、私は、で阪神ファンを辞めました。


 その年の秋、早々に我らが「阪神タイガース」は最下位に沈んだ——。


 そう、それが、だ。


 ちゅーかね、もうね、なんぼ応援したって一緒やん……。


 私は、どうやらその頃に迎合主義というか、寄らば大樹の、っていうか、強いもんには、巻かれようよ——、みたいな事無かれ的小学生であることに覚醒しちゃったようで、ある晩秋の日、親父に宣告してやったんですよ


 ——おれ、阪神ファン、やめるし


 親父は、寡黙な男だったので、何も言わずただ微かに唇を震わせて苦笑いを寄越したのだけは遠い記憶の中で覚えている。


そう、転びキリシタンよろしく、 が、今の私の正体である。


言わずもがな、「読売ジャイアンツ」のファンである。見事な転びっぷりだったと自分で思う。お陰様で、それ以降はを迎えなくて済むようになったのだから。


 キリシタンが、「踏み絵」を踏むように、私はを捨てたのだ。


 


で——、俺は、巨人ファンだ!!、って堂々と言えません、大阪でわ。


 社会人になった私は、東京出張のたびに、「東京ドーム」に立ち寄ったことは内緒で、ましてや阿部のユニホームまで買って応援してるなんて、口が裂けても言えませんよ、大阪じゃ————。



 そんなこんなで、【大阪人の矜持】もクソッタレもない私を許してたもれ……

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