きぬルート14話 彼女と始まる学園生活

「ううん……」

朝……だな。時間……こんな時間まで寝てたのか。いつもならありえねえよな。これからはそれが当たり前になっていくんだ。明日からはもう少し早く起きるようにしないと。


「ふぁぎはふぉっけーっと」

玄関の鍵を閉め、時間がないから、適当に食パンを咥えて学園へ向かう。紗智はもう着いてるのかな。途中で三原と合流して、教室にいるかもな。俺が着く頃にはきぬが校門で待ってるはずだ。時間が遅くなるのはあれだけど、朝からきぬの顔が見えるのは嬉しいな。てわけで急がず、ゆっくりすぎずに今のペースで登校しよう。


「おはよう、誠君」

「おはよう、きぬ」

予測通り、きぬはすでに校門に立ち、登校してくる生徒に挨拶をしていた。

「誠君、昨日は……大丈夫だったか?」

「昨日って……」

「紗智さんのことだ。私は今日、まだ彼女と顔を合わせてないから、心配でな」

「そのことは昼休みにしよう。ここだと他の生徒の目につくしさ。御守桜とかどう?」

「わかった。では、昼休み待っている」

「じゃあ、またあとで」


「あ、鷲宮さん……」

「――っ!」

教室に着く、やはりすでに紗智と三原は席に着いていた。紗智は俺の顔を見るなり、少しだけ顔を背ける。

「……おはよ」

「おはようございます……」

「…………」

はあ、やっぱり昨日の今日じゃすぐには無理か。突然、話したのはやっぱりまずかったかな。後ろからの視線が怖いけど、座って慣れるしかない。

「よっこいしょいち」

俺が席に着いたときだった、後ろから気配が寄ってきたと思ったら――

「隙アリ!」

「ぶげっ!」

な、なんだ?! いきなり後頭部に衝撃が――

「って、なにすんだよ、紗智!?」

「へっへっへ、朝のこんな時間に登校してくるなんて、あたしがいないとこの程度なのだ」

「はあ?」

「しかも、後ろから丸めた教科書で叩かれるぐらい隙があるなんて、誠ちゃんも落ちぶれたものだねー」

「ぐっ、こっちは寝起きなんだから仕方ねえだろ」

「あははは、これからもどんどん隙を狙っていくからねー」

「勘弁してくれよ……」

「ふふ、大変ですね、鷲宮さん」

「三原も止めてくれよ~」

「さあ、どうしましょ?」

「三原~……」

「おっと! もう1つ隙アリだー!」

「だから、やめろって!」

全く……無理してんのまるわかりだっての。目の下、真っ赤にしてこんなことするなよな。紗智なりにわだかまりを捨てようとしてるんだろう。俺も負けてられないな。


やっと昼休みだ。御守桜に行かないと。


「待たせてごめんな」

御守桜には、すでにきぬが待っていた。

「私も今、来たばかりだ」

「紗智のことなんだけど……」

「うん……」

「ちゃんと言ったよ、俺ときぬが付き合ってること」

「私がこんなこと言うのはおこがましいことではあるが、大丈夫だったか?」

「なんとか大丈夫そうだ。まだ吹っ切れてはないだろうけど、紗智も努力してるみたいだ」

「そうか。それが心配でならなかった」

「紗智に言われたよ、きぬを一生大事に出来るかって」

「…………」

「俺、ちゃんと言ったから、きぬを一生大事にするって」

「誠君……」

「俺はきぬのこと、絶対大切にする。信じてくれるか?」

「もちろんだ」

「ありがとう」

「だが、少し心苦しくもある」

「なんでだ?」

「私は紗智さんの気持ちに気付いていた。それにも関わらず、君の想いを受け止めてしまった。紗智さんの感情より、自分の感情を優先してしまったのだ。そんな浅ましい自分を卑しく思うのだ」

「そんなことない」

「…………」

「俺は嬉しかった。好きな女の子と結ばれて、一緒にいれて。それにきぬから想いを伝えたわけじゃないんだ。きぬは悪くないよ」

「だが――」

「そんなふうに言われたら、俺……」

きぬが俺を優しく抱きしめてくれる。

「すまない、誠君。君を不安にさせてしまった。嬉しくも君が私を選んでくれたことを素直に喜ぶことにするよ。罪悪感が消えることはないが、それ以上に君を愛そう」

「ありがとう、きぬ……」

「誠君……んっ……」

俺たちは軽く口づけを交わす。

「今日からは一緒に帰らないか?」

「しかし、私は大抵帰りが遅い。先に帰ったほうが――」

「俺はきぬと一緒に帰りたいんだ。時間なんてどうでもいいよ。なにかやることがあるなら、手伝うし。そのほうが早く帰れるだろ?」

「いいのか?」

「当たり前だ」

「ありがとう。では、放課後に学園祭の準備をした、あの教室に来てくれ。私はいつもそこにいる」

「わかった。終礼が終わったら、すぐに行く」

「待ってるよ」

「どうせなら、昼食も一緒にしないか?」

「私もそれが良いと思っていた」

「なら、そのときはここがいい」

「ここでか? 私は好きだからいいが、毎日ここまで通うのは辛くないか?」

「平気だって。俺もここが好きだし、さらに好きなきぬも一緒にいるんだからさ」

「ありがとう、誠君」

「決まりだ。今日は無理だから、明日からだ」

「楽しみにしているよ。では、そろそろ戻ろう」

「ああ」


御守桜から校舎まで2人で来てから、それぞれの教室へ向かうために俺たちは分かれる。

「では、また放課後に」

「またな」

毎日、御守桜に通うのはきぬの言う通り、ちときついけど少しでも一緒にいれるのなら大した苦じゃねえな。

「じーーーー」

そんなことを考えていると、仲野が声を発しながら背後に立っていた。

「うわっ! ビックリした! いきなり後ろに立つなよ!」

「うしろに立つ少女、っていうのはどうですか?」

「どうですかってなんだよ。なんか用か?」

「きぬさんにタメ口とは先輩もやりますね。どのように服従を?」

「あのな、そういうんじゃねえっての」

「筒六、話がややこしくなるから」

「はーい」

「鈴下もいたのか」

「たまたま通りかかったら、あんたときぬがいたのよ」

「そうか」

「恋人になったきぬさんは可愛いですか?」

なんて単刀直入なんだ。

「ぶほっ! げほっげほっ! 突然、なんてこと聞くんだ!?」

「きぬさんも恋人関係になると、少しは態度違うのか気になっただけです」

「筒六、からかうのもその辺にしときなさい」

「これからがいいとこなのに」

「じゃあ、わたしたち行くから。お幸せに~」

「あ、鈴下!」

「なに?」

「俺、紗智にちゃんと言ったから」

「あっそ」

「では、さよなら」

なんだよ、鈴下のやつ。あそこまで興味なさげにすることもねえだろうにさ。

「ま、いっか」

俺にとって1番大事なのはきぬなんだから。


「帰ろ、麻衣ちゃん」

放課後、紗智は下校のため、三原に声をかける。

「はい。鷲宮さんは?」

「俺、後から帰るわ」

「邪魔しちゃダメだよ、麻衣ちゃん。誠ちゃんにはもう恋人がいるんだから」

「あ、すみません……」

「というわけだから、さっさと恋人作った裏切り者の誠ちゃんは放っておいて早く帰ろう」

「裏切り者ってなあ」

「ばいばーい、誠ちゃん」

「さようなら」

「また明日な」

さて、きぬのとこに行きますか。


「おじゃましまーす」

「待っていたよ、誠君。適当に掛けてくれ」

「はーい」

きぬは机に置かれた書類に向かって、ひたすらペンを走らせていた。

「暇であれば、教室内を観察してもらっても構わないよ」

「そうしようかな」

一度、座りかけた椅子から離れ、ブラブラ立ち歩く。あまりめぼしいものはないんだけど。おっ、この猫耳カチューシャまだあったんだ。結局これ、学園祭で使ったのかな。うーん、他に面白そうなものもないし、座って待っておくか。

「…………」

きぬも集中してるみたいだし、邪魔しちゃ悪い。黙って待っておこう。

「ふあ……」

退屈だと急激に眠気が……。

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