鈴ルート24話 前を見つめ

「ねえ……」

「どうした?」

風呂から上がった俺たちは、服を着替え、2人で同じ布団に入り、向き合う。

「今日、一緒にいてもいい?」

「いいぞ」

「ありがと」

俺も一緒にいたかったから、断る理由などない。

「なあ、鈴?」

「なに?」

「聞いてなかったから聞くけど、なんで家出なんかしたんだ?」

「……怒られたから」

「鈴太郎さんに? なんで?」

「前、ここに泊まったときがあったでしょ?」

「あったな」

「翌朝帰ったら、あいつが家にいたの。てっきり、仕事に行ってると思ってたから油断してた」

「休みだったのか?」

「ううん、わたしが帰ってこないからって、会社に遅刻届けを出したみたい」

そこまでして鈴のこと、心配だったんだな。

「家で鉢合わせになって、怒られて……」

「だから、あの日登校してくるのが遅かったんだな」

「うん……。帰ってこないのなら、せめて連絡はしろって言われて」

正論っちゃ正論だが、そのときの鈴には不可能だろう。

「でも、鈴太郎さんがそう言った意味、今なら理解出来るよな?」

「……うん」

「偉いぞ、鈴」

「えへへ……」

褒めながら頭を撫でると、俺の体にもっと寄り添ってきた。

「なあ、鈴?」

「なに、誠?」

「鈴太郎さんと仲直り、する気ないか?」

「…………」

「俺、このままは嫌なんだ。俺にとっては鈴が1番大切だ。だから、その大切な人がずっと苦しんでいる姿を見たくないんだ」

「…………」

「今までのことをすぐに水に流せるわけじゃないのはわかる。それがあるから、会いづらいっていうのも。でも、鈴だって本当は――」

「大丈夫よ、誠」

「鈴?」

「わたしだって、今のままじゃいけないのはずっと思ってた。踏み出す勇気がなかったから、わたしは……」

「…………」

「……でも、大丈夫」

「鈴……」

「わたし、あの人と話したい」

「鈴……!」

「ずっと逃げてたけど、もうやめる。いつまでもダダをこねる子供のままなのはおしまい」

鈴はどこか勇敢な表情で決意を固める。

「でも……」

「ん?」

「わたし、まだ1人じゃ――」

「……大丈夫だ」

鈴の手をそっと握る。その手は温かく……震えていた。

「俺が付いてる」

「……うん」

「鈴は1人じゃない」

「……うん」

「だから、今は安心して眠れ」

「……うん」

何事からも逃げていた鈴がやっと前を向き始めた。今の鈴なら鈴太郎さんの言うことから逃げないはずだ。俺は鈴を信じる。

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