鈴ルート23話 温もりを求めて
鈴が軽く身震いした。このままじゃ、マジで風邪引くな。
「小雨になった今がチャンスだ。家に戻って、暖まろう」
「うう……そうしたい」
「いくぞ、走れるか?」
「うん……でも、手握ってて?」
「当たり前だろ」
鈴の冷え切った手を握り締め、自宅を目指した。
雨の勢いが増すことはなく、無事に玄関前へたどり着く。
「小雨が続いてくれてよかった。鈴、大丈夫か?」
「うん、平気。誠の手……暖かかったから」
「それはよかった。今、鍵開けるから」
「ううっ……」
「あれ?」
「どうしたの?」
「いや……」
鍵を開けるつもりが逆に閉まってしまった。あ、そうか。鈴太郎さんを置いて出て行ったから、開けっ放しで出て行ったんだ。なにも考えず、出て行ったのは俺だから鈴太郎さんを責めるわけにはいかないな。俺は自分で閉めた鍵を開く。
「よし、もう入れるぞ」
「あの……誠……」
「どうした?」
「その……あいつは……」
「心配しなくていい。一足先に自宅へ帰ってる」
「そう……」
誤解が解けたとは言え、すぐに会えるってわけでもないだろうな。
ひとまず、電気の消えた薄暗いリビングに入る。
「寒いな……」
まだ夕方だっていうのに、雨雲が空を覆っているせいで、外の明るさは夜に近かった。
「さむい……」
「待ってろ、タオル持ってくるから」
「ん……」
取りに行こうとした俺の袖を引っ張り、制止する。
「どうした?」
「さむい……」
「だから、タオルを――」
「あたたまりたい……」
「それ、どういう……」
「お風呂……入りたい」
「そっか。なら先に――」
「んん……」
袖を掴んでいた手を一旦離し、俺の腕を鈴は両腕で抱擁してくる。
「一緒……」
「……わかった」
空いているもう一方の手で、鈴の頭を撫でる。
「へへ……」
一緒にお風呂に入りたいと言った鈴だったが、脱衣は別々がいいらしく、俺が先に服を脱いで、風呂場で鈴を待った。
「は、入るわよ……?」
「あ、ああ」
全裸になった鈴が恥ずかしがりながら、モジモジした様子で入室してくる。
「あんまり見ないでよ……」
「わ、悪い! えっと、もう浴槽のお湯貯まりそうだから、先に入れよ」
「んん……」
鈴はスッと、俺に寄り添ってくる。
「一緒……」
「一緒って――」
お世辞にも、うちの浴槽は広くない。子供ならいざ知らず、俺たちが2人で入るってなったら――
「いい」
「え?」
俺が悩んでいる姿を見て、察した鈴はその意図を汲む。
「わたしたち……恋人だから……」
「鈴……」
「さむいから、早く……」
「わかった」
これ以上、躊躇するのは野暮だと思い、俺が先に浴槽に入る。
「ほら、来いよ?」
「うん」
仰向けになっている俺の上へ乗るように、鈴も仰向けで浴槽に入る。素肌で密着しているのと、お湯の温度もあって、すごく暖かい。
「…………」
「はは……なんか少し恥ずかしいな」
しかし、2人で浴槽に入るにはこうするしかない。
「嫌……?」
「そんなことない。逆に嬉しくはあるけど……鈴はどうなんだ?」
「……あたたかい」
「だな」
お湯に浸かってるからってのもあるんだろうけど、裸で密着してると体だけじゃなくて、精神的にも温かくなってくる気がする。この体勢だと鈴の顔が見えないのが残念ではあるが……。
「…………」
しかし、これだけ密着してるとまずいが、お風呂から上がるまでなんとか我慢するしかない。
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