麻衣ルート9話 罪深き無防備

俺と麻衣と紗智との夕食を終え、紗智は空気を読んで、さっさと帰っていた。その後すぐに麻衣は風呂へ入っていき、俺は自室で待機している。なんだか、やらしい関係のようだ。

「ただいま戻りました」

「おかえり」

「お風呂ありがとうございました」

「おう」

「それにしても、紗智さんのお料理は本当に美味しいです」

「それだけが取り柄みたいなもんだからな」

「もう、そんなこと言ってるとまた紗智さんに怒られますよ」

「本人はもういないから大丈夫だって」

「ダメです」

「はいはい」

「……なんだか新鮮な気分です」

「なにが?」

「こうやって、誰かのお家に泊まったことがないので」

「ああ、そのことか」

「ありがとうございます、誠さん」

「気にすんなって。麻衣と一緒にいれるなら、拒否する理由はないよ。さて、まだ寝るには早いし、なにかするか?」

「そうですね……あ、そうだ」

「なんだ?」

「今のうちに今日の宿題を終わらせてしまいましょう。早めに片付けておけば、憂うことなく週末を過ごせます」

「お、おう。そうだな」

なにかするってそういうことじゃなかったんだけど……ま、いっか。麻衣の言う通り、先に片付ければ後が楽だしな。

「じゃ、用意しよ」

「はい」

お互いのカバンから、今日出た宿題のプリント数枚を取り出し、広げる。週末の宿題ともなると量がいつもより多い。1人でするときはこの時点で気持ちが萎えてしまう。

「まずは数学からしよ」

「わからない箇所がありましたら、いつでも聞いてくださいね?」

「よろしく頼むわ」

早速、宿題に取り掛かる俺と麻衣。いつもは集中出来ないこの時間も、麻衣と一緒にしてるってだけでやる気が湧くな。今度から、この方法でやりたいな。

「…………」

横目で麻衣を見ると、非常に真剣な表情で取り組んでいる。すごい集中力だな。

「…………」

そのまま視線を下ろすとそこには大きな丘が2つ。

「…………」

うーむ、一度気になり始めたら、そっちに集中がいってしまう。

「…………」

しかし、こんなに集中してるのに邪魔はしたくないな。

「……あ、ふぅ……」

麻衣の頭が若干、揺れ始める。

「麻衣?」

「え、あ……ごめんなさい」

「眠いのか?」

「……すみません、私、夜は早いので」

「今日はこのへんにして、もう寝るか」

「はい、すみません。私から言い出したのに」

「いいって。……同じ布団だけど、いいか?」

「はい、誠さんがよければ……」

「うん」

いそいそと同じ布団に入る、俺と麻衣。

「じゃ、おやすみ」

「おやすみなさい……」

うーむ、恋人と一緒の布団で寝るっていうのはこんなにもドキドキするものなのか。

「すうー……すうー……」

「……ん?」

「すうー……すうー……」

「あの……麻衣さん?」

「すうー……すうー……」

「…………」

ね、寝てる!? え、ま、マジで寝てる! 夜は早いって言っても、ドキドキとかしないのか!

「すうー……すうー……」

よく眠ってるな。寝つきが良いというか、肝が据わってるというか、さすがとしか言いようがない。

「…………」

「すうー……すうー……」

こっちは心臓バクバクだぞ。こんな豊満なボデーを目の前に安眠できるわけないっての!

「すうー……すうー……」

「寝付けん……」

「んっ……」

隣で寝ていた麻衣は寝返りをうち、俺の腕に抱きつくような形になった。

「誠さん……」

寝言か。

「大好きです……」

「…………」

自分がやましい気持ちになっていたことを悔い、麻衣の寝顔をのぞき込む。

「すう……すう……」

我が恋人ながら非常にかわよい顔をしておる。純粋無垢が良く似合う。俺は無意識のうちに麻衣の前髪をサラリと横へ流していた。

「ん……んー?」

「あれ?」

「せ、い……さん?」

「お、起きた?」

「ん……あ、はい」

あんなに寝静まっていたのに、敏感なのかな。

「悪いな、起こしちまって」

「誠さんは起きていたんですか?」

「うーん、なんか落ち着かなくてな」

「すみません、私のせいですよね?」

「いやいや、麻衣が悪いわけじゃないよ。それにしても、麻衣は寝つきが良いんだな?」

「えっと……気持ち良かったので……」

「なにが?」

「誠さんの匂いと温かさに包まれていたら、気持ち良くなってしまって」

「麻衣……!」

「せいさ、んんっ!」

隣に寄り添っている麻衣の唇を無意識に奪っていた。あまりの可愛さに衝動を抑えられなかった。

「んっはあぁ……ビックリしました」

「ごめん、可愛くて」

「は、恥ずかしいですよ……」

麻衣は俺から顔を逸らすも、すぐに見上げてきた。

「でも、嬉しいです……」

俺は麻衣の頭を撫でながら、1つの気がかりを口にする。

「なあ、麻衣?」

「はい?」

「どうして今日、急に泊まりに来るなんて言い出したんだ?」

「…………」

「というより、着替え持ってきてたってことは今朝からそのつもりだったんだろ?」

「…………」

「なにかあったのか?」

「……いえ」

「本当か?」

「……少し不安になったんです」

「不安?」

「誠さんと……離れてしまう気がして」

「なんだそれ」

「それで誠さんの傍にいたかったのです」

「なんでそんなことを――」

「誠さん」

「ん?」

「私は誠さんのことを本当に愛しています。私にとって、あなた以上の男性はいないと心から思っています」

「…………」

「誠さんは私のこと……どうお思いですか?」

「俺だって、麻衣と同じだよ。俺も麻衣のこと好きだし、他の人なんて考えられない。麻衣で良かったって、本当に思ってるよ」

「誠さんにそんな言葉をかけてもらえて、私嬉しいです。でも、その……」

「ん?」

「こ、言葉だけじゃなくて、えっと……」

「ああ、わかった」

「あ……ん、ちゅっ……」

「まだ足りないか?」

「……もう1回だけ」

「好きだぞ、麻衣」

「私も好きです、誠さん。んん、ちゅむっ……」

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