紗智ルート11話 果たした約束、伝わる気持ち
「ここなの……?」
「ああ」
俺は紗智を連れ、自宅に戻り、自室へと入った。周囲の目を気にせず、尚且つ2人っきりになれる空間。適度に広くない場所といったら、ここが1番最適だと思う。
「話って、なに?」
「あ、ああ」
勢いでここまで来たのはいいけど、心臓の鼓動は速さを増すばかりだ。落ち着け。俺が今、思っていること、感じていること、言わなければいけないこと、それを正確に伝えるんだ。覚悟は決めた、決心もした、時も来た。それでも、言葉にして伝えることがこんなにも難しいことだなんて。言うべきことはわかっているのに、声が出ない。喉に餅でもつまらせたかのように、呼吸すら危うい。早く言わなければという気持ちがまた障害になっていく。時間の感覚すらわからなくなっていく。
「あ、あ、あの、俺……」
「…………」
こんなんじゃダメだ。声震えてるじゃねえか。これで伝えられても、紗智の不安が消えるわけない。どうすればこの状態を抑えられる。どうすれば――
『気をしっかりもて。心と体の震えは深呼吸をしろ。そして、目を真っ直ぐに見据えるんだ。さすれば、自ずと答えにたどり着く』
「!?」
頭の中で会長の言葉が思い出される。
そうだ。真っ直ぐに紗智への気持ちを伝える。これだけは唯一絶対の意志なんだ。
「はあ……ふう……」
自然と心臓の鼓動が落ち着きを取り戻していく。
「紗智」
紗智の顔を見つめ、呼びかける。
「なに?」
今なら言える。大丈夫。だって、俺は紗智のことが――
「すまない、紗智」
「なんで謝るの?」
「俺、紗智の言う通り、今まで身勝手に紗智を振り回して、文句言って、それでも俺のことを思っていた紗智の気持ちまで踏みにじってしまった」
「…………」
「紗智が苦労してるのなんてお構いなしに、俺はわがまま言って、それでも紗智は俺に尽くしてくれた。紗智がいなくなって、初めて気づいたんだ。俺は紗智にどれだけ助けられてきたのかってことを。紗智がそうまでしてくれていたのに、俺は紗智の気持ちなんて一つも考えずに接してきた」
「…………」
「学園祭のときも紗智は俺と楽しもうと色々してくれてたのに、それすら気づかないで、俺は紗智の嫌がることまでしてしまった」
「誠ちゃん……」
「だから、ごめん」
「…………」
「こんなことを言うと、また自己満足だって思われるかもしれない。でも……それでも、俺は紗智と仲直りがしたい。また前みたいに一緒に過ごしたい」
「……ダメだよ、そんなの」
「…………」
「やっぱり、誠ちゃんは……」
ああ、わかってるさ。
紗智が1番欲しかったもの。紗智が1番欲しかった言葉。
こんなことじゃないんだ。だって、俺も紗智と同じ気持ちなんだ。今なら紗智の言動や行動の意味が理解できる。だから、俺が取るべき行動、言うべき言葉は――
「紗智――」
「!?」
俺は紗智の頭に手を置き、そのまま撫でる。
「誠……ちゃん……?」
「ごめんな、紗智。俺が軽い気持ちで言ったばっかりに、お前をこんなになるまで傷つけてしまって」
「誠ちゃん……」
紗智の目が潤み始めていることに俺は気づいた。その涙が全てを物語っている。紗智が俺の言葉をどれだけ本気にしていたか。この罪悪感は受けるべきものだ。
「ずっと待ってたのに、気づいてやれないでごめんな」
「誠ちゃん……うう、誠ちゃん……」
「俺、紗智のこといっぱい傷つけた。紗智にいっぱい甘えてしまった。でも、もうそんなことはさせないし、したくないんだ」
「誠ちゃん、それって――」
「紗智」
俺は紗智の頭に置いていた手を、紗智の手の甲まで移動させる。
「誠ちゃん……?」
「好きだ、紗智」
「――っ!?」
「俺、紗智のこと好きだ」
「せ、誠ちゃん……」
「紗智が俺から離れて、気づいたんだ。俺には紗智がいないとなにも出来ない。紗智がいないと面白いことなんて、なにもない」
「誠ちゃん……誠ちゃん……」
「だから、これからもずっと俺と一緒にいてほしい。幼馴染としてじゃなく、恋人として」
「うわああーん! 誠ちゃーん!」
「うわっと!」
紗智は俺の胸元に勢いよく抱きついた。
「誠ちゃん……あたし、あたし……う、ううう」
紗智は決して強くない力で――しかし、ぎゅっと力強く俺を抱きしめている。その紗智を俺も抱きしめ返す。今まで紗智が抱きついてきたことはあったが、正面から――そして俺からこうやって抱きしめるのは初めてだ。ずっと一緒にいて、初めて得る感触。それはとても気持ちよく、か細く、温かで柔らかく、ただ抱きしめているだけなのに、感じたことがないほどの安心感を得られる。
「もう紗智に苦労はさせたくない。紗智の気持ち、裏切るようなことしたくない。でも、もしまた俺がなにかしてしまったときは――そのときはいくらでも怒ってくれ。いつも紗智のことバカにしてきたけど、俺のほうがバカだったんだ」
「うん……うん……。そうする。でも、でも、今は――」
「うん?」
「あたし……あたし、すっごく幸せだよ」
「紗智……!」
「せ、誠ちゃ――んんっ」
俺は無意識のうちに紗智の唇を奪っていた。どう思ってそうしたとか、理屈なんて頭に浮かばない。目の前にいる好きな女の子と結ばれた。ただその嬉しさだけが、俺の思考を駆け巡っていた。
初めての唇。ずっと一緒にいたのに、感じたことのない温度と感情。若干湿ったそれとの行為は時間が止まっているかのような感覚に陥ってしまう。
「せ、せいちゃ、はむ、あぬ、んちゅ……」
正直、紗智とこういうことをする想像をしたことがないわけではなかった。そのときはずっと一緒にいる女の子とするなんて、気恥ずかしくて出来るわけがないと思っていた。でも――
「んむ、ちゅっ、んっ、ひゃむ……」
さっきから、やめられない。恥ずかしさやためらいなんて、微塵も感じることが出来ない。キスだけでは抑えきれない高揚感はいつの間にか、お互いの唾液を交換しあうほどになっていた。
「せい、ひゃん、はうむ、しゅる、ちゅむ……」
これまで飲んできたどんな飲み物なんかより、甘くて潤う。もっと欲しい、もっと飲みたいと、俺と紗智は何回も何回も、出来る限りの唾液をお互いの口内に送り込む。
「ちゅく、ちゅっ、あっん、ぷあっ……」
口内に存在する2人の肉厚を思うまま絡めていく。表面のザリザリしている部分が程よい刺激になって、さらに唾液の量は増していく。押し付け合っては滑って、相手の口内に侵入しあう。何度やっても飽きがこず、足りないほどだった。
「ちゅっ、んはあ……」
火照った表情をしている紗智の唇が――自らの液体で糸を引きながら――名残惜しそうに離れていく。まだやり足りないが息が保たなかった。
「せい、ちゃん……。あたし……」
「気持ちいいよ、紗智」
「えへ、あたしもだよ、誠ちゃん」
もはや俺の目に映っているのは、幼馴染の顔ではなく、愛しい女の子の顔だった。
「ねえ、誠ちゃん……」
「ん?」
「あの、その……」
紗智の顔は頬が火照り、見て分かるぐらい赤くなっていた。目を逸らせながら、たまに上目遣いでこちらを見てはなにかを言おうとしている。
「どうしたんだ?」
俺はわかりきった答えをわざと聞いた。
「そのね……も、もう1回、したいの……」
紗智の顔の火照りが一層、強くなったのがわかった。
「紗智……」
「んん……せい、ひゃあん」
再度、唇を重ねる。唾液のぬるぬるで重ねた唇は左右に滑ってしまう。だが、それさえも快感となって、俺たちは求め合う。
「ちゅる、んは、ちゅう、しゅむ、ちゅっ……」
数え切れないほど行った行為を再び実行する。中毒者にでもなったかのように、やめる気配がない。ずっとこの時間が続いてほしい。
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