25話 鷲宮誠の心

「よっしゃ、パンフレット全て終了だ!」

「お疲れさま、みんな」

「数が多いと時間かかるし、きついね~。麻衣ちゃん、大丈夫だった?」

「はい、この前の書類仕分けよりは楽でした」

「あれは思い出したくもないわね、筒六」

「そうだね、鈴ちゃん。今回は数も少なかったし、よかった」

「あ、そうそう、きぬ。パンフレットなんだけど――」

「どうしたね、鈴さん?」

「作りながら見てて思ったんだけど、この表紙のデザイン、もう少し手加えたり出来ないの?」

「手を加えるとは?」

「例えば、学園祭のロゴを――」

鈴下は適当にパンフレット一冊とペンを取って、表紙に描かれた学園祭のロゴを改造し始めた。

「こんな感じとか?」

「おー」

紗智から感嘆の声が上がる。

「これはまた……」

「後、目次欄も今の状態より――」

鈴下はパンフレットを開き、目次のページにも改造を施す。

「こっちのほうが目立つし、わかりやすくない?」

「すごいです」

「うむ……」

す、すげえ。ほんの1分足らずの描き込みで、ここまで良くなるなんて。つーか、絵うまいな。

「どう?」

「正直、感心している。しかし――」

会長は少し間を置いて、口を開く。

「鈴さんには申し訳ないが、今からこれに差し替えるには時間が足りない。非常に良い案ではあるのだが――」

「……ま、そうよね。言ってみただけだから」

「すまない」

「鈴下、こんな特技があったんだな?」

「な、なにがよ?」

「このイラストだよ。すげーうまいじゃん」

「こ、こんなのただの落書きよ」

「それでも上手だって。すげーな、鈴下」

「…………」

「鈴下?」

「な、なんでもない! それより、今日はもう終わりでしょ?」

「ああ、そうだな。みんな、本当にご苦労だった」

「会長、まだ学園祭まで1週間ありますよ」

「そうですよ、まだお仕事は残ってるんでしょ?」

「ああ、紗智さんの言うと通りだ」

「なら、その言葉は早いわよ、きぬ」

「最後まで気は抜けません、きぬ先輩」

「うん、ありがとう。もう少しの辛抱だ。みんな、よろしく頼む」

「この疲れを学園祭で弾けさせるためにも、あと少し頑張っていこう!」

「おー!」


「今日も疲れたな」

俺は窓の向こう側にいる紗智に本日の感想を述べる。

「誠ちゃん、ここのところ毎日それ言ってるよ」

「そうか?」

「そうだよ」

気づかぬ内に疲労が溜まってんのかもな。

「それもこれもお前が発端なんだけどな」

「なにが?」

「お前が会長の手伝いをするっていうから、こうなってんの」

「誠ちゃん、もしかして嫌だった?」

「そういうわけじゃねえよ。でも、昔からお前の言い出したことに巻き込まれてる気がするなって、思っただけ」

「そうかな?」

「紗智は誰でも仲良くなっちまうから、その人が困ってたら俺まで助けるのを手伝わされてるんだぞ」

「あ、あはは、ごめんね」

「ま、それがお前の持ち味なんだろうけどさ」

「え?」

「お前のそういうところ、すげえなって思うよ」

「…………」

って、なに言ってんだろうな。

「それは誠ちゃんだよ」

「なにが?」

「…………」

「紗智?」

「みんなさ、良い子ばっかりだよね」

「みんなって、手伝ってる連中か?」

「うん……」

「良い子っていうか、個性的っていうほうが合ってるような」

「良い子だよ、みんな」

「悪いやつがいないのは確かだな」

「だって、みんなを見てると不安になっちゃうよ」

「はあ?どういうことだ?」

「あたしにもね、まだそれがなんなのかよくわからないんだ」

「なら、俺にもわからんぞ」

「でも、もしかしたらそうなのかなって。それだったら、あたし……」

「さっきから、なんのこと言ってるかわかんねえぞ?」

「誠ちゃんは、最近なにかない?」

「なにかって?」

「心がモヤモヤするっていうか、気持ちが落ち着かなくなるとき――」

「それは――」

最近ってわけじゃないが、確かにそうなったことは少しだけある。でも、少し時間は経てば収まっていく。

「まあ、たまになら」

「なら、その時――」

「…………」

「誰かが頭に浮かぶ?」

「――っ!?」

何言ってんだ、紗智。誰かが浮かぶって……。

「意味わかんねえよ、なんだよ誰かが頭に浮かぶって。んなもんねえよ」

「そ、そっか。そうなんだ」

「お前、なんか変だぞ?」

「そ、それならいいんだ! 少し残念な気分でもあるけど……」

「だから、なにを――」

「ごめん、もう寝るね!」

「あ、おい!」

窓閉めちまいやがった。ったく、いきなりなんなんだよ。わけわからんことばっかり言いやがって。

「誰かが頭に浮かぶだあ?」

試しに誰か思い浮かべてみよう。

紗智は……まあ単なる幼馴染だ。

三原は……少し特殊な転校生だ。

会長は……完璧で頼れる生徒会長だ。

鈴下は……生意気だけど、良きゲーマー仲間だ。

仲野は……何考えてるかわかんねえけど、案外優しい後輩だ。

「別になんともねえな」

紗智はなにが言いたかったんだろ。

「考えてもしかたねえか」

寝よ。

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